雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(132)





韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(132)


   
「行くところがないの」とソンランは言った。「祖父も父親も面倒を見られないの」
「お前の気持ちは分かった」シワンは頷いた。「理解するよ。理解はするんだが、少し考えさせてくれ」
 ソンランは一瞬落胆の表情を見せる。
「考えさせてくれ。すぐには答えられない。今は母さんのことも会って俺も混乱しているんだ。考えさせてくれ」
 ソンランは肩を落とした。
「行こう」
 店を出た後、ソンランはシワンを乗せ、市内をめぐる漢江のほとりに車を乗りつけた。
「どうしてここに?」
「話があるの」
 ソンランはシワンを促して車からおりた。シワンも続いた。
 ソンランは河面を見て立った。シワンが歩み寄る。
 ソンランは振り返る。
「ついでだから聞くわ。こんなに早く起きたのは予想外だけど、私と結婚すればありえる話なんじゃない?」
「・・・」
「子持ちなんだから当然でしょ。まったく考えなかったの?」
「ああ、考えたことがない。父親が育てていて何年も会ってないだろ」
「・・・」
「それに何より――子供の話をしなかっただろ。だから子供のことは忘れることもあった」
「でも先週、子供のことを話したでしょ? 考えてみたの?」
「その日に問題が起きて余裕があったと?」
「・・・」
「それに1ヶ月と1年間はぜんぜん違うだろ」
「そうよ。だから言ってるの。1ヶ月なら祖父に預けるわ。しかし、1年間となれば、母親の私が預かるべきことよ」
「・・・」
「同意があればのことだけどね」
「だから、どうしろと? 今すぐ決めろと?」 
「そうじゃないけど、真剣に考えてほしいの。出来れば早いうちに」
「分かったって言ってるだろ」
「ご両親に話しましょう」
「何?」
「両親の意見も聞かないと」
 シワンは首をかしげた。
「それはダメだ」
「じゃあ、どうするの? お義母さんに合わせて待てというの? 許してもらった後、また怒らせるの?」
「仕方ないだろ」
「何回も言うようだけど、何発のジャブよりストレート一発よ。何度も繰り返したくない」
「状況ごとに耐えられる限界が違う。両親はお前のように理性的じゃない。父さんも母さんも普通の親なんだ。今の状況を受け入れるのも耐え難いのに、さらに子供を連れてくると?」
「・・・」
「それはムリだ。少なくとも今は」
 ソンランは苛立って言った。
「どうしていつもそうなの? 先延ばしにできる話じゃないわ」
「俺はいつもそうさ。ダメなものはダメなんだ」
「・・・」
「大声を出させるなよ。それはダメだ」
「・・・」
「もう行こう」
 シワンは先に車に戻った。
 その背に向かってソンランはつぶやいた。
「シワン・・・あなたも同じなのね」


 ミジャはジェヒの病室へやってきた。しかしドアには”面会謝絶”の張り紙がしてある。
 ミジャはジェヒの名を呼び、ドアを叩いた。返事はない。物音もしない。
 ミジャはドアを叩く。
「いないの? ドアを開けて」
 ジェヒは中にいた。ミジャの声やドアを叩く音に無反応だった。
 ジェヒはステーションに戻った。スタッフに訊ねた。
「1510号室のク先生は不在ですか? 鍵がかかって返事もないんです」
「施錠されてるならおられますよ」
 ミジャは病室の前に戻ってきた。
「ジェヒ。いるんでしょ? 開けなさい」
 そこにキジョンとウンジュが現れ、離れた場所で立ち止まった。
「開けてもらうわよ。早く開けなさい」
 それでもドアは開かない。
「開けてもらうからね」
 ドアが開く。ジェヒは外に出てきた。
「1人にしてください。お帰りを」
「どうしたのよ」
「分からないんですか? 望みどおりでしょ。ほっといてください。いいですね。もう来ないでください。すぐ退院だから大丈夫です。それじゃ」
 ミジャはジェヒの手を取った。
「シャワーも出来ないでしょ。私が顔と手足を洗うわ」
「結構です。ほっといて。やっと耐えてるんです」
 ジェヒは中に消えた。
 ミジャは嘆息した。
 その一部始終をキジョンとウンジュは見ていた。
 
