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武器取引の失敗を責め、トチはハンダンに殴る蹴るの暴行を加えた。このハンダンとプヨンはともかく虐待される場面が多い(二人の見どころはそこである)。人間のしがらみの極地を見るようで、それなりの存在感と魅力をたたえている(途中でプヨンは弟たちを連れて去るが、寂しさがありながら解放された地に向かうようでどこかに清々しさも感じられた。じつはプヨンとプブンノの番外編を創作したいとひそかに考えている)。
そのトチをヨンポがやってきて責め立てた。トチは、許してください、とヨンポの前で手を合わせた。ヨンポは話を聞いていたプヨンを脅して立ち去った。
ハンナラと交易の摩擦が生じ、夫余では塩騒動が持ち上がった。
事態を打開すべく、帯素は金蛙王に、ヤンジョンに会うためヒョント城に行かせてくれと申し出る。
ユファは朱蒙を呼んだ。帯素が事態を打開するためヒョント城に向かうようだ、交渉が成功すれば陛下はこれを讃えるだろう、お前は何をするか、と訊ねた。
「私もそろそろ宮を出る時が来たようです」
帯素は大勢の供を連れ、朱蒙は一人でひっそり宮を出た。
塩をどう確保するかの競争が帯素、ヨンポ、朱蒙の間でいよいよ始まった。
朱蒙の顔を見て、オイ、マリ、ヒョッポの三人は、俺たちも宮に入る日が来たとばかり喜ぶが、ヨンタバルと会った朱蒙は、私をここで使ってください、と申し出た。
(第13話より)
「私を商団で雇ってください」
ヨンタバルは話を聞くため朱蒙を部屋に通した。
オイ、マリ、ヒョッポは宮に入れるかもしれない期待があっただけに、その話を聞いてがっかりした。
「また宮を追い出されたのではないか」
そんな話まで飛び出す始末だ。
ヨンタバルは訊ねた。
「太子冊立で競争中だと聞きました。こんな大事な時期に商団で働きたいとはどういうつもりですか」
朱蒙は答えた。
「陛下が太子の競争を命じてきたのは確かですが、私は太子の器ではありません。知ってのとおり宮を追い出されたこともある。宮を追い出されてみて、自分の未熟さがわかりました。首長のもとで世の中をもっともっと勉強したいのです」
部屋から出てきた朱蒙にヒョッポらは愚痴を並べた。
「どうして宮を出てきたのです」
「我々のために考え直してください」
朱蒙は言った。
「オイや。お前は何もないのか」
「期待が大きければ失望も大きいものです。私は最初から期待していませんでした」
ふっと笑みを浮かべて朱蒙は言った。
「すまない。自身も守れず、迷惑をかけてばかりで。しかし、これからは違う。いつかきっとお前たちに恩を返す」
ヨンタバルは召西奴に訊ねた。
「朱蒙王子をどうしたらいいものか」
召西奴は答えた。
「雇ってください。太子の争いを間近で見れば、どちらがよいか判断もしやすいでしょう」
ヨンタバルもサヨンもほくそ笑んだ。
朱蒙は外でヨンタバルが決断を下すのを待っていた。ヨンタバルたちが出てきた。
「王子様を商団でやとうことにします」
ヨンタバルは言った。
「ただし、条件があります」
「何でしょう」
「労働者として入った以上、王子様を夫余の王子としての待遇はできません」
「王子様に対して何と無礼な」
マリが口を荒げた。
「だまらっしゃい。王室に礼儀と秩序があるように商団にもそれがある。下の者を使うとき、言行に制約があっては商団の運営は成り立たぬ。・・・これを守れますか」
「はい」
朱蒙は力強く答え、召西奴を見た。
(これからの自分を見てください)
そんな決意と自信を表情に覗かせた。
朱蒙の行動はすぐ金蛙王のもとに報告された。
金蛙王はそれをユファ夫人に伝えた。
「朱蒙を信じますが、この重要な時期になぜ商人なのでしょうか」
「ヨンタバルは出来た人物だ。彼のもとでなら、世間について多くのことを学ぶに違いない」
「陛下」ユファ夫人は言った「朱蒙は太子になれるでしょうか。もしもなれたとして、陛下の臣下がそれを認めてくれるでしょうか」
