ーLBH MEETS LBH North Reflectionー より
男がふと目覚めると足元に白馬が立っている。
普通そんなものが起きた自分の目の前に立っていたら驚くはずだったが男は何故だか全く不思議に思わなかった。
そしてその馬がとても愛おしく思えた。優しくなでて顔を摺り寄せる。
とても気持ちが落ち着いた。穏やかな空気が流れる。
これは神からの使者なのかもしれない・・・・。
数日前まで男は米資本の大手銀行で有能な為替ディーラーとして日々PCの数字と時間に追われる毎日を過ごしていた。仕事ぶりは実に高い評価を得ており年収は十億ウォンに届くほど。
しかし彼はただ仕事人間なだけではなかった。
好きな車に乗り、好きなワインを集め、好きな女を抱いた。ソウルの一等地にある超高級マンションに住み、ジムに通い、時には趣味で料理さえ作る。
男の特技は時間を思うがままに操ること。
忙しい中仕事を完璧にこなしながら遊びも完璧にこなしてきた。そしてそんな自分の人生を完璧だと思っていた。そしてそれに酔いしれる日々・・・・。
彼のそんな日常にふと石が投げ込まれた。
友人の死。
友はよきライバルだった。彼と同じように人生を謳歌しているように見えた。
死因は極度のストレスが原因と見られる心疾患。
確かに毎日何百億ウォンを動かすビジネスに神経をすり減らしていることは確かだったが巧く切り替えが出来ていると男は自負していた。
同じ仕事に就く友はそれがヘタだったのだろうか。
彼には友と自分の差が理解できなかった。
つまり・・・いつ自分が友のように病に倒れても不思議がないということ。
急に男は自分の人生について模索し始める。
この今の人生が自分の人生なのか・・。ここにいる自分がすべてなのか。やり残したことはないのか・・・。彼が優れていれば優れているほどその想いは強くなる。
すべてを手にしてきたという自信は消え、違う自分をどうしても見てみたくなる日々。
会ったことのない自分に無性に会いたくなる。
そんなある日彼は突然会社を辞めた。
周りの人間はもっと好条件のところに移ると思ったらしい。
何にも属さない生活。
今まで当然のように選ばれた人間としてレールの上を順調に走り続けてきた男にとってそれは初めての経験だった。
そんな彼が一番に思いついたこと・・・。
『旅に出る』
それは未知の世界に触れる手段。新しい自分を見つけるための入り口。
行き先はどこでも良かったが・・そうだ。友は雪が好きだった。
雪があるところを選ぶ。
男が旅に出ると知り、女が一緒に行きたいと行った。
男には断る理由がない。
女を連れ、ボストンバックひとつを持って旅に出た。
その女を愛していたのか。
愛していたと言われれば愛していたのかもしれない。
愛していなかったのかと言われれば愛していなかったのかもしれない。
彼女と雪の中の山小屋で一夜を共にした。
「ねえ、いつまで休暇をとったの?」男の腕の中で女はそう尋ねた。
「・・・ずっと。」
「それって・・・仕事辞めたってこと?」女はタバコに火をつけながら尋ねた。
「ああ。」短く答える男。
「そう。」女はタバコの煙を天井に向かってはきながらそうつぶやいた。
男が目覚めた時・・彼女の姿はなかった。
代わりに足元に佇む白馬が一頭。
男は不思議に思った。
「そう。」と言ってタバコの煙をはき出し眠っている間にふと消えた女よりも今足元に突然現れた白馬の方が自分のことをわかっているそんな気がした。
足の裏をくすぐる鼻先は女の唇よりも男を安心させた。
白馬をなで寄り添っていると女を愛撫し抱きしめている時よりもずっと幸せで満たされた気持ちになる。
ふと、気づくと白馬の視線の向こうに一枚のポスター。
夕べは気がつかなかった。
そこにはキューバ革命の指導者「チェ・ゲバラ」
以前に見た映画を思い出す。
題名は・・・そう『モーターサイクルダイヤリーズ』
若き日のチェ・ゲバラが自分探しの旅に出るストーリーだった・・・。
男はふと笑う。
新しい自分に出会うために仕事を捨てて来た自分はいい年をして若き日のチェ・ゲバラなのかもしれない。
医学生だったチェ・ゲバラはその旅でキューバ革命の英雄となる人生を選ぶ道を見つけた。
