雨の記号(rain symbol)

URAKARA6話(2)―KARA





URAKARA6話(2)―KARA



 しかし・・・
「三日後、週刊誌に載っていたのはニコルが一番見たくない写真でした・・・」

 合宿所は大騒ぎだ。
 写真週刊誌「presure」は、「KARAの合宿所へ本誌記者が突撃取材」と銘打ち、ニコルの写真入りでデカデカ特大ページを組んで発売されたからだ。
 
 ニコルが週刊誌を開いて自分の写真の載ったページに見入っている。
 他のメンバーも横からこの週刊誌に見入った。

 ――KARAの元気印、ニコルの超変顔!
 武田はニコルの期待を裏切ったようである。

「何、これ?」
「どうしてこんな写真が・・・」 
「2号さんのミッションみたい」
「ミッション?」
 メンバーはそんなやりとりを行うが、背後に関西めぐみが来て立っている。
「ちょっとこれはどういうこっちゃあ!」
 ニコルは後ろを振り返った。
「誰が撮ったんか、教えてもらおーか、あ~ん!」
 関西のぞみは凄みを利かせてメンバーを睨みつけた。
「撮ったのは、あんたら違うやろな・・・あ~ん!」
 最後にニコルを見て言った。
「ニコル。あんたはしばらく外出禁止や。部屋から出ることは許さん」
 がっくりした表情のニコル。
 
 出した週刊誌が人気上々でご機嫌の「presure」の編集長。
 武田の肩をもみもみしながら言った。
「ニコルの写真、けっこう評判だぞ、おい、はっはは」
 後ろめたい思いの強い武田は苦虫を噛み潰したような表情だ。
「今度はもっとすごい写真期待してるからな、はっははは」
「もう、いいでしょう」
 武田は編集長の手を振り切った。
「おい、よかないよ。はっはは」
 武田の肩を叩きながら編集長はいう。
「ニコルと出来てんだろう。写真見りゃわかるよー」
 武田は編集長に頭をさげた。
「お願いします。彼女だけはもう勘弁してください」
「いやだア。お前が行かないんだったら俺が行っちゃおうかな」
「・・・」
「まあ、いいや。漆原カレンの取材、早く行ってこい」

 二階の部屋に閉じ込められたニコルは思案に耽っていた。ニコルのしんみりとして寂しい歌声が流れる(KARAメンバー中、キィーの高いパートを歌ったりするニコルだが、さすがに歌は上手だ)。
 
 この世界はわからないことだらけ
 どうして私を悲しませるの
 変な顔の写真を雑誌に載せて
 どうしてなの? 
 どうしてあんなことやったのか
 あなたの気持ちを教えてほしい 
 あなたのところへ飛んでいきたい

 ニコルを部屋に閉じ込めて、関西のぞみは他のメンバーに質問をぶつけていた。
「ところであんたら、さっき言ってたミッションって何?」
 メンバーは黙り込んだまま答えようとしない。
「もう一回聞くで・・・! ミッションって何?」
 ギュリが仕方なさそうに答えた。
「ニコルに与えられる試練です」
「試練?」
 スンヨンが説明した。
「誰かと恋することで、私たちはスターとして成長するんです。だからニコルは」
「はあっ?! 恋? 恋ってどういうことよ」
 関西のぞみは舌打ちしてニコルを閉じ込めた部屋に向った。
 メンバーは心配そうにマネージャーを見送った。
「ごめんなさい、つい・・・」
 突然、姿を見せた社長2号にスンヨンは謝った。
「仕方ありません。いずれ、こうなるとは思っていました」
 そこへ関西マネージャーのうろたえた声がした。
「ちょっと、ニコルがおれへん」

 ニコルは窓からカーテンを垂らしてロープがわりにし、部屋から抜け出していた。

 その頃、武田一馬は漆原カレンのプライベート・タイムに付きまとっていた。年配の男と車から降りてきたところにカメラのフラッシュを浴びせだした。
 カメラのフラッシュを嫌うように男は叫んだ。
「誰だ! どこのもんだ」
 それでもかまわずフラッシュは焚かれ続ける。
 そこへ飛び出してきて立ちはだかった女がいる。ニコルだ。
「武田さん、何で、何で」
 ニコルはそう叫びながら武田の胸を手で押した。突いた。写すのをやめようとしない彼をどんどん押した。突いた。
「ヤアーッ! 何で、何でよ」
 ニコルの怒りと後ろめたさに耐えられなくなった武田は走って逃げ出す。ニコルはその後を必死で追いかけた。

 ニコルを探しながら、関西のぞみは社長2号に不満をぶつけていた。
「あんた、あの子らに何させとったんや。わかるように説明してもらおうか」
 立ち止まって訊ねた。
「ミッション、って何?」
「あの子たちをスターにするための試練です」
 関西のぞみはあきれた表情になった。
「パパラッチと恋をすることとスターになることとはぜんぜん違うやん。恋愛禁止と違うのん?」
「今にわかります。あの男との出会いが彼女にとってどれだけプラスに働くかということが」

