わくわく!バンジージャンプするっ!

好きなものや気になることについていろいろ語ってみようと思います。

『LBH MEETS LBH』の旅のお供に・・『ある男の旅 南』

2006-08-05 20:50:02 | 創作文 LBH MEETS LBH
ーLBH MEETS LBH South Reflectionー より


南の国の雑踏は彼を雪原のように迎えてくれた。
男は何もなく音もない雪原と物と音に溢れかえる雑踏に同じものを感じている自分が可笑しかった。荷物を抱え知らない街の雑踏を歩いていると不思議と心が落ち着く。
紛れもなく男は一人だった。一人であることを満喫する。人は生まれてくる時も死ぬときも最後は一人。孤独は最高の友達かもしれない。孤独であることを楽しんでいる自分がとても愛おしく思える。
今は孤独であることを楽しみたい。男はそう思った。
ホテルにチェックインする。
非日常の世界に浸りたくなって部屋はプレジデンシャルスウィートをとる。
ベッドに座りルームサービスで注文したコーヒーを飲む。
花で覆われた部屋を眺めているうちにもっと非日常的なことをしたいという欲求が男を駆り立てた。
飾られていた花を水を張ったバスタブ一面に撒きいれる。
南国の花の香りが浴室に広がる。
そっと湯船に身体を沈めた。
男はほくそ笑む。
女が一緒の時だってこれはさすがにやったことがない。
会ったことの無い自分に会うという点では旅のコンセプトにピッタリな体験だ。
花の香りに包まれ窓から差し込む光にまどろみながらワインをラッパ飲みしタバコをくゆらせる。
慌しくシャワーを浴びる毎日。
浴室がリラクゼーションスペースでなくなったのはいつからだろう。
彼にとって浴室は戦場に向かうための準備を整える場でしかなくなっていたのかもしれない。とろけそうな甘い香りの中男は戦いに疲れた身体を癒すようにじっと目を瞑っていた。

昼間から水に浸かったせいか身体が酷く重い。
男は部屋でのんびりと過ごすことにした。
果物を見ても何となく食欲が湧かない・・・これはなんという果物だっただろう。そっとつついてみる。
ふと部屋の片隅に目をやると古ぼけた望遠鏡。
ただのオブジェなのか本当に使えるのか・・・男の胸は少年のようにワクワクと踊った。
そっと覗いてみる。
「あ・・・・・月」
空には儚げな月が浮かんでいた。
昼間に月が見えることは知っていた。でも、今までそれを実際見たことはない。
男は空を見ること自体この旅に出るまですっかり忘れていたのだから。
初めて観た昼間の月は美しかった。
静かにそっと佇んでいた。
男は満足だった。
また新しいものに出会えた。些細なことであればあるほど妙なもので嬉しくて仕方がない。
無性に楽しい気分になり部屋で暴れてみる。いろいろなものを望遠鏡で覗いてみる。
その時男はすっかり少年に返っていた。

男はちょっと気分を変えてホテルのロビーで本を読むことにした。
書店で手に取ったのは『Barbara Gowdy の The White Bone』
凶悪な人間から逃れるため安住の地を教えてくれる「白い骨」を求めて予知能力を持った象が一族と共に冒険の旅に出る。そこに描かれた愛や勇気や知恵。主人公の象が手に入れていくところが面白い。ワクワクしながら読んでいると一人の女と目があった。
少し怪しい匂いのする女。彼女が「白い骨」だとは思えないが冒険にはピッタリかもしれない。
男は女に声をかけディナーに誘った。

約束の時間までにはまだ間があった。身支度を整えホテルの周りを歩いてみる。
ふと覗いたホール。
部屋の真ん中にグランドピアノが一台。
そっと部屋に忍び込みピアノの蓋を開けた。
何だか悪いことをしているようなドキドキ感を胸にピアノのキーを叩いた。
澄んだ音がホールに響き渡る。
誰かがやってくる気配はない。
男はおもむろに座りなおし両手を鍵盤に乗せた。
昔、妹がピアノを習っていたころ見よう見まねで弾いていた。
実は自分では妹よりも才能があると思っていたことを男は思い出した。
そして弾きながら笑った。あの頃からずっと何に対してもそんな風に感じて生きてきた。
俺は才能がある。俺はすべてに完璧だ。・・・自信だけはいつでも人一倍だった。
大人になりその自信が揺らぎそうになると必死に努力を重ねその自信を揺らぎないものにすべく頑張ってきた。それが俺の人生。
後悔はしていない・・やり遂げてきた達成感もある。ただ・・・真っ直ぐ前だけを見て走り続けてきた自分が見てない風景があるような気がしてならない。
だからこの旅は前ではないところを見てみたい・・・・・。

