前回 ムニューシン提案(対中国関税取り下げ)時に 米中摩擦が複雑化するターニングポイントと書いたが
どうやら 5月の決裂で方向性が見えてきたので、推測でしかないが、当面の争いの行方を考察してみようと思う。
1.米中交渉はなぜ決裂し、 5/6 トランプが 唐突に関税引き上げトゥイートしたのか。
(1)それまで、残すは構造協議「中国製造2025」までと迫ったそれまでの合意を、中国側が反故とする
文書を米政府に送付してきた。150頁にわたる草案を105頁とし、それまでの合意内容を反故に
するものであった。
(2)4月末までに送付してきたもので、 トランプトゥイートは受領後数日たってからのものであった。
という事実は ムニューシン ライトハイザーから述べられており、 中国副首相も こうなっては、
首脳どうしで 合意しない限り、中国代表団ではどうにもできないと 述べたと 報道されている。
(3)この陳述が 「まだ首脳間で合意の可能性が残っている」との市場の期待を生んだこと、トランプが
株式相場下落を食い止めるためのリップサービス(兼対中アピール)で、G20で習主席と会談する
つもりだと述べたことが、この市場の期待を助長したのだと考える。が、以下に述べるよう
太平洋分割を認めるつもりが米側に無い以上、中国譲歩の可能性はないのではなかろうか。
2.なぜここにきて中国は これまでの交渉を反故にしたのか。
(1) おそらく 中国側、米国側 双方の {前提条件} 解釈に基本的なズレがあったのではないか。
中国は太平洋分割論を アメリカが飲むことを 前提に、貿易交渉を行ってきた
(私自身も、交渉が順調に進んでいるという報道で、米国側がこの条件を前提に交渉しているのだと
ばかり思いこんでいた)アメリカ・トランプ政権(オバマ政権ではない。)はそんな考えは毛頭なく、
昔の対日交渉と同じく、構造協議までギリギリと押し通せばいいという考えであった。
前政権(オバマ)が太平洋分割論に乗り気だったことが、中国にこのような期待を生じさせたのだが、
そもそもオバマのレガシーの存在は認めないというトランプ政権ではそんな気は毛頭なかったのではないか。
(2)中国側もさすがに その前提が違うことに気づき、このままでは太平洋分割はおろか、20年前の日本同様
構造協議でボロボロにされると考え、また、日本と違い、米国とは覇権を争う アジアの盟主(中華)なのだ
という自負から、「抗戦」という180度 逆の方向に進みだしたのではないか(中国内で「長征」が
もちだされたこと、アジアの防衛相の安保会議での、中国国防相の発言「かかってこいや」がこれを示して
いるのではないか。)
3.中国は アメリカとの戦争を覚悟していると 考えたほうがいいのかもしれない。
ロシアや 欧州への接近 は、 アメリカの封じ込め政策に ソ連がうちだした 平和外交にも似ている。
三橋一島といって かっての中ソ軍事衝突の場はいまや両国友好のシンボルらしい。
その一方で 国内の思想統制は厳しくなっており、チベット・ウイグルの洗脳政策も徹底度をましている。
(天安門事件30年の6/4の戒厳令さながらの警戒は、まるで これから かっての文化大革命の 毛沢東に
習近平がなるのではないかとも心配するほどである。)
4.まずは6月のG20の場で どのような動きがでてくるであろうか。 特に中ロ と欧州の 動きに要注意だと考える
中ロは虎視眈々と 米国非難の機会を狙っているのではないか。 これまで国際会議でメルケルが中心になってトランプに
反対する発言をしていたので、欧州(とくにドイツ)を味方にして、首脳会議で米国非難の共同声明をまとめようと画策
してくるのではないか。囲い込まれる前に米国を囲い込もうとする 狙いがあるのではないか。
米国は 自陣営のブロック経済圏をできるだけ広範囲に形成しないと、中ロ経済圏(特に一帯一路)に自分の経済圏が
奪われるという危機感をまだ 覚悟していないが、中ロは(すでに経済制裁を受けているロシアは特に)包囲網が作られる
前にできるだけ 自分達の勢力圏を広めないと生き残れないとの強い危機意識でG20にも臨んでくるのではないか。
アメリカも対抗して自国経済圏を広く確保しないと、中ロに経済圏・主導権を奪われると考えるのだが、現段階では
トランプ政権は米国しか視野に入っていないため、中ロに足元をすくわれ自経済圏を奪われないと、その必要性に
気づかない可能性が高いのではないかと心配している。対メキシコ関税などこの自覚が全くないことの証拠だろう。
で、最もその危険の高いのが欧州で、ついで 東南アジアのいままでは アメリカよりと考えれれていた国々
(タイ。フィリピン。インドネシア・マレーシア等)ではないか。(ラオス・カンボジア・ミヤンマ・(ベトナム)は
すでに中国の経済圏。ベトナムをTPPに組み入れた日本の功績は大といいたいが。。)
5.中ロが緒戦で、どこまで(自国経済圏を守るという意識のない)アメリカを追い詰めることができるかが、
大きな戦況の要因となると考えるので、今回のG20はそのような観点から注意深く観察する必要があると考える。
6.日本は中国からは確実に敵である、いくら対日関係が改善しようと、その歴史からも間違っても味方とされることはないし、
日本には、アメリカの同盟国として生き延びるしか道はない。間違ってもドイツと一緒にアメリカをたたいたりすることの
ないよう。また、無理にアメリカ側にたって中ロ(欧)からの総攻撃の対象となったりしないよう、「議長国」として
中立を守る姿勢を貫くことで、米国への総攻撃を防ぐ(少なくとも議長国として総攻撃「袋叩き」には加わらない)
しかないのではないか。米中に関税障壁を撤廃させ自由貿易を合意させることを議長国に期待できるような そんな
状況では なくなっているのではなかろうか。(日本にとってはシーレーンが確保され、極東アジアが
平和であれば、太平洋の管理者は誰でもいいのだが、米中はすでにその太平洋分割という方向性は視野に
いれていないと当面(少なくとも次期大統領選挙が終わるまでは)みるべきではないか。)