 中に戻ったジェヒはヘナヘナとベッドに座り込んだ。

 フィソンを迎えに行ったクムスンは、フィソンが出てくるのを待つ間、ぼんやりジェヒのことを思っていた。
 やがて園児が出てくる。階段を降りてくる。クムスンは降りてくるフィソンを抱き上げる。
「先生の言うことをちゃんと聞いた?」
「はい」
 クムスンはホッペにキスする。


「クマ、病院に行くわよ」
 スンジャが言った。
「病院? 何の?」
「言わなくたって分かるでしょ?」
「内科? 大丈夫よ、胃炎くらいで」
「この子は最後までいい加減にしなさい。ほんとはどうなの?」
 ジョムスンも加勢して言う。
「そうよ。正直に話した方がいい」
 連れて行かれそうになってクマは正直に答えた。
「実は・・・何もなかったわ。テワンさんとは別々に寝てただけなの」
 スンジャはクマを叩いて叱り付けた。

 その後、ジョムスンはスンジャと話をした。
「じゃあ、あの夢は誰のことだったんだろ?」
「クムスンでしょ」
 ジョムスンは言った。
「もしかして、あんたじゃないの?」
「冗談でもそんな話はしないでください」
 二人で押し問答しているところにインターホンが鳴った。
 スンジャが応接に出るとヨンオクが入ってきた。 
「お義母さん、私です」
「ここがどこだと思って何度も来るの?」
「今日で3回目です。上がらせてください」
「上がって何をすると? 話すことも聞くこともないわ。行きなさい」
 ヨンオクは上がってきてジョムスンの前に座った。頭を下げる。
「お義母さん・・・」
「私を無視してるの? 許可もなしに上がって」
「クムスンがお義母さんに許可をもらうようにと。許してもらえば私と会うそうです」
「・・・」
「お義母さん・・・今からでもあの子の母親として認めてください。この通りです」
「あなたは赤ん坊を捨てて逃げたその瞬間から、私たちの縁は終わったの。どんな事情だろうが、面と向かってあなたと話す理由もないし、声も聞きたくないから早く行って」
 ヨンオクは顔を上げる。
「お義母さん、どうかお願いします。クムスンのためにもお許しください」
「あなたの気は楽になるわ。捨てた娘の腎臓をもらったら何もしない方が無理ね。でも私は知らないわ。どうであろうと私とは関係ないから行って」
「お義母さん・・・あの日、私の結婚後、ようやく決心して訪ねてきた実家の母の前でまで、夫を殺した女とののしって私をいびらなかったら、我を忘れて家から出ることもしなかったです。そしたら実家に阻まれ、戻られなくなることもなかった。あの時のことを思うとお義母さんが恨めしいです。私にそこまでする必要があったんですか?」
「私のせいで子供を捨てて逃げたと言いたいの?」
「違います。そうではなく・・・お義母さん、どうかお許しください。今からでも嫁として母親として認めてください。このままダメだと言われては、私は本当に、捨てた子に腎臓だけもらった人でなく獣になってしまいます」
「人様のつもりでいたのかい? そう思ってたの? 行って」
「・・・」
 ヨンオクはていねいに頭を下げ、涙ながらに立ち上がった。
 外に出てからヨンオクはしばし立ち止まった。考え込んでいるとスンジャが出てきた。
「ヨンオクさん」
 スンジャはポケットから通帳を取り出した。
「前から気になってて・・・お返しします。手はつけてません」
「いいえ。あなたへのお礼でもあるんです」
「あの時も受け取るつもりは・・・もう健康なんだし、クムスンに直接わたして」
「・・・」
「早く受け取って」
 スンジャはむりやり通帳を握らせた。
「私はとても気になるんです」
「・・・」
「お義母さんも徐々に気持ちが和らいでるみたいだし、諦めないでください」
「ええ、そうしないと――なら、これだけでも・・・イシモチの干し物です」
「・・・」
「これは食べる物だわ」
「お義母さんに何を言われるか・・・でも、食べる物なら」
 スンジャは快く受け取った。


