雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」から(32)




韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」から(32)


 住所を確かめてキジョンは車に戻った。そこでもう一度クムスンの写真を見直す。
 キジョンの胸中は複雑だった。
 妻のヨンオクは捜さなくていいと言っている。しかしキジョンの胸中では、妻にもう一度手術を受けさせてやりたい、二人を母娘として会わせてやりたい、思いが複雑に交錯していた。

 ジェヒはウンジュを家まで送ってきた。
「今日はありがとう。母さんが喜んでいたよ」
「私も楽しかったわ。家族といるよりもずっと」
「・・・」
「私は家族の中で浮いてるの。継母の病気もあって」
「・・・」
「私はみんなみたいに心配ができない。それを感じて、ウンジンなんかひどいものよ。実の娘なのかと言って私を責めるんだから」
 ジェヒは瞬きをした。
「まだ、異母姉妹だと知らないの」
「そうなのか」
「本当は私も取り繕って継母の心配をすべきだけど、偽善者っぽくて嫌なのよ。でも、妹には腹が立つわ。遠慮なく非難を浴びせてくるから」
「十年以上経つのに?」
「あなたも私を非難するつもり?」
「・・・」
「父が再婚してからは非難されてばかり。別に慰めてくれなくてもいいわ。だけど非難はされたくない。もう行って」
「どうしたんだ。ただ、聞いただけだよ。浮いてるんなら孤独だと思って。本当は寂しいんだろ?」
「・・・」
「母親とも打ち解けた方がいい」
 ウンジュは不満そうにする。
「膨れるなんて幼いな」
 今度は笑った。
「明日、一緒に映画を見るか? 今日のお礼として、フルサービスをするよ」
「予想が当たったわ」
 ウンジュは笑顔になった。
「私が孤独だとわかってくれたから。ありがとう。継母との関係で、被害者でもあると――誰かに知ってほしかったわ」

 クムスンは洗濯しながらも、他のことに気を張っていなくちゃならない。
 ハッとしてトイレ兼洗濯場を飛び出していく。リビングでは家族がテレビに見入っている。その横をキッチンに向かってクムスンは走る。
 ガスの火をあわてて止める。これでは大きな失敗につながりかねない。
 クムスンは決心して家族のところへやってくる。
「お二人に相談があるんですけど・・・」
「そうか。テレビを消せ」とピルト。
 クムスンは率直に話し出す。
「お義母さんが怪我をしてて、私は美容師の仕事で働きに出てます。だから夜に頑張っても家事が終わらないんです」
「それで?」
「男性陣の助けをお借りしたいんです」
「どんな風に?」
「お義父さまとお義兄さんは――床の掃除をしてください。私は洗濯と炊事をやりますから」
 ジョンシムは血相を変えた。
「何てこと言い出すの?」
 クムスンは畏まっている。
「甘やかしてたら調子に乗っちゃって」
「頭ごなしに叱るな」
「だって呆れるじゃないの」
「お義母さん、一人ではお手上げで・・・」
「お黙り! ありえないことだわ」
「そういうな。状況次第では・・・」
「嫁が舅を働かせるってどんな状況よ。次の日があるじゃない。疲れてるから押し付けるつもりでしょ」
「そんなつもりでは・・・」
「何がそんなつもりよ。働きに出てるから手伝えってことじゃないの。仕事を持つ身よ」
「本当に違うんです」
「テワンは家で遊んでるからやらせるわけ?」
「そんなこと考えてません」
「なら何よ」
「・・・」
 ジョンシムが怒り狂い、ピルトも相談に乗るタイミングがつかめず顔をしかめた。
「もし私が嫁だったら、姑の怪我が治るまで美容院を辞めると言ってたわよ。でも我慢してたの。それを何? 見逃してたら何を言い出すのやら」
 クムスンは下を向いている。
「すみません・・・楽しようなどとは思ってないんですけど・・・」
「呆れ果てるわ。家庭環境が現れるのね。祖母にそう言われた? お前が疲れたら舅に手伝ってもらえ、と」
 クムスンの表情は引きつる。ピルトはジョンシムをにらみ不快そうにする。テワンまで、それはないだろ、の顔になった。
 クムスンはすっかりしょげ返ってしまった。