そんなことを考えながらピアノをひいているとふとホールの入り口でべルボーイが咳払いをした。
そそくさと部屋を後にする男。
慌てている自分が可笑しくて笑う。
これも未経験。
庭に出ると睡蓮の花が咲いた池を見つけた。・・・
男は靴と靴下を脱ぎそっと池に足を入れる。
薄緑色の水は思っていたよりもひんやりしていた。
そっと足を動かすとそばにある睡蓮の花が揺れる。
水の中に蛙や魚はいるのだろうか・・・男は面白くなって覗き込みながら足を大きく動かした。
水面は揺れ睡蓮も揺れ・・・そしてまた静寂が戻る。
何度となく繰り返す。そして静寂の訪れた水面を眺める・・・足をバタバタさせている自分は今の自分。静寂の訪れる水面は・・・自分の人生なのか。
ふっと足の下を巨大な魚が横切った。男は慌てて足を水から出した。
そして笑った。魚は・・・・女か。

男は女と食事を楽しんだ。
そして明日また会う約束をした。女はランチをご馳走してくれるという。
行きずりの女と食事をして何もない夜。そんな夜も実に非日常的。

翌日は朝からとてもいい天気だった。
男は日差しを浴びようとホテルの屋上の立ち入り禁止区域にこっそりと忍び込んだ。
そこからは街が一望できる。読みかけの本を持って上がったがあまりの気持ちよさに本のことはどうでもよくなっていた。
大きく深呼吸をして思い切り飛び跳ねてみる。周りが空なのでまるで空を飛んでいるかのような錯覚に陥る。大の字に横になる。目を開けると青い空と雲。
同じ格好で同じ空を眺めているのに雪原で見た空とは全く違う印象に男は驚いていた。当たり前のことに当たり前に驚く。そんなことも忘れていたことに気がつく旅。
さあ、ランチに出かける時間だ。
男は立ち上がった。


実に不思議な空間だった。
ある廃墟の片隅。綺麗にセッティングされたテーブル。冷やされたシャンパン。
男が招待を受けた場所はそんなところだった。
女は途中で席をはずした。そして戻ってこない。
一体何が起こったのか・・・
男はこの不思議な空間に身を置きながらあらぬ想像をしていた。
きっと・・・この後何かが起こる予感。
少し過激な大人の冒険物語・・・
電話が鳴る・・女からだった。
出口の階段に着替えと行き先を書いたメモが用意してあるから着替えてくるように。彼女はそういうと電話を切った。
一体何を考えているのか・・不審に思いつつ指示とおり着替えた男は約束の場所に向かう。
階段を駆け上がるとそこには・・・女。
さっきまでの彼女とは打って変わった挑発的な服・・ほとんど布は身体を覆っていない。
彼女は男を見ると誘惑するようにじっと見つめた。
「選ぶのはあなた。私を抱いたらもっと刺激的な旅にご招待するわ。」
男はじっと考える。女を愛しているわけではなかったが・・・刺激的な旅という言葉が彼の好奇心を刺激した。
男は女を抱きしめた。そして求める。一体この先にどんな刺激的な旅があるというのか。

気がつくと男は一人廃墟にうずくまっていた。足元にはボクシングジムのチラシが一枚。
男は微笑んでそのチラシをぎゅっと握った。
「面白くなってきた。」
ウォーミングアップで流れる汗が心地よい。
身体を動かしている時、彼の脳細胞は真っ白になる。リセットしてまた新しく始まるのだ。
現地のボクサー相手に軽くスパーリングしてみる。やはり生身の人間が相手だと緊迫感が違う。彼は久々の快感に満足していた。
そして乞われるがままに腕相撲。負けたらまた刺激的な出来事が起こるらしい。
そして・・・男は負けた。
相手は言った。「24時間逃げ切らないと殺されるよ」
「え・・・うそだろ」
男は半信半疑のまま夜の街をうろつく。どう考えてもそんなばかなことがあっていいわけは無い。街を歩いていると視線が気になる。街角のあちこちで見られているような気配を感じる。
ふと男は走ってみた。すると数人の男が一斉に追いかけてくる。
その夜、男はホテルに帰ることなく一晩中街中を逃げ続けた。
とある廃墟に逃げ込んだ男は眠そうな目で朝を迎えていた。
外の様子を伺うとまだ見つかっていないようだ。
何でこんなことになったのか・・・確かに刺激的な旅だ。
あの女を抱いた時からこの悪夢のような出来事は始まっているのか。
ふと気づくといかつい男たちが廃墟に向かって走ってくる。
逃げ切れるだろうか・・。
壁際に追い詰められる男。
男は叫んだ。「クーニャンカーラッ!」
その瞬間男の意識は遠のいた。


男は目を覚ます。
そこは人気のない街角に停められた車の中。
外では火が燃え盛る。
「焼き殺されるのか・・」そう思う一方でその炎の美しさに見入る男。
車の外ではあの女がじっと男を見つめていた。
「どう?刺激的な旅楽しんでいただけたかしら。」そういうと意味ありげに微笑んだ。
「火遊びが過ぎてこんなに燃えてしまったわ・・・私をこんなにしたからおしおきかしら。どう?今度は水の中に行ってみない?」
男は周りの男によって割れたガラスが引き詰められた地面に押し付けられた。
「・・熱い・・・」そう思った瞬間彼は水の中にいた。
水の中なのに呼吸が出来る。いつから俺は魚になったのだろう。男は水の中でそんなことを考えていた。泳ぐ先には・・「あ・・あの魚」
上を見上げるとそこには睡蓮が浮かんでいた。


