雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(51)





韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(51)


「えっ?」
 ジェヒの話にウンジュは困惑した。
「聞きたいことはあるか?」
 ウンジュは吹き出した。
「冗談のつもり? 突然、どうしたのよ」
「冗談なんかじゃない。本気だ」
「本気?」
「そうだ。だから俺の気持ちが向くのを待つな。結婚はできない」
「・・・そういうこと? 分かったわ。まだ結婚の話はしないことにする。それでいい?」
「・・・」
「どうなのよ。まったくやり方が大人気ないわ。ちょっとひどくない? 結婚してくれ、してくれ、とそんなに迫った? 何なんよ」
「本気だ。本当だ。いつも会いたい人ができたんだ」
「・・・」
「その女性が好きなんだ。話すべきだと思っていた」
「誰なの?」
「・・・」
「答えて」
「・・・」
「それを信じろと? いつ知り合ったのよ」
 ウンジュは続けた。
「病院の新しい研修医?」
「違う」
「だったら誰よ」
「お前の知らない人だ」
「なぜ私と付き合ったの? そんなに私が嫌?」
「話が違うよ」
「だったら何よ。なぜ、嘘をついてまで諦めさせようとするわけ? 私が何したっていうの」
 ウンジュは悲壮な顔で言った。
「・・・まだ、知り合ったばかりだ。3~4ヶ月かな」
「・・・」
「だけど、いつも会いたくなる。何をしてるか気になり――何でもしてやりたい。くだらないことで嫉妬し――彼女が不機嫌だと戸惑ってしまう。別れる時は見えなくなるまで――見届けたい。大勢の中でもすぐわかるくらい――彼女しか見えなくなる」
 ウンジュの目は潤んできた。今にも泣き出しそうな表情だ。
「食事や手術の前など、彼女のことを思うと――ただ、笑顔がこぼれるんだ」
 ジェヒは晴れやかな顔になった。
「考えただけで嬉しくて、胸がドキドキ」
 ジェヒは悲しげなウンジュを見た。小さな声で続けた。
「高鳴ってくるんだ・・・」
 膝の上に置いた彼女の手は震えていた。
「俺は・・・本当に彼女が好きなんだ」
 ウンジュは苦笑いした。
「私・・・先に帰るわ」
 席を立った。呆けたように店を出た。
 外に出て誰も見てないところで思い切り泣いた。

 オ・ミジャが出勤してきた。
 彼女が奥へ消えた後、ヘミはわざと大きな声を出した。
「あっ、フィソンだ。フィソンがやってきた」
 クムスンはびっくりして顔を上げた。辺りをキョロキョロ見やった。それをヘミは面白がった。
 ヘミの客がやってきた。子供を連れている。
「後でこの子のカットもお願い」
「はい」
 ヘミはいたずらを思いついた。クムスンを見た。
「ナ・クムスンさん」
 クムスンは母子連れの客の前に立つ。
「クムスンさん、お子さんの面倒を見てて」
「はい」
「子守は得意なんでしょ」
 クムスンは嫌な顔をしない。
「ええ。子供は大好きです。お名前は?」
「サンヨンです」
「サンヨン。しばらくおばさんと向こうへゆこう」
「おばさん?」とヘミ。「言い慣れてる感じね」
「・・・ええ。子供にとって私たちはおばさんですよ」
 子供を連れていくクムスンを見て、ヘミは愉快がった。

 トイレにやってきたクムスンを追ってヘミたちも入ってきた。
「子守がとても上手ね」
「ええ、すごく上手だったわ」
「・・・子供が好きなので」
「そう。あなた、お腹が出てるわよ。くびれもないけど、出産でもした?」
 クムスンは自分のお腹を気にした。
「完全におばさん体型のようだけど」
「体型にまで文句を? 先輩だって同じですけど」
 クムスンがトイレを出ていこうとすると、ヘミは子供の名を呼んだ。
「フィソン~! ああ、フィソンに会いたいわ」

 キジョンが帰ってきた。
「どうして透析に行かない?」
「自信がないのよ。明日行くわ」 
「延ばすとそれだけ危険になるんだ」
「今日、透析を受けたら、ショック状態になりそうよ」
「何かあったのか? 昨日も黙って帰ってきただろ。何があった?」
「何もないです」
 キジョンとのやりとりを避け、ヨンオクは布団を脱け出た。

 食堂に出てきてヨンオクは水を飲もうとする。
 追いかけてきたキジョンがあわててそれを止めた。

 ヨンオクは泣きながらキジョンを責めた。
 娘のところに行こうとする自分をなぜ止めたの、と言って。
 キジョンは大きな声で訊ねた。
「だから、何があったんだ!」
 その時、キジョンの携帯が鳴った。
 キジョンが場所を離れたすきにヨンオクは水を飲んだ。とたんにヨンオクは呼吸困難で倒れた。
 キジョンがあわてて駆け込んでくる。
「どうした、しっかりしろ! 大丈夫か? しっかりしろ」