 部屋に来てピルトは言った。
「そんなにカッカすることかよ」
「当然でしょ。ここは嫁ぎ先なのよ。あまりに好き勝手が過ぎるわ」
「そうだとしても、家庭環境云々を語るべきだったか?」
 テワンは頷いている。
「いくら腹が立って爆発しそうでも、我慢すべきことはあるんだ」
「・・・私はあの発想自体が理解できないの」
「何が理解できない? 時代は変わったんだぞ。今の男は手伝うってお前が言ってただろ」
「面白い話をしようか」
 テワンが切り出した。
「あなたが何言い出すの。いいから部屋に戻って」
「まあ、聞いてよ。先輩が結婚して奥さんに、家事の分担を決めようと言われたんだ。先輩が掃除と皿洗い。奥さんが洗濯と炊事だ。見栄を張る慶尚道男児だから――しばらく続けてた末に腹が立って言った。還暦になった後も洗わせるのか、とね。そしたら奥さんいわく、還暦から断食するの? だとさ」
「・・・」
「聞いたろ?」とピルト。「今はそういう時代なんだ」

 洗濯を続けるクムスンに腰の痛みも押し寄せる。クムスンは顔をしかめながら洗濯を続ける。

 シワンは酔っ払ってソンランのマンションの前に立った。そこから彼女に電話を入れた。
 ソンランは不機嫌そうに外へ出てきた。
「こんな遅くに何よ。酔ってるの?」
「飲んだけど、まったく酔ってない」
「・・・酔ってるわ」
「酔ってない」
「酔っ払いの口癖ね」
「やい、ハ・ソンラン。バカにするな。俺は酔ってないと言ってるだろ」
「酔ってるわ」
「お前・・・なぜ隠してた? あんな話は前もってすべきだろ」
「話したでしょ。知ってると思ったの」
「最初はそうだろう。だが、途中で俺が知らないと気付いたはずだ。違うか?」
「・・・そうよ。ある時、それに気付いたわ」
「なぜ隠した。話してみろ」
「なぜあなたに話さなきゃいけない?」
「何だと?」
「あなたに教えるべきなの? ごく個人的なことだし私のプライバシーでしょ。なぜそれを話さなきゃいけない?」
「・・・」
「誰かと会うたびに過去の恋愛遍歴をすべて話せと言いたいわけ?」
「そんな問題じゃないだろ。単なる恋愛だったか? 結婚と離婚を経験し――子供までいる」
「そうよ。だから?」
「だから、だと?」
「だから何なのよ。だから・・・なぜ話すべきなの? 結婚前提でもないし・・・あなたの心の中なんか見えないわ」
「・・・」
「あなたの気持ちも分からないのに、私の方からバツイチの子持ちだと宣言しなきゃいけないの? 離婚した人は相手の許可が必要なわけ?」
「許可を言ってるんじゃない。最低限の情報だ。お前がどんな女なのか、ある程度は知って交際できるに越したことはないだろが」
「情報? ええ、悪かったわ。あなたに十分な情報を提供できなくて。これでいい?」
「・・・」
「謝ったからいいわよね。私はもう戻るから」
「お前はなぜそう強気なんだ? 堂々とできるほど、俺を軽視してるのか? 俺は単なる暇つぶしだったのか?」
「・・・帰って。もう、時間も遅いわ」
「まだ終わってない」
「酒が入ってる」
「入ってない」
「話すならしらふで話してよ。帰って」
 ソンランは部屋に引き揚げていく。
 シワンはその背に怒りと苛立ちをぶつけた。
「ソンラン! なぜ答えない。俺は暇つぶしだったのか?」
 ソンランはいったん立ち止まったが、振り切るように歩き出す。

 シワンは泥酔して家に帰りつく。テワンが表門の鍵を開けてやった。
 シワンは脱いだ靴を後ろに放り投げ、部屋に入っていった。
「泥酔だな・・・」
 兄を迎えに出てテワンはふと気付いた。
 クムスンがキッチンのテーブルに伏して眠りこけている。
 テワンがいくら呼びかけても返事がない。こっちは泥のように眠っているのだ。
 この時、テワンはクムスンの腰の怪我にも気付いた。
「これで働くなんて無茶だ。バカやってるよ」
 いくら呼んでも目を覚まさない。
 テワンはやむなくクムスンを抱きあげて部屋まで運んだ。フィソンの横に寝かせてやった。

