雨の記号(rain symbol)

URAKARA6話(1)






URAKARA6話(1)




 ニコル主演、今回のストーリーはミュージカル仕立てで始まる。
 自由で、奔放で、あけっぴろげで飾りげのないニコルは誰からも好かれて町内の人気者だ。
 一緒に出かけたメンバーとはぐれ、町のみんなと歌って踊り、買い物を一人で満喫するニコルなのだった。
 他のメンバーが焼き芋食べながら心配しているところにニコルは戻ってきた。
「どこに行ってたの」
「こんなに買い物しちゃってどうするの?」
 五人揃うと彼女らは騒がしい。
 日本ではまだ駆け出しでも、韓国からやってきた人気ガールズ・グループである。スクープ写真を狙ってうごめくパパラッチの餌食になり、安売りバーゲンにたかっているところをバッチリ狙い撮られて写真週刊誌の特ダネにされてしまう。
 そんな彼女らの行動をマネージャは心配でならない。
 (KARA)の歌にぞっこん惚れこんでマネージャを引き受けた関西のぞみは、それにもめげず精力的に彼女らの売り込みで駆けずり回っている。
 そして今日もひとつ仕事が入ったのだが、テレビ局に来てまたニコルがいなくなった。収録が始まるのはもうすぐだ。メンバーは必死になって局内を探し回るが、見つからない。
 スンヨンが関西のぞみに訊ねた。
「関西さん、どうしますか?」
 関西マネージャは深刻そうにしながら切り出した。
「こうなったら・・・あんたらKARAは四人組やいうことでいくか。それとも、私を入れた五人組やいうことでいくか・・・」
 メンバーはシラーッとなった。スンヨンは顎を出すように口を開け、ジヨンは画面から消えた。ハラはうそ寒い表情を天井に向けた。
 ギュリだけが真剣に反応した。
「どっちもいやです」
「はい」
 この時、部屋でジヨンの声がした。
「見て、ニコルだよ。あっははは」
 関西マネージャは額に手を当て「私、帰らせてもらうわ」と呆れたが、どうやら無事CM撮影に入れそうな按配となった。

「おはようございます」
 メンバーはスタッフに挨拶しながら収録現場に入った。社長2号が説明を始めた。
「今日のCM撮影は、残念ながらみなさんは脇役です」
 マネージャは言った。
「でも、次につなげるため、精一杯頑張るんやで」
「はい」
 メンバーは元気よく返事した。
 いよいよだ。
「ア・ユゥレリー・アクション!」
 監督の一声でCM撮影が始まった。
 主役女性の後ろで脇役らしく地味に踊っていたKARAたち。だが、ダンス得意のニコルが気分を出しすぎ、いきなり主役の前に躍り出る。
「キュッ! キュッ! キュッ!」の奇声とともに後ろ歩きのパフォーマンスなどやりだす始末だ。
「フンギャーッ! ×▲!・・・! そこッ! そこッ! あんただよ」
 監督は怒りとともにカットを入れた。
 ニコルのミステークでCM撮影は最初からやり直しとなった。
 マネージャの関西のぞみはKARAのメンバーを引き連れ帰りを急ぐカレンに詫びを入れさせた。
「今日はうちのニコルのせいで収録が長引いてしまって、ほんま、すみませんでした」
 マネージャに続いてKARAのメンバーも深々と頭を下げた。
「ほんま、すみませんでした」
 この瞬間をパパラッチは狙っていた。逃さなかった。若い男がカメラのフラッシュを焚いて逃げて行った。みなで追いかけたが追いつかない。後の祭りだ。

 この様子を見守っていた社長2号はニコルにミッションを与えた。
 ミッションと聞いてニコルは嬉しそうにした。メンバーはみんなこれをやった。自分だけが残っていた。
 自分の相手はどんな人かな?
 社長2号の胸からプリント紙がゆっくり押し出されてくる。
 ターゲットの名は武田一馬。23歳。職業はパパラッチ。自分たちを執ように付け狙うあの男だった。
「パパラッチ?」
 二人は写真週刊誌「presure」を手にし、男の撮った写真に眺め入った。
「二つとも撮ったのはこの男です。彼を惚れさせて、ひどい写真を撮らないよう説得してください」
 ニコルは指で輪を作った。
「OK」
「何だか楽しそうですね」
 男に撮られた写真を示しながらニコルは気分よさそうに答えた。
「私、よく撮れてるでしょう?」
「それは、まあ・・・」
「このパパラッチはきっと腕のいい人なのよ」