 武田は逃げるのをやめた。追いついてきたニコルは訊ねた。
「武田さん、何で?」
「・・・」
 ニコルは歩み寄った。 
「何で約束やぶったの。変な写真ばっかり」
「パパラッチのいうことなんか信じてんじゃねえよ」 
「えっ?」
「お前、バカか。俺の言うことなんか鵜呑みにして・・・お人よしにもほどがあるんだよ」
「・・・武田さん、ちっとも楽しくなさそう・・・」
「はぁっ?」
「私が、歌うの、踊るの、楽しいの、どうしてかわかる?」
「・・・」
「みんな笑顔になるから。だから、私も楽しいの」
 その時、流れ星が流れた。 
 ニコルは小さく叫んで空を見た。
「お願いして」
 武田に向って言い、手を合わせた。祈りを捧げた。
「私の夢・・・スターになること」
 ニコルを見つめる武田は恋する男の表情になっている。
 ニコルはそんな彼の手を取り、ミュージカル・ステージの主人公にした。
「武田さん、楽しい?」
 自分はヒロインになって軽くステップを踏んだ。
「武田さんが楽しいと私も楽しい。ほら、楽し、楽し・・・楽しい」
「はっはは」
「楽しい、楽しい?」
「はっははは」
「武田さん、楽しい、楽しい」
 武田の硬い表情から次第に明るさが戻ってくる。
 その時、横からフラッシュが焚かれた。
「いただきぃ、はっはは」
 フラッシュを焚いて逃げ出したのは「presure」の編集長だった。
「こら、待て!」
 武田は編集長を追いかけ出す。その後を追おうとしたニコルは転んだ。それを見て武田は「大丈夫か」と駆け戻るが、起き上がったニコルは武田を見向きもせず猛然と編集長の後を追った。
 編集長は二人から逃れて逃げてきたが、前方に立ちふさがったのは他のメンバーたちだ。
「何だお前らは! ちょっと、どけ」
「いやだ」
「どけって」
「どかないって」
 メンバーは手をつないで編集長が逃げるのを阻んだ。追いついてきたニコルは編集長の手からカメラを取り上げようとした。
「勝手に写さないでください。勝手に」
 ニコルを突き放そうとしているところに武田が編集長の胸倉をつかんだ。
「こんな仕事、もうたくさんなんだよ」
「はぁっ?」
「パパラッチなんてやめてやるよ」
「はっははは。やめれるもんならやめてみろよ、このやろー。おめえの代わりなんてのはごろごろいるんだよ」
 カメラを取り上げて武田は言った。
「グダグダ言ってねえで、さっさと消えろ。消えろって言ってんだ」
 手にけがをしたニコルをメンバーがいたわった。
 ハラが言った。
「大丈夫、これ?」
「KARAは一人じゃないんだよ。何かあったら相談して」 
 そこへ関西マネージャと社長2号も駆けつけた。

 写された写真を見て社長2号は言った。
「これは危ないところでした」
「あの・・・教えてほしいねんけど」
 関西マネージャが切り出した。
「ニコルにあの男をほれさせることのどこが得なん。しかもあんなことしてたら、ニコルまであの男にほれてしまいますやん」
「まあ、見ていてください」

 武田はニコルのけがの手当てをしてあげていた。
「どうして約束破ったの?」
「いや、俺・・・自分の写真に自信を持てないでいたんだ。自分が楽しいだけの写真なんか、価値なんかないって・・・でも、あんたに出会って、その考えが変わったんだ」
 武田は立ち上がるとメンバーたちの方へ歩み寄った。彼女らに向って言った。
「すみません。僕にKARAの写真を撮らせていただけないでしょうか。今度はパパラッチとしてではなく、カメラマンとして」
 その言葉に、社長2号は得意げに関西マネージャーの顔を覗き込んだ。ニコルも飛び上がりそうに喜びを表した。
 武田一馬はKARAの写真を撮りだした。彼の本当の実力はそれから発揮されだした。
 ある日、せんべいをかじっているニコルに武田は言った。
「あのさ、こんなこといきなり言われたら困るかもしれないけどさ」
「ん?」
「俺、お前のことが」
「すいません。違うことはできないよ。だって私、アイドルだから」
 武田は苦笑した。
「あっは、だよな。ごめん」

 すべて社長2号の計算通りだったという。
 関西マネージャは問いかけた。
「ほんまに? ほんまに全部計算?」
 社長2号は頷いた。
 社長2号は早い段階で武田一馬の実力を見抜いていたようである。KARAの写真を撮るのは彼と決めていたのであろう。
 写真集は爆発的に売れ、KARA人気はいよいよ高まりを見せていくのであった。



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