俺はこの旅でどんな人生を見つけるのだろうか。
そんなことを考えながら佇む男の腕を白馬が鼻先でつつく。
それは旅立つ合図。
男はひげをあたり、来るべき冒険に備える。
鏡を見て自分を見つめる。
きっと旅の後・・・・違う自分がこの中に立っている。
想像すると男の胸は躍った。
窓の外は一面の白銀の世界。空の青さが眩しい。
男は白馬に導かれるように雪上を歩く。
分厚いコートを着て手袋をしっかりとしていても凍てついた空気を肌に感じる。
コートの胸元に顔をうずめると自分の体温が心地よく伝わってくる。
そんな些細なことでふと自分に宿る強い生命力に気づく瞬間が妙に新鮮だった。
何もない雪で覆われた平原。辺りに人影はない。
足跡ひとつなく雪で輝くその場所は自分の未来か・・・。
一歩一歩残される足跡を見つめながらそれが今までに自分が歩んできた道のりのように感じる。
何かが変わったとしてもこうして日々新しい足跡を残しながら歩いていくことに変わりはない。
何も見えない雪原の向こうには何があるのだろう。
限りなく澄み切った青い空を見上げながら男はまた想う。
俺はどこに行くのか・・・・・。
「あ・・・キツネ?」
男の顔に笑みがこぼれる。
雪球を作り投げてみる。そう。子どもの頃はこうやって遊んだ。大人になってからもふざけあって遊ぶのは嫌いじゃない。
キツネが逃げていった今、自分の他に誰もいない雪原で誰に向かってでもなく雪球を投げている自分が妙に可笑しかった。
あてのない旅。制約のない時間。今までの自分に無かった世界がそこに広がっていた。
いつの間にか日は傾きかけていた。
夕日をじっと見つめる。
広大な大地に抱かれ大きな夕日を見つめながら
男は自分の生命力と自然の圧倒的な雄大さに妙な共通点を感じていた。
そして共に大きな存在である自分の命と自然に敬意の念さえ抱いた。
冷たい雪の上に倒れこむ男。
雪の冷たさが深々と身体に伝わってくる。
「生きている。生きている」自分の身体の熱がそう教えてくれた。
「そうだ。俺は生きている。」彼は自分の命をかみ締めていた。
白馬が遠く向こうで見つめていた。そして歩き出す。
出発の時間。
どこに行こうか・・・男は決めていなかった。
とりあえず、バス停まで歩き、来たバスに乗ることにする。
静かにバスが停まった。
客は男ひとり。自分ひとりのために走っている気がして男は妙にウキウキとした気持ちになる。
窓から首を出すと白馬がそっと追いかけてくる。
男は手で白馬を制止した。
「ここからの道にもう案内はいらないよ。自分で探すから。」
そう男がつぶやいた途端、白馬は雪の中に吸い込まれて消えた。
球を打つ音が響く。
夜、ふと立ち寄ったバーの片隅で男はビリヤードを見つけた。
「最近、やってないな・・」
学生時代、男はよく賭けビリヤードをやっては小遣いをせしめていた。
それも遠い昔の話。
「ナインボールか・・」
男が手玉を突くと綺麗に並べられた9個の球が一斉に飛び散った。
狙いを定め数字の番号順にボールを落としていく。
目標を定め計算しきっちり落としていくというこのゲームは男にピッタリな遊びだった。
綺麗に模範的なコースで球を順に落としていく男。
彼はふと順当な計算と全く違った場所に球を打ってみたくなった。
気持ちのいい音と共に予想だにしない軌道を描いて手玉はナインボールを穴に沈めた。
ボールを拾いながら男は想う。
「人生だって案外こんなものかもしれない」そしてふっと笑みを浮かべた。
明日・・・どこに向かうか・・。グラスを傾けながら考える。
喉に熱い液体が流れ込むのを感じる。
「暑いところも悪くない・・・か」
男は南の国へ向かうことを決め明日からの旅に思いを馳せた。
・・・・・・・・・・南へ続く
男がふと目覚めると足元に白馬が立っている。
普通そんなものが起きた自分の目の前に立っていたら驚くはずだったが男は何故だか全く不思議に思わなかった。
そしてその馬がとても愛おしく思えた。優しくなでて顔を摺り寄せる。
とても気持ちが落ち着いた。穏やかな空気が流れる。
これは神からの使者なのかもしれない・・・・。