「朱蒙はみなが太子と認めるような力をつけなければならない。機会は与えたが肩を持つわけにはいかない。それを見守ろうではないか」
一方、帯素はヒョント城に着き、ヤンジョンと接見していた。
ヤンジョンは帯素らを目の前に立たせたまま言った。
「夫余の王に直接伝える話がある。夫余に帰って王に伝えろ。王自ら出向いてこないと何も変わらぬとな」
大使者が怒って反発しようとするのを帯素が制した。
「私は父上から全権を任されてやってきた。問題を解決するためにきたのだ。追い返さないでいただきたい」
ヤンジョンは鼻で笑った。
「両国の問題を解決する方法は金蛙王が直接ここへ来て、皇帝陛下の命にしたがうことだ」
「太守ごときが王子様をないがしろにするとは・・・この屈辱はいつか晴らします」
ふだん、冷静なプドウクブルが帯素の前で憤懣やるかたないようである。
「問題さえ解決できればいくらでも耐える。それよりも、太守の心を動かすにはどうしたらいいと思いますか」
「ヤンジョンは陛下しか受け入れる様子がない。ここはいったん夫余に引き揚げ、策を練り直した方がいいかと」
「それはだめだ、このまま帰ったら陛下に合わす顔がないではないか。何とか方法を探さないと何とか・・・」
帯素は一人考えに耽った。
「大使者・・・ヤンジョンに受けた屈辱より、もっと耐え難いのは朱蒙と太子争いをすることだ!」
ヨンポはトチに、ちゃんと口止めしたか、と肝を入れていた。
「武器の裏取引がバレるとお前の命はない。わかるか」
「わかっております・・・ところで、ハンナラとの交易に問題が出てきたとか」
「すべてお前のせいだ。わかってないのか」
トチはほくそ笑んだ。怪訝そうに見るヨンポ。
「危機はいい機会ともなります。私が交易問題を解決すれば王子様のためになるかと思います」
「どういうことだ」
「オクチョの塩を確保して夫余の市場を活気づかせる。それですべての手柄は王子様のもの」
ヨンポは呆れて言った。
「馬鹿なやつめ。ハンナラの圧力がかかってオクチョと取引などできるわけがないだろうが」
「王子様」トチは言った。「私が堂々と取引などやると思いますか。私を信じてください」
「・・・」
「それとも、王子様は太子競合をあきらめたのですか?」
王妃はヨンポに言った。
「商団に入ったのは何か魂胆があってのことでしょう。帯素にかわってお前が朱蒙の動向を見張ってなさい」
接見を求めてやってきたヨミウルに金蛙王は言った。
「これから国政に関する一切をお前に相談しないつもりだ。お前はヘモスを二十年も牢獄に閉じ込め、結果、死においやった」
「陛下、それは天地神明にしたがって」
「何が天地神明だ。天地神明であるならそんなにひどいことをしてもいいのか」
部屋に戻ったヨミウルはチョルランに命じた。
「四出道の神女たちに連絡を入れ、私が会合を開くと伝えなさい」
「会合をですか」
「そうだ。急ぎなさい」
ケピルは朱蒙に帳簿書きだけでなく、力仕事もやらせた。それを見てモパルモはケピルを後ろから殴り、つかまえ、首を絞めた。
朱蒙の仲裁を受けると、王子様がこんなことするなんて、と嘆いて見せた。
プヨンはトチの指示でヨンタバル商団の本拠に木簡を届けにやってきた。迷っているプヨンを見て、応接したのは召西奴だった。
「何か御用ですか」
「首長にお会いしに来ました」
「代わりに私が承りましょう」
「トチ客店の者です。房主のお使いでこれをお渡しにきました」
二人のやりとりを横で見ていたサヨンは訊ねた。
「お知り合いですか」
「うん。朱蒙王子が心を寄せている人」
サヨンはくすりと笑いをもらした。
「何がおかしいの」
「それで理解できました。やきもちが顔に出てましたから」
召西奴はキーっとサヨンをにらみつけた。
「私をからかうつもり?」
木簡を見てヨンタバルは言った。
「この前うばった塩を返せと言ってきおった。返さなければ乗り込むと」
と笑い飛ばした。
「返すつもりですか」
「そうだな」
サヨンが言った。
「今、トチの商団との対立は避けるべきかと思います」
