「a bittersweet life 」 序曲 第一話
少年は校門から出て歩き始めるとすぐ、後ろからつけてくる男たちの足音に気がついた。
(もう、この学校にも来られない。)
こんなことを何度繰り返しただろう。身を隠し、逃げ惑う生活。
彼には友達がいなかった。いつも一人だった。仲良くなろうにも彼に与えられた時間はいつも限られていたし、父親から誰かと親しくなることを禁じられていたから。
(あの角を曲がったらスタートだ。)少年はランドセルを背負いなおしながら思った。
彼は曲がり角にさしかかった途端、全速力で走り出した。
驚いた人相の悪い男たちが追いかけてくる。
少年は走りながらふっと笑った。
(これはゲームなんだ。)
彼はここに住み始めてから半年間のうちにこんな日のために用意しておいた逃げ道を走りながらそう思った。
そうでも思わないと子供にとってこの生活はあまりに辛すぎた。
物心ついたときからずっと彼は父と逃げ続けていた。
父が何故追われているのか・・・。少年にはよくわからなかった。
ただ、働きもせず毎日酒びたりなのに、何とか家族二人暮らしていく生活費を父が時々どこからか調達してくることを不思議に思っていた。
そして、いつも半年もすると人相の悪い男たちが現れて少年を付回し、逃げ帰った彼が父にそのことを話すとその日のうちに夜逃げをする。そんな生活の繰り返しだった。
(もう、うんざりだ。)少年は心の中でつぶやいた。
少年が男たちを撒いて家に何とかたどり着くといつものように父は昼間から酒を飲んでいた。
「父さん、またいつものおじさんたちに追いかけられたよ。」少年は父にそういった。
「なんだ、もう見つかっちまったか。お前が学校なんかに行くからだっ!家にいればいいものを。」
父はそういうと少年を殴りつけた。
少年は悔しそうに父をにらんだ。
「何だ、その目は。その目つきが気に入らないんだよ。そもそもお前さえ生まれなければ俺は今頃アイツと幸せに暮らしていたのに・・。お前が俺からすべてを奪ったんだ。これぐらいされても当然なんだよっ!」いつものように父は泣きながら少年を蹴った。
少年は蹴られながらいつも思う。
(何故、僕は生まれてきたんだろう。母さん、僕を生んですぐに死んでしまった母さん、父さんがこんなにまで愛している母さん、教えてよ。)
少年の視線の先にはこの家には不似合いなヴァイオリンのケースがあった。
母の唯一の形見。
ヴァイオリンは彼に語りかけてはくれなかった。
奏でるもののいない楽器はただのガラクタに過ぎない。
少年は父に蹴られながら人をこんなにも醜く苦しめる愛というものの恐ろしさを身体に染み込ませていった。
自分は愛なんかいらない。心などいらない。・・・・。
涙さえ枯れ、表情を変えることもなく蹴り続けられながらそう思った。
それから3年。
父は病気であっけなくこの世を去った。
最後の言葉は「お前さえいなければ俺はアイツと幸せに暮らせたのに・・」だった。
青年の顔が時折垣間見えるほどに成長した少年は笑った。
父は最期まで父ではなくただの男だった。
ひとりの女を異常なまでに愛し続けた男。
「愛で人生を破滅させるなんて・・・馬鹿げている。」
少年にとって父は「父になりきれなかった男」であり最後まで父ではなかった。
そして、母は自分を産んでくれただけだった。
父を失っても彼は孤独を感じていなかった。生まれたときからずっと孤独だったから。
彼は母を失った時に父をも失っていたのだった。
父が死んだ今、やはりそう思う。
「愛なんていらない。心もいらない。」
父の死と共にいつもの男たちがやってきてそして母の形見のヴァイオリンを持っていった。
それ以来彼が奴らに襲われることはなくなったが、同時に彼は母の思い出さえも失うこととなった。
そしてソヌは愛を知らず、冷ややかな、愛を恐れるひとりの青年になった。
少年は校門から出て歩き始めるとすぐ、後ろからつけてくる男たちの足音に気がついた。
(もう、この学校にも来られない。)
こんなことを何度繰り返しただろう。身を隠し、逃げ惑う生活。
彼には友達がいなかった。いつも一人だった。仲良くなろうにも彼に与えられた時間はいつも限られていたし、父親から誰かと親しくなることを禁じられていたから。
(あの角を曲がったらスタートだ。)少年はランドセルを背負いなおしながら思った。
彼は曲がり角にさしかかった途端、全速力で走り出した。
驚いた人相の悪い男たちが追いかけてくる。
少年は走りながらふっと笑った。
(これはゲームなんだ。)
彼はここに住み始めてから半年間のうちにこんな日のために用意しておいた逃げ道を走りながらそう思った。
そうでも思わないと子供にとってこの生活はあまりに辛すぎた。
物心ついたときからずっと彼は父と逃げ続けていた。
父が何故追われているのか・・・。少年にはよくわからなかった。
ただ、働きもせず毎日酒びたりなのに、何とか家族二人暮らしていく生活費を父が時々どこからか調達してくることを不思議に思っていた。
そして、いつも半年もすると人相の悪い男たちが現れて少年を付回し、逃げ帰った彼が父にそのことを話すとその日のうちに夜逃げをする。そんな生活の繰り返しだった。
(もう、うんざりだ。)少年は心の中でつぶやいた。
少年が男たちを撒いて家に何とかたどり着くといつものように父は昼間から酒を飲んでいた。
「父さん、またいつものおじさんたちに追いかけられたよ。」少年は父にそういった。
