雨の記号(rain symbol)

眠れなかった夜

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 眠れない夜はたまにある。特に土曜の夜は夜更かししてしばしばそうなる。無理に起きていようとしすぎた結果、緊張が過ぎて今度は眠れなくなる。その時の浅い眠りの辛さったらない。
 土曜ではないが昨夜は連休の谷間の一日だ。浅い眠りを朝まで引きずり、寝不足の腫れぼったい顔を職場まで運んでいってしまった。
 日中は眠くて涙が出てしかたなかった。しかし今は5時から男みたいに眠くない。たぶん今夜も眠りは浅いまま明日に向かうだろう。


 浅い眠りだけで過ごしていけるようになったら崇高な哲学者になれるだろう――世界のニーチェになれなくても、田舎のニーチェくらいにはなれるかもしれない。

 
 T-araN4『田園日記』のMVを視聴しだしたのがきっかけだった。ブログに書くため記事を引用し、MVの視聴を繰り返しているうちK-POP漬けになってしまった。途中知り合いから電話が入り、うっとうしい話を聞かされて緊張の度合いが進んだ。聞きたくもないのに川に飛び込んで自殺した芸人の話を一方的にされ、話題を変えてこっちが話し始めたら、電話が入ったからと切られてしまった。まったく勝手なやつだ。
 あとでかけるから、と言われて待ってみてもかかってきたためしがない。どうせかかってくるはずなどない、と思いながらついつい待ってしまった。
 待ち疲れて視聴したい音楽を漁っているうち、ずいぶん会っていない友人を思い出した。
 山手線のホームで電車に身体を弾かれ、頭に障害を負ってしまったAだ。ひどく神経質で酒を飲むと陽気になって女なら誰でも口説いて寝ようとする男だった。僕のやっていた店にやってくる女の幾人かと関係を持っていた。ある日、彼にしつこく付きまとわれた女から相談を受けた。僕は彼に絶交し、店への出入りを禁止した。
 その後、僕は彼と会わなかった。しかし、彼との関係が完全に切れたわけではなかった。彼と僕とをつなぐ友人Mがいたからだ。
 二十数年後、僕はMから電話をもらった。彼の消息を聞き、Mと一緒に彼を施設に見舞った。
 会った時、僕の顔は覚えているようだったが、名前は思い出せないようだった。Mが僕の名を告げると少しずつ思い出しているようだったが、二つのエピソードをテープレコーダーのように繰り返した。そのうちのひとつが僕に絶交されたことだった。しかし彼は僕と再会したのをひどく喜んでいた。
 
 部屋のどこかに昔一緒に出した同人誌があるはずだと思って探したが出てこなかった。あっという間に時間が過ぎていた。
 Mが亡くなった今、Aと会う理由はなくなった。
 寝ている間、額の上あたりはずっと朝まで白っぽい光が滞っている感じだった。



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