男は目を覚ます。そこはひとり取り残された廃墟の中のテーブル。
ランチのサラダにはもうハエがたかっている。
用意されたシャンパンクーラーの氷もすべて融けきっていた。
一体ここでどのくらい眠っていたのか・・・。
「刺激的な旅・・・ね。」男はそうつぶやき立ち上がると自嘲的な笑みを浮かべた。

ホテルに帰りシャワーを浴びシャツを着替え夕食へと向かう。
ふと立ち止まり階段の踊り場の壁面に目をやる。
昨日から何度となくこの前を通り過ぎているのに・・・何故今になって気になるのか。
男はその絵画をじっと見つめた。
「あ・・・・あの女」
そこには昨日抱いた女がいた。

夢か現か現か夢か・・・実は目が覚めたらいつものベッドの上で眠っていていつものありふれた日常が待っているのではないか。男には仕事を辞めたことさえ夢の中の出来事のように思えてきた。
「あの・・」
壁画の前で佇む男に女が声をかける。
今度はどんな女か・・・男は刺激的な夜に胸を躍らせた。
また新しい何かに出会える予感がする・・・・・。

                 THE END

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6 Comments

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ブログ1周年、おめでとうございます (さちこ)
2006-08-05 22:16:13
haruさん、『ある男の旅』のup、ありがとうございます。いろいろな思いがおありでしたでしょうに、新たに読ませていただいて、とても嬉しいです。

私も明日、旅に出ます。12日間の旅。そのお供に、haruさんの作品をプリントアウトしてもっていくことにしました。ちょっとサプライズなお土産話をお聞かせできると思います。

 暑さもこれからが本格的?なのでしょうか。どうぞ、お気をつけて。留守の間にどんな物語が展開しているか楽しみです。

返信する
おめでとうございます (ぺっく)
2006-08-06 21:47:33
こんばんは



1周年おめでとうございます



『ある男の旅』やはり好きです。

特に 「ささいなことがうれしかったりする」(でしたっけ?)が すごく納得です。かなりレベルが違う人生ですが、私も同意見です。



今頃で大変恐縮ですが、

私メールのお礼をちゃんとお伝えしたのでしょうか?

もしまだだったらすみません。

大事に何度も読ませてもらってます。

ありがとうございました。



これからもよろしくお願いします
返信する
探されていたのはワ・タ・シ (mimira)
2006-08-07 10:28:01
おはよーございますharuさん

日々の暑さにやられております。

昨夜またLMLの特番再放送見てしまい

再度写真集で復習しつつ床に就きました。

で、朝目が覚めてぼーっとしながらまた写真集みたら

最後の水中のお写真(あんまり好きではないけど)

「旅の最後に辿り着いたのは君、探してたんだよずっと」って彼にみつけられたように急に思ったのです爆死

なのでワタクシ的には『彼がワタシを探しあてるまでの軌跡写真集』とサブタイトルつけました

色々な見方ができるほんとに美味しい1冊です
返信する
私も連れてって~ (さちこさんへ)
2006-08-08 21:10:52
さちこさん、コメありがとうございます。今頃・・・どちらかしら。私をさらって欲しい・・・どこか行きたい・・PC持って。(笑)

お供にこれを連れて行っていただけるなんて嬉しいです。楽しいご旅行になるようお祈りしておりますね。

お土産話楽しみにしておりますよ~
返信する
いえいえこちらこそ。 (ぺっくさんへ)
2006-08-08 21:14:36
ぺっくさん、コメありがとうです~

嬉嬉・・お好きと言っていただけて。

そう。私も彼に会って以来「ささいなことが嬉しかったりしております。」

ちりも積もれば山となる

こちらこそお手間取らせてしまって・・すいませんでした。

大切にしていただいて・・感無量

こちらこそこれからもよろしくお願いいたしますね。
返信する
再放送!?聞いてないよぉ~ (mimiraさんへ)
2006-08-08 21:21:53
mimiraさん、コメありがとうです~

ぬぁにっ再放送だったんですか?

まあ、いいんですけどね。録画してあるから。でも、損した気分だわ。

さて。いいですね~

>「旅の最後に辿り着いたのは君、探してたんだよずっと」

『彼がワタシを探しあてるまでの軌跡写真集』

いいっすね~。

私、つい湯船にもぐりそうです。今夜。

で、ガシッっと腕掴まれたい・・・彼に。

私も実はあの水の中の彼はタイプじゃない。

けど包帯巻いてた時よりいい男に成長したわ~。

本当に一生もの。棺おけに一緒に入れてくれるよう娘に遺言残しました。
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