 洗濯物を取り入れているとジョンシムがカバンを持って部屋から出てくる。
「お義母さん・・・」
 ピルトも部屋から出てきた。
「出ていくようにまとめたの」
「急に起き出して何をしてるのかと思ったら、これか・・・」
「やりすぎかしら? もう顔も見てられないの」
「早く家を探すように言ったよ。だから、それまでは待ってやろう。そう俺が話もしたんだし」
「何をもう・・・一緒にいたら私の方がどうにかなりそうだわ。ソンランの顔を見ると気が狂いそうよ」
 そこへシワンが帰ってきた。ソンランも一緒だった。
「荷物をまとめたから行きなさい」
「・・・」
「父さんは家を探すまでと言ったけど、私は待てない」
「・・・」
「もう顔も見たくないの――なぜ、家の中でまで私を苦しめるの? 少しでも私を思うなら、これを持って出て行って」
「母さん」
「いいから早く出て行って」
「お義母さん・・・騙されたことに腹を立て、許せないんですか? それとも――私がバツイチであることが許せないんですか?」
 ジョンシムは一瞬口ごもった。
「・・・本当に呆れて何も言えないわ。あなた、いったい・・・何を言ってるの?」
「もし後者の方でしたら・・・」
 テワンが急ぎ足に降りて来た。
「義姉さん――黙っていたら、まったく言いたい放題だな。何が言いたいんだ」
「テワン、黙ってろ」
「兄さんが黙ってろよ」
「静かにしろ」
 ピルトが怒鳴る。
「誰の前で喧嘩だ。何のつもりだ。何がしたい?」
 ピルトはソンランを見た。
「何様のつもりで母さんを問いただしてるんだ。これが、そういう問題か? 理論的に解決できるとでも?」
「父さん・・・」
「母さんをそこまでバカにしてるのか?」
「違います」
「黙れ! どんなに深く謝っても足りない時に――何だと? 何が許せないのかと?」
 ピルトはソンランを睨みつけた。
「まったくもって情けない・・・!」
 それだけ言って部屋に引っ込んだ。
 ジョンシムも黙ってピルトに続いた。

 その夜、ジョンシムは寝付けない。
 それに気付いてピルトも起き上がる。
 するとジョンシムは毛布を引いて横になる。ピルトも横になる。

 シワンたちも背を向け合って寝床についた。二人とも寝たフリはしても眠りは浅かった。

 家中の混乱にジェヒのこと――身体に熱も出てクムスンも寝付けない。

――クムスン! クムスン!

 ジェヒの声はなかなか止まない。

 寝付けず、リビングの食堂に出てきたソンランは、しきりにうなされているクムスンの声を聞いた。
 ソンランはドアを叩き、クムスンの部屋に入る。
 クムスンに呼びかける。
「クムスンさん、どうしたの? しっかりして。クムスンさん」
 クムスンは目を開ける。
「お義姉さん・・・」
「どうしたの? どこか悪いの?」
 額に手を置いてソンランは驚く。
「ひどい熱よ。顔も赤いし、ひどい熱だわ」
「大丈夫です・・・解熱剤を飲みました」
「大丈夫って・・・うめき声が聞こえて入ってきたのよ」
「美容室のエアコンが強すぎたんです。それでおそらく・・・」 
 クムスンは身体を起こす。
「お義姉さん、水をいただけますか」
 クムスンは水を入れてもらって飲む。
「枕が濡れてるわ。泣いたの?」
「いいえ・・・はい。つらくて・・・お義姉さんは大丈夫?」
「大丈夫よ、鍛えられてるから」
「・・・」
「知らないのね。世にクールな離婚はないわ。地獄の手前か行ってから離婚するの」
「・・・」
「それに、たぶん明日・・・もう今日かしら――私の発言にもっと驚いちゃうわよ」
「・・・」
「いくら私がいい子ぶっても解決しないことなの」
「・・・」
「それにしても、どうしよう。熱、ひどいわよ」
 クムスンはソンランを見た。
「私は大丈夫です。私はいいけど――お義姉さんはどうするの・・・ますますお義母さんが怒るわ」
 ソンランは笑顔になった。
「私のために泣く人もいるし・・・悪くないわね。それにしても子供ね。こうして見ると怯えた瞳や――すぐ涙を流すところも・・・男性があなたの瞳を見てまいらないはずないけど? 私ならきっとまいっちゃうわ」
 ソンランはクムスンの頭を撫でた。男性の影を感じ、エールを送ったのかもしれなかった。
「お義姉さん・・・」