「なんだ、もう見つかっちまったか。お前が学校なんかに行くからだっ!家にいればいいものを。」
父はそういうと少年を殴りつけた。
少年は悔しそうに父をにらんだ。
「何だ、その目は。その目つきが気に入らないんだよ。そもそもお前さえ生まれなければ俺は今頃アイツと幸せに暮らしていたのに・・。お前が俺からすべてを奪ったんだ。これぐらいされても当然なんだよっ!」いつものように父は泣きながら少年を蹴った。
少年は蹴られながらいつも思う。
(何故、僕は生まれてきたんだろう。母さん、僕を生んですぐに死んでしまった母さん、父さんがこんなにまで愛している母さん、教えてよ。)
少年の視線の先にはこの家には不似合いなヴァイオリンのケースがあった。
母の唯一の形見。
ヴァイオリンは彼に語りかけてはくれなかった。
奏でるもののいない楽器はただのガラクタに過ぎない。
少年は父に蹴られながら人をこんなにも醜く苦しめる愛というものの恐ろしさを身体に染み込ませていった。
自分は愛なんかいらない。心などいらない。・・・・。
涙さえ枯れ、表情を変えることもなく蹴り続けられながらそう思った。
それから3年。
父は病気であっけなくこの世を去った。
最後の言葉は「お前さえいなければ俺はアイツと幸せに暮らせたのに・・」だった。
青年の顔が時折垣間見えるほどに成長した少年は笑った。
父は最期まで父ではなくただの男だった。
ひとりの女を異常なまでに愛し続けた男。
「愛で人生を破滅させるなんて・・・馬鹿げている。」
少年にとって父は「父になりきれなかった男」であり最後まで父ではなかった。
そして、母は自分を産んでくれただけだった。
父を失っても彼は孤独を感じていなかった。生まれたときからずっと孤独だったから。
彼は母を失った時に父をも失っていたのだった。
父が死んだ今、やはりそう思う。
「愛なんていらない。心もいらない。」
父の死と共にいつもの男たちがやってきてそして母の形見のヴァイオリンを持っていった。
それ以来彼が奴らに襲われることはなくなったが、同時に彼は母の思い出さえも失うこととなった。
そしてソヌは愛を知らず、冷ややかな、愛を恐れるひとりの青年になった。
もしかして、この小説、この少年は「甘い人生」のソヌの幼少期のお話でしょうか?
映画では全くソヌの家族が出てこなかったので、勝手に天涯孤独、と思い込んでおりましたが、こういうお話があってもおもしろいし、ソヌがなぜ愛に気ずかずにいたのか、納得できてしまいそうです。
でも、近頃のビョンちゃんって悲しい目、寂しい目がキラースマイルよりも似合ってしまうような気がします。
創作小説のアップありがとう
読み進めていきながら、この主人公の少年って。。。
あ~ソヌでしたか。
そんな不憫な過去をもつソヌだから冷酷で愛も知らずにいたのですね
最後の最後に気づいた愛さえ、あまりにも悲しいものでしたね。
愛すること、愛されることを知ることができたなら彼の生き方もまた、変わっていたでしょうに。。。
『甘人』観たくなりました。
karins様より教えて頂きまして、参りました。
別格ミンチョルにも匹敵するほどのソヌ中毒です。
劇場11回、DVDではもう、何回か見たのか分かりません。
ソヌに惹かれて止みません!
ソヌの生い立ちが知りたかったのです。
彼がああなってしまったわけを・・・
楽しみにしております。
UP有難うございました。
ごめんなさい。
karin様です。
わーい。今度はソヌだ。
「甘い人生」のソヌの悲しい瞳にどんな人生を過ごしてきたんだろうと考えますよね。
つづきまた、楽しみです。
あ、haruさん、皆さんこんばんわ~
うさるなさん、早速いらっしゃいましたね(笑)
ルビーさ~~ん(笑)
そうそう、ソヌのあまりに悲しい生き様に
ソヌ~~~私が愛を教えてあげる~
って方がいっぱいではないでしょうか?(笑)
haruさんがどんな風に、ソヌを描くのか楽しみに
しています
そうです。これはソヌのお話。
最初、ソヌという単語を一言も入れずに書いて
「誰でしょう」クイズにしようと思ったんですけど
あまりにあからさまで簡単すぎるのでやめたんですよ。(笑)
面白いでしょうか。そんな温かいお言葉をかけていただいて嬉しいです。
ちょっと悲しいお話ですがソヌを感じていただければと思います。
不憫でしょ~~ソヌ。
>愛すること、愛されることを知ることができたなら彼の生き方もまた、変わっていたでしょうに。。。
そうなんですよね~。
彼を無償の愛で包んでくれる誰かに出会えたら彼の人生は変わっていたかもしれないと思うと・・・
karinさんの妄想が一層味わい深くなりますねぇ~
>『甘人』観たくなりました。
最高の賛辞です。ありがとうございます。
是非この後もソヌの世界に浸っていただけると嬉しいです。
いつもkarinさんのお宅ではニアミスさせて頂いております。
そうですか。ソヌ中なんですね。
ミンチョル同様ソヌに惹かれている方が結構いらっしゃるんですよね。
ビョンホンファンの度量の大きさを感じ嬉しいかぎりです。
ソヌをそんなにたくさん観ている厳しい目に耐えられるかちょっと心配ですが。。。。
私なりの愛情をいっぱい注いで書きました。
ソヌを感じていただけるといいのですが。
是非感想きかせてくださいね。
この暗~い内容とkaosanさんの「わ~い!今度はソヌだ」のギャップがとても好き。
あの悲しい瞳がねぇ~
う~~~ん。気に入ってもらえるかなぁ~
段々心配になってきたぞっ!
とりあえず、読んでみてください。