 シャワーを浴びて部屋に戻るとミジャがジュースを運んでくる。
「楽になったわ。眠ったらすっきりした。久しぶりに寝起きがよかったわ」
「今まで寝苦しかったの?」
「そうよ。一人息子が薄情でしかたないから」
 顔をしかめていう。
「私は更年期のうつ症状があるのよ」
「更年期って閉経のころでは? 母さん、まだ生理がある?」
 ミジャは呆れて息子を見る。
「だから母親には娘が必要なの。息子とは話せないことも多いから」
「俺は医者だ。恥ずかしがることはないさ。――まだある?」
 ミジャはちょっと考える。
「私が言いたいのはそれじゃなくて・・・結論からいうわ。ジェヒ、早く結婚しなさい」
「それはまたどういうことよ」
「嫁が必要なの。嫁と孫がいる広い家で仲良く暮らすことが夢よ。昨日、ウンジュのおかげで、久々にここが家庭らしかった」
 ジェヒはベッドの縁に腰をおろした。
「どうしたもんかな・・・俺はまだ結婚したくないんだけど」
「なぜいらないのよ。健康な男だったら女性を必要としなきゃ」

 クムスンはスープを運んできた。
「お義母さんの好きなナズナのスープです」
 スープを置いてからいう。
「お義母さん・・・昨日は私が悪かったです。もう怒らないでください」
 ジョンシムは黙ってクムスンを見る。そんなジョンシムをピルトは見る。スープをひと口すすって感心する。
「これはほんとにうまい。やはり春はこれだな。お前も飲んでみろ。きっと気に入るぞ」
「美味しいですか?」
「ああ、美味しいよ。お前の口に合うかな。さあ、食べてみろ」
「みんなと一緒によ」
 ジョンシムはシワンたちを呼んだ。
 シワンとテワンが出てくる。
 ジョンシムは本を取り出し、シワンに見せる。
 しかし、シワンにとっては時期が時期で愉快な話題ではない。周囲の期待に反し、シワンは不機嫌そうだった。

 ジョムスンとスンジャは今日も対立している。スンジャはクマがフィソンの送り迎えをすることが気に食わない。向こうの家族は何してるの、というのが言い分である。 
 頭にきたジョムスンは自分でフィソンを迎えにいくといって家を出る。クマがあわてて追いかけてくる。
「おばあちゃん、私がいってきますから」
 家に戻ってきたジョムスンは雑巾がけしているスンジャの尻を拳固で叩きたくて仕方がないのだった。

 キジョンはヨンオクに切り出した。
「そろそろ捜してみてはどうだ」
「誰をです?」
「お前の娘だ」
 ヨンオクは表情を険しくする。
「もう大きいはずだろ。23歳か24歳にはなってるよな。女の子だから理解してくれるかも・・・」
「理解? 何を理解すると?」
 ヨンオクは興奮する。
「あなた、今日はどうしたのよ。アンナ番組を見るなんて・・・もう十数年よ。娘を死んだ者のように扱い、一度だって話題にもしてこなかったのに・・・」
「それは・・・お前が苦しむから」
「苦しむですって? 血を吐いたわ。人でなしの私がどうして苦しむの。私は人間なの? そんなわけないわ。それに・・・言い訳しないで。あなたも・・・決して私に気遣って黙ってたわけじゃないでしょ。あなた自身やお義母さまのために・・・」
 興奮したため、ヨンオクは身体のバランスを失った。キジョンはあわててヨンオクを支えた。
 ヨンオクはその腕を振り払う。
「平気よ。ほっといて――私はあなたを信じてた。心から、信じてたわ。約束どおり――あの娘を引き取れると思ってた」
「・・・」
「私を信じられなくても、あなたは違う。私みたいに弱く、罪深くないし、強く正直な人だから」
「あの時は・・・」
「そうよ。ウンジンを身ごもったし――お義母様が病気だから言えなかったわね。ええ、誰のせいでもないわ。私が悪いのよ。そもそも幼い赤ん坊を捨てて、自分の身を守るために逃げた私が悪魔よ。誰も悪くないわ」
 ヨンオクの目から絶え間なく涙があふれ出る。
 そんな彼女をキジョンはじっと見つめる。
「だからね。2度と・・・この話を出さないで。入院してたときに言ったでしょう。私が死んだとしてもあの娘に知らせるなと。これはお願いではなく・・・警告よ」
「・・・」
 部屋を出ていこうとしてヨンオクは立ち止まる。
「またこの話をするときには、あなたとは・・・別れるから」
 そう言い置いて彼女は部屋を出て行った。
 部屋に戻ったヨンオクは悲しい記憶に触発され、溢れる涙を抑えきれなかった。




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