「その通りだが・・・」
召西奴が言った。
「これは商団の自尊心をかけた問題です」
「自尊心?」
ヨンタバルは召西奴に厳しい目を向けた。
「お前が裏取引の塩を奪おうと主導した時、その自尊心とやらはその時失われた」
召西奴は小さくなって謝った。
サヨンは言った。
「トチが今頃、塩を返せという理由は何だと思いますか」
「理由があると?」
「塩を確保してヨンポを助けるつもりなのでしょう」
ヨンタバルはつぶやくように言った。
「塩を材料に鉄製武器との交換ができるかもしれない・・・」
夜がくれば朱蒙は剣の修行を欠かさなかった。今の朱蒙には、戦略や政略に時間を弄しているより、ひたすら己自身の力を高めていく時間も必要だった。
そんな朱蒙を見て召西奴は疑問を投げかけた。
「世間を学ぶために商団に入ったそうですが、何のために習うのですか」
「・・・」
「今は身を低め、時がくれば王座につくという野心ではありませんか」
朱蒙は召西奴を見つめ返した。」
「必要であればお手伝いします」
「・・・」
「夫余の危機に帯素王子はヒョント城へ行き、ヨンポ王子は塩でトチと交渉中です。二人の王子は東奔西走で夫余のために何かを成そうとしています。朱蒙王子は何をしているのですか」
朱蒙は笑みをたたえた。
「私が乗り出して何ができますか? 能力もなく乗り出すことは愚かなことです」
帯素は再々の接見を申し入れ、追い返されることを繰り返していた。
ヤンジョンの側近はこれを見て、帯素王子は夫余の太子となる者です、利用することを考えてはいかがでしょう、と忠言を行った。
状況が切羽詰ったと感じた帯素は大使者を残して夫余に引き返す。何か考えついたことがあるようだ。
王妃とユファ夫人も表向きは思いやりを見せ合いながらも心では火花を散らしていた。
召西奴の言葉が少しは響いたか、朱蒙はようやく腰を上げた。オイ、マリ、ヒョッポ、ムソンを集め、その前で自分の本心を明かす。
「私は大業を成すつもりだ。与えられたこの機会を絶対に逃がさない」
これを聞いてオイ、マリ、ヒョッポの投げやり態度がコロリと変わった。
夫余に戻った帯素の狙いはヘモスの墓を荒らすことだった。金蛙王の腹心ソンジュを脅かし、そこを吐かせた。
帯素は非道を行った後、召西奴のもとを訪れる(この場面づくりはうまい。さすが。何となくわかるこの感覚)
二人話しているところに朱蒙の声がかかる。
ヘモスの墓をあばき、大きいことをやってきた気でいる帯素は、朱蒙を召西奴の前で罵倒する。
「この大事な時にお前はここで何をやっている」
部屋を出た朱蒙はその屈辱に耐えた。
帯素はヤンジョンに会い、ヘモスの首を差し出した。おののくヤンジョンに帯素は言った。
「しかとその首を見てください」
席を設けてもらい、話し合いの場を得た帯素は、私が王になればハンナラとは戦さをしない、武器の裏取引も根絶しよう、と切り出した。
トチはヨンポに、塩千俵の取引に成功しました、と報告した。
それをきいてご機嫌のヨンポは、私が王になった暁には、お前に夫余の商権を与えてやろう、と大見得を切った。
ヨンポの嬉しい報告があった後、帯素はヤンジョンとの交渉を成功させて戻ってきた。
塩一万俵のおまけつきで、驚き、がっかりするヨンポ。陛下の実績まで持ち上げ得意満面の帯素。
召西奴はこの報せをすぐ朱蒙に伝えた。それを喜ぶ朱蒙に唖然とする召西奴。
「本心ですか?」
「本心です。・・・問題が解決されてよかった」
「帯素王子にあれだけ侮辱されたのにそんなこといえますか。私なら悔しくて眠れないでしょう」
「侮辱も受けるほど慣れてくるものです。あれくらい何でもありません」
気の強い召西奴は呆れた。
「情けない人・・・!」
ヨムウル主管の席で一人の神女が始祖山のタムル弓が折れていたとの報告を行った。
それを聞いてヨムウルの顔色は変わった。
「タムル弓が折れていたというのはほんとですか?」
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