数日前まで男は米資本の大手銀行で有能な為替ディーラーとして日々PCの数字と時間に追われる毎日を過ごしていた。仕事ぶりは実に高い評価を得ており年収は十億ウォンに届くほど。
しかし彼はただ仕事人間なだけではなかった。
好きな車に乗り、好きなワインを集め、好きな女を抱いた。ソウルの一等地にある超高級マンションに住み、ジムに通い、時には趣味で料理さえ作る。
男の特技は時間を思うがままに操ること。
忙しい中仕事を完璧にこなしながら遊びも完璧にこなしてきた。そしてそんな自分の人生を完璧だと思っていた。そしてそれに酔いしれる日々・・・・。
彼のそんな日常にふと石が投げ込まれた。
友人の死。
友はよきライバルだった。彼と同じように人生を謳歌しているように見えた。
死因は極度のストレスが原因と見られる心疾患。
確かに毎日何百億ウォンを動かすビジネスに神経をすり減らしていることは確かだったが巧く切り替えが出来ていると男は自負していた。
同じ仕事に就く友はそれがヘタだったのだろうか。
彼には友と自分の差が理解できなかった。
つまり・・・いつ自分が友のように病に倒れても不思議がないということ。
急に男は自分の人生について模索し始める。
この今の人生が自分の人生なのか・・。ここにいる自分がすべてなのか。やり残したことはないのか・・・。彼が優れていれば優れているほどその想いは強くなる。
すべてを手にしてきたという自信は消え、違う自分をどうしても見てみたくなる日々。
会ったことのない自分に無性に会いたくなる。
そんなある日彼は突然会社を辞めた。
周りの人間はもっと好条件のところに移ると思ったらしい。
何にも属さない生活。
今まで当然のように選ばれた人間としてレールの上を順調に走り続けてきた男にとってそれは初めての経験だった。
そんな彼が一番に思いついたこと・・・。
『旅に出る』
それは未知の世界に触れる手段。新しい自分を見つけるための入り口。
行き先はどこでも良かったが・・そうだ。友は雪が好きだった。
雪があるところを選ぶ。
男が旅に出ると知り、女が一緒に行きたいと行った。
男には断る理由がない。
女を連れ、ボストンバックひとつを持って旅に出た。
その女を愛していたのか。
愛していたと言われれば愛していたのかもしれない。
愛していなかったのかと言われれば愛していなかったのかもしれない。
彼女と雪の中の山小屋で一夜を共にした。
「ねえ、いつまで休暇をとったの?」男の腕の中で女はそう尋ねた。
「・・・ずっと。」
「それって・・・仕事辞めたってこと?」女はタバコに火をつけながら尋ねた。
「ああ。」短く答える男。
「そう。」女はタバコの煙を天井に向かってはきながらそうつぶやいた。
男が目覚めた時・・彼女の姿はなかった。
代わりに足元に佇む白馬が一頭。
男は不思議に思った。
「そう。」と言ってタバコの煙をはき出し眠っている間にふと消えた女よりも今足元に突然現れた白馬の方が自分のことをわかっているそんな気がした。
足の裏をくすぐる鼻先は女の唇よりも男を安心させた。
白馬をなで寄り添っていると女を愛撫し抱きしめている時よりもずっと幸せで満たされた気持ちになる。
ふと、気づくと白馬の視線の向こうに一枚のポスター。
夕べは気がつかなかった。
そこにはキューバ革命の指導者「チェ・ゲバラ」
以前に見た映画を思い出す。
題名は・・・そう『モーターサイクルダイヤリーズ』
若き日のチェ・ゲバラが自分探しの旅に出るストーリーだった・・・。
男はふと笑う。
新しい自分に出会うために仕事を捨てて来た自分はいい年をして若き日のチェ・ゲバラなのかもしれない。
医学生だったチェ・ゲバラはその旅でキューバ革命の英雄となる人生を選ぶ道を見つけた。
俺はこの旅でどんな人生を見つけるのだろうか。
そんなことを考えながら佇む男の腕を白馬が鼻先でつつく。
それは旅立つ合図。
男はひげをあたり、来るべき冒険に備える。
鏡を見て自分を見つめる。
きっと旅の後・・・・違う自分がこの中に立っている。
想像すると男の胸は躍った。
窓の外は一面の白銀の世界。空の青さが眩しい。
男は白馬に導かれるように雪上を歩く。
分厚いコートを着て手袋をしっかりとしていても凍てついた空気を肌に感じる。