 白の帽子を目深にかぶり、赤のコートで変装してニコルは囮行動に入った。
 自分の動きにつれてターゲットのパパラッチも動き出す。
 漆原カレンを真似てるわけじゃない。自分も赤が好きだ。情熱の赤こそが冷静な男の観察の目をを惑わす。彼女は漆原カレンになりきるとともに自分の演技も楽しんでいた。
 ルンルンルン。ニコルの足どりは軽い。
「えー・・・現在、漆原カレンを尾行中。ひょっとしたら、男との密会現場を押さえられるかもしれませんね」 
 すると、赤コートの女は勢いよく逃げ始める。
「あっ? 逃げた・・・」
 あわてて追いかけてきたものの目標を見失ってうろたえるパパラッチの前にニコルは立ちはだかった。
「デート写真は撮れないよ。だーって、私、彼氏、募集中だから」
 サングラスを外しながら、彼女の表情は弾ける。
「こんにちは。KARAのニコルです。チュチュッ!」
 そう言って男の腕を取った。
「パパラッチの武田さん。お時間ありますか」

 ニコルの誘導で二人はカフェラウンジに落ち着いた。
「事務所の人間はいつ来るんだよ」
 辺りを不機嫌そうにうかがいながら武田は訊ねた。
「えっ、違うよ。事務所の人は誰も来ません」
「俺はやめないからな」彼は居直りを見せる。「あんたたちは俺たちのことをクズ呼ばわりするけど、俺に言わせりゃ最初から撮られるようなことしなきゃいいんだ」
 武田の顔を見てニコルは訊ねた。
「武田さん、仕事楽しい?」
「・・・」
「パパラッチの仕事楽しい?」
「・・・楽しいとかそういうんじゃないんだよ、俺たちの仕事は」

 ニコルを除いたメンバーたちは関西めぐみを中心に、男たちの思い描く「理想の彼女度」テストを受けて沸き返っていた。自由に恋の出来ない彼女らは「男の理想度」最低ランクに落ち着いた。しかしメンバーらは「ええっ!」と驚きは見せたもののそれほど落ち込んでもいない。
 この頃、ニコルは鼻歌まじりで料理作りに励んでいる。
 この様子に気付いてハラとスンヨンは怪しんだ。
 みんなが出かけた頃、武田はKARAの合宿所へやってきた。
「さあ、入って」
「ほんとにいいのか?」
「はい。みんな出かけてるから」
 武田は部屋を見回してつぶやいた。
「KARAが共同生活してるって本当だったんだ」
「さあ、入って、入って入って、入って」
 アップテンポのリズムに乗って、カメラは部屋の様子を追った。ここがKARAたちがふだん過ごす部屋だ。
 ニコルはルンルンと武田を奥に誘った。
「さあ、食べて」
 テーブルにはニコルの作った料理が並んでいた。
「武田さんのために、頑張って作ったよ。肉じゃが、オムレツ、ホットケーキ」
 ニコルは武田が自分の料理に舌鼓を打つのを興味津々で眺めた。
 私の作った料理、この人の口に合うかなあ・・・。
 武田はニコルを見て言った。
「美味い」
「だろう」
 その様子を窓からハラとスンヨンが窺っていた。
「この人は誰? 家に入れたらまずいんじゃない?」
 ハラの疑問にスンヨンが答えた。
「やっぱり、ミッションなのかな?」
「ミッション?」

 食事の後、ニコルは武田の前でポーズをとり写真を撮らせた。
「イチ、ニー、サン」
 カメラのシャッター音。
「イチ、ニー、サン」
 カメラのシャッター音。
「飛び切りの笑顔、いくよ。スキ、チー」
「ダメだよ、それじゃあ・・・」
「どうして?」
「俺は自然のものを撮りたいんだよ。だから、こっちを見ないで」
「わかった、カメラ見ない」
 ニコルはしぶしぶ納得した。自然なしぐさを取り出した。
「そうそう、そんな感じで・・・」
「はい、チーズ」
「だから、こっち見るなって」

「楽しい写真、いっぱい撮れてるよ。すごい!」
 パソコンで写真の出来上がりを確認して手を叩くニコルに武田は訊ねた。
「だが、どうしてなんだ」
「えっ?」
「どうして俺にこんな写真撮らせるんだ」
「う~ん、武田さんならきっといい写真撮れると思って」
「・・・」
「約束してね」
 ニコルは武田の手を取り、その小指に自分の小指を絡ませた。
「いつか私の・・・かわいい写真集出してね」
 そう言って親指と親指をくっつけた。


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