 
 クムスンは身体の熱をおして美容室に出勤した。しかし、やはり仕事はつらい。倒れそうになりながらも気力で身体を持たせて仕事を続けた。
「お疲れ様でした。あちらにどうぞ」
 そこにユン室長から声がかかる。
「クムスンさん、シャンプーをお願い」
「はい」
 クムスンはつらいながらもひとつひとつ仕事をこなしていく。
「終わりました。あちらへどうぞ」
 クムスンは疲れ、椅子にもたれこむ。必死で仕事に耐える。

 二階の事務室でウンジュは考えこんでいる。いや、迷っている。それは院長のクムスンに対する緘口令だった。
 しかし、ウンジュはジェヒがクムスンをどれだけ好きなのかも、病室の前での院長とのやりとりで感じさせられもした。
 ウンジュは迷い続けている。この緘口令がジェヒのためになるのかどうかを・・・ましてや自分を庇っての怪我だった――。


 クムスンは自分のロッカーから解熱剤を取り出す。上っ張りをし、椅子に腰をおろす。解熱剤を握ったままテーブルに上体をうつ伏せる。
 そこへウンジュがやってきた。
「具合が悪いの?」
 クムスンは身体を起こす。
「大丈夫です。熱が少しあって・・・」
「ジェヒさんを――好きなの?」
 クムスンはウンジュを見つめる。憎まれ口を覚悟する。
 ウンジュは笑い、額に手をやる。
「馬鹿げた質問だった?」
「・・・」
「もう会いません」
「・・・」
「信じられないでしょうけど、もう会ってません」
 クムスンはそう言って部屋を出て行こうとする。
「もしかして」
 クムスンの足が止まる。
「知らないでしょ。彼が怪我をしたの」
 クムスンは表情を変える。
「どこをですか? どんな怪我ですか?」
「手を――右の手首よ」
「それでどうなんです?」
「経過次第なんだけど――状態はよくないかも・・・大学で外科医は難しいかも」
「・・・」
「経過がよければ問題ないんだけど・・・」
「今、どうしてるんですか?」
「さあ・・・よくはないと思う。気になるなら行ってみたら・・・? だからって、すぐに行けとか、二人の仲を持つわけでもないの。それは偽善という嘘よ。でも、これだけは言ってあげられる。これから院長と一緒に出かけるの。だから院長は、午後まで病院に行くことはないわ」
「・・・」
「1510号室よ。好きにして」
 ウンジュが先に部屋を出て行った。

 ――大学で外科医は難しいかも・・・。

 頭の中でウンジュの言葉が踊る。
 クムスンは矢も盾もたまらず美容室を飛び出した。

 病院のエレベーターを降りる。
 もう後戻りはできない。自分に正直になって前に突き進むだけど。一歩一歩を固めるように、クムスンは1510号室に向かって歩く。病室の前に立つ。部屋をノックする。
 部屋に入っていく。
 ジェヒはうつろな目をドアの方に向ける。
 立っているのはクムスンだった。
 クムスンはジェヒを見つめてそばに歩み寄る。
 二人は黙って見つめあう。ジェヒの目には憎悪と怒りがたぎっている。
「ジェヒさん・・・」
「帰れ」
「・・・」
「行けよ」
「ジェヒさん・・・」
「聞こえないのか? なぜ来た?」
「・・・」
「行けよ」
 それでもクムスンは前に歩み寄る。
 ジェヒは受話器を手にした。
「キム先生、無断侵入者がいる」
「・・・!」
「早く追い出してくれ」
 受話器を置いてジェヒは言った。
「引きずり出すぞ」





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