コートの胸元に顔をうずめると自分の体温が心地よく伝わってくる。
そんな些細なことでふと自分に宿る強い生命力に気づく瞬間が妙に新鮮だった。
何もない雪で覆われた平原。辺りに人影はない。
足跡ひとつなく雪で輝くその場所は自分の未来か・・・。
一歩一歩残される足跡を見つめながらそれが今までに自分が歩んできた道のりのように感じる。
何かが変わったとしてもこうして日々新しい足跡を残しながら歩いていくことに変わりはない。
何も見えない雪原の向こうには何があるのだろう。
限りなく澄み切った青い空を見上げながら男はまた想う。
俺はどこに行くのか・・・・・。
「あ・・・キツネ?」
男の顔に笑みがこぼれる。
雪球を作り投げてみる。そう。子どもの頃はこうやって遊んだ。大人になってからもふざけあって遊ぶのは嫌いじゃない。
キツネが逃げていった今、自分の他に誰もいない雪原で誰に向かってでもなく雪球を投げている自分が妙に可笑しかった。
あてのない旅。制約のない時間。今までの自分に無かった世界がそこに広がっていた。
いつの間にか日は傾きかけていた。
夕日をじっと見つめる。
広大な大地に抱かれ大きな夕日を見つめながら
男は自分の生命力と自然の圧倒的な雄大さに妙な共通点を感じていた。
そして共に大きな存在である自分の命と自然に敬意の念さえ抱いた。
冷たい雪の上に倒れこむ男。
雪の冷たさが深々と身体に伝わってくる。
「生きている。生きている」自分の身体の熱がそう教えてくれた。
「そうだ。俺は生きている。」彼は自分の命をかみ締めていた。
白馬が遠く向こうで見つめていた。そして歩き出す。
出発の時間。
どこに行こうか・・・男は決めていなかった。
とりあえず、バス停まで歩き、来たバスに乗ることにする。
静かにバスが停まった。
客は男ひとり。自分ひとりのために走っている気がして男は妙にウキウキとした気持ちになる。
窓から首を出すと白馬がそっと追いかけてくる。
男は手で白馬を制止した。
「ここからの道にもう案内はいらないよ。自分で探すから。」
そう男がつぶやいた途端、白馬は雪の中に吸い込まれて消えた。
球を打つ音が響く。
夜、ふと立ち寄ったバーの片隅で男はビリヤードを見つけた。
「最近、やってないな・・」
学生時代、男はよく賭けビリヤードをやっては小遣いをせしめていた。
それも遠い昔の話。
「ナインボールか・・」
男が手玉を突くと綺麗に並べられた9個の球が一斉に飛び散った。
狙いを定め数字の番号順にボールを落としていく。
目標を定め計算しきっちり落としていくというこのゲームは男にピッタリな遊びだった。
綺麗に模範的なコースで球を順に落としていく男。
彼はふと順当な計算と全く違った場所に球を打ってみたくなった。
気持ちのいい音と共に予想だにしない軌道を描いて手玉はナインボールを穴に沈めた。
ボールを拾いながら男は想う。
「人生だって案外こんなものかもしれない」そしてふっと笑みを浮かべた。
明日・・・どこに向かうか・・。グラスを傾けながら考える。
喉に熱い液体が流れ込むのを感じる。
「暑いところも悪くない・・・か」
男は南の国へ向かうことを決め明日からの旅に思いを馳せた。
・・・・・・・・・・南へ続く
昨日、BS朝日で写真集特番を観れました
なんて良いタイミングなんでしょう。
じっくり読ませていただきます
あの伝説の「牛に引かれたイ・ビョンホン」以来ちょくちょく覗かせていただきしつこくTBまでいつもご迷惑じゃないかしらと・・びびりながらも楽しく拝見しております。読んでいただいていたなんてとっても嬉しいです。ドシロウトの超思い込み創作ストーリーですがまた是非読んでやってくださいませ。
これからも遊びに行かせていただきます。
あ・・私も『嫉妬の香り』珍しく毎週欠かさず見ておりました。あの意味のない魅力は凄かったです。
このコメのお返事を前に書いちゃいました。
特番・・・いいですよね。
ピアノの彼とか屋上の彼とか・・好き
ゆっくりご堪能ください。
『嫉妬の香り』はほんと笑わしてもらいました。終わってしまい残念です(笑)
良かった~そう言っていただけて。
これからも記事楽しみにしていますね~