 ジョムスンはヨンオクのことで考え込んでいる。
 スンジャはジョムスンを気遣う。
 クマは働きに出る準備を着々と進めている。
 ジョムスンは二人の間に入って気苦労である。
 就職するといって譲らない娘を相手に興奮しすぎ、スンジャは失神する。
「クマ、早く水を持っておいで」
 持ってきた水を撥ね飛ばし、クマをにらみつけるスンジャ。

 ヨンオクは救急車で病院に運ばれた。
 ヨンオクに向かって担当医は言った。
「朝、来ないからですよ。ヨンオクさん、透析を始めますよ」

 デジカメを取りにくるのを待ちながら、ジェヒはクムスンに言われた前髪をずっと気にしている。
 今も鏡を前に前髪の長さを気にしている。後輩が入ってきたら、とたんにその気配を消す。
 後輩は腹痛で入ってきて大の方に消える。するとまた髪を気にしだすジェヒだ。
 他のことは何も入らない。クムスンとデジカメのことだけで時間が過ぎていく。
 そうだ、飲み物だ。それがあった。用意しておこう。冷蔵庫から二本取り出す。机上においてクムスンがやってくるのを待つ。
 しかし、クムスンはやってこない。廊下に出ても見るが、なかなか姿を見せない。冷たかった飲み物はぬるくなった。冷たいのと取り替える。
 そうして席につこうとしたら、ドアが鳴った。
 ジェヒはあわてて本を読んでる振りをする。
 クムスンが息を切らしながら入ってくる。
「すみませんでした。急いできたんですけど、待ちました?」
「ああ、遅れるならメールを送れ。いいな」
「はい」
 これは用意しておいた甲斐はあった。ジェヒは飲み物のフタを開けてクムスンに渡す。
 一口飲んでクムスンは息をつく。
「ああ、生き返った」
 笑顔で訊ねる。
「それですか?」
 ジェヒは頷いてデジカメを手にする。クムスンに渡す。
 恐縮しながらクムスンはデジカメを握った。
「使い方は?」
「いいえ。教えてください」
「そこに座って」
 この時、ジェヒはクムスンの荒れた手に気付いた。
「それどうしたの?」
「ああ、これ」
 クムスンは手指を見せる。
「中和剤のせいなんです。1日、何十人もに使うし、かなりきついようで」
「見せてみろ」
 ジェヒはクムスンの手を取った。
 クムスンは取られた手をひっこめようとする。
「大丈夫です」
「いいから」
 ジェヒは取った手を放さない。よく観察して席を立つ。
「ちょっと待て」
 救急箱から薬を取り出してきた。
「見せてみろ。俺は医者だ」
「何ともありません。職業病ですよ」
「わかったから、ともかく見せろ」
「恥ずかしいから嫌です」
「医者に向かって何てこというんだ」
 クムスンの手をつかむ。
「ちょっと染みるかもしれんな。帰宅したら、手を洗って薬を塗れ。手袋をして寝るのもいい」
「・・・」
 ジェヒは薬をクムスンの手に丹念に塗り始めた。
「ほら、動くな」
「でしたら自分でやります。くすぐったくて」
 しかし、ジェヒは手を放さない。真面目な医者の顔になって薬を塗り続けた。
 その姿にいくぶんジェヒを不思議に感じたようである。
「どうした?」
「なぜかなと思って・・・私に優しいから」
 引っ込めかける手をまたもとに戻す。
「妹がいたんだ・・・生きてたら君と同じくらいかな。だからさ」
「・・・」
「すごくお転婆で・・・いつも怪我してばかり。ガキ大将みたいなものだった。いつも俺についてまわってたんだがな・・・5年生の頃だったか・・・1人で祖母の家へ行く途中、小川で」
「・・・」
「君を見ると・・・つい妹を思い出す。それが理由だ」 


 ジェヒはクムスンを送って出た。
 クムスンは訊ねた。
「妹さんの名前は?」
 一瞬、ジェヒは答えるのに窮した。
 作り話? 妹はほんとにいた? あるいは自分が死にかけた話をデフォルメした? それとも妹は実際にいるが死んではいず、離れて暮らしている?
 ジェヒは動揺をとりつくろいながら答えた。
「チェスニ」
「そう。カメラ、ありがとうございました」
 行きかけるクムスンを呼び止める。
「言っておくけど――母に妹の話をするなよ。今も眠れないくらいなんだ。それが母心なのかもな」
「はい」
「じゃあ、気をつけて」
 歩きながらクムスンはつぶやく。
「お義母さんも一緒なのね・・・」


 家に帰ったクムスンはジョンシムにパーマをかけさせてくれと申し出た。
「ええ。きれいにしますから」
「いやよ。習ったばかりの人にうまくできるはずはないわ」
「昔、祖母にもやってあげてました。職場では新米でもやり方は知ってます。やらせてください。やらせてもらえると思って、パーマ液などを買ってきたんです」
 ジョンシムは首をタテに振らない。
 ピルトがクムスンを加勢する。
「ああ、言ってるんだ。やらせてあげたらどうだ」
「嫌よ。センスが信じられない」
 しかし、ピルトの後押しでジョンシムは頼みを受け入れた。
「きれいにしてよね」
 クムスンは張り切ってジョンシムの髪結いを始める。





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