雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「朱蒙」第35話(2)

 


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マリたちはムソンを呼んだ。
「何だ、どういうことだ?」
 マリは言った。
「俺たちが鉄器工房から房長を救い出します」
「昼夜、監視がついているのにどうやって助ける?」
「後は俺たちに任せて房長に話を伝えてください」
「今夜、鉄器工房に行きます」

 ムソンはモパルモのいる工房へやってきた。そばにいって耳打ちした。
 モパルモは首を振った。
「私のために命など賭けるなと言え」
「何を言うんです。マリたちにすべてまかせておけばいいのです。気持ちをしっかり持ってください」
 モパルモは手を振り、いらぬ気持ちだ、という表情をした。
「警備の奴らを安心させるため、何か作る振りでもしてくれないと・・・ほら、はやく」

 ナロは配下を引きつれ、ヨンタバル商団へやってきた。
 ケプルが応接した。
「ヨンタバル首長を連れにきた」
 ケピルは表情を曇らせたが、一転、愛想笑いを浮かべた。
「護衛長官になられたそうですね。おめでとうございます」
 ナロはケピルの後方に目をやった。
 ヨンタバルが召西奴やサヨンと出てくる。
「どうしましたか」
「テソ王子さまが首長と召西奴お嬢様をお呼びだ。宮に行く準備をしろ」
 ヨンタバルは召西奴と目を見交わした。
「わかりました」
 ヨンタバルは召西奴と一緒に帯素のもとへ出向いた。
 帯素は召西奴を見てから、ヨンタバルに切り出した。
「ヨンタバル首長」
「はい」
「私はまもなくヒョント郡の太守の娘と婚礼を挙げる」
「おめでとうございます」
「だがこれは私の意志ではなく、ただの政略結婚にすぎない。私が好きなのは召西奴であることは首長もよく知っているだろう」
 召西奴を見て帯素は続けた。
「私は召西奴と結婚したい」
 召西奴は帯素をにらみ返した。
「王子様」
 ヨンタバルは口をはさもうとするが、帯素は続けた。
「もし、首長と召西奴が断わったら、これまで首長に与えたすべてを返してもらう。ヨンタバル商団に与えた夫余の公益権をはじめ、ゲルの鉄器工房に送った職人も回収する」
 ヨンタバルは困った表情をする。しかし、召西奴は気丈に言い放った。
「夫余とゲルとの約束は陛下が決められたことです。婚姻を口実に約束を破るなんて納得できません」
 帯素は不敵に笑った。
「召西奴よ。お前のように賢い者が現状把握も出来ないのか。すべては私が決める。お前は断わる権利も力もないことを忘れるな。私の申し出を受け入れなければ、お前とヨンタバル商団を許しはしない」
 そう言って帯素は美味そうに酒を飲んだ。

 商団に戻ったヨンタバルは頭首らを集め、対応策で腐心した。
 そこへウテがゲルのヤンタクからの書簡を持ってきた。ソンヤンが思惑を持って動き出し、首長会議を主導しているとの報である。ソンヤンたちによってゲルが攻撃されるかもしれない危機を伝えてきたわけだった。
 ヨンタバルの妹チョリョンは、召西奴に帯素のもとへ嫁ぐよう説得する。
 お前の好きだった朱蒙が亡くなった以上、もう吹っ切った方がいい、お前はゲルの運命を握っている、ゲルを救うため帯素のもとへ嫁いでくれ、というわけである。
 気持ちの追いつめられた召西奴は、庭に出て朱蒙との楽しい思い出に浸り、涙を流した。
 そこへウテが召西奴を呼びにやってきた。
「お嬢様。モパルモを助け出しに行く時間です」
 マリたち実行部隊によるモパルモの救出作戦は静かに進行していた。護衛を倒し、マリたちはモパルモの工房へ侵入した。
 三人は作業を続けていたモパルモの前に立った。
「私のため、お前たちまで危なくなるじゃないか」
「心配しないで急いでください」
 ヒョッポは覆面を脱いで言った。ムソンも急かした。
 表では召西奴が待っていた。
「お疲れでした。房長はゲルに向ってください。ゲルで房長をお守りいたします」
「私のためにお嬢様まで危害が及ぶかもしれません」
「心配しないでください」
 召西奴は優しく笑みを浮かべた。
「商団の護衛武士が房長をゲルまで護衛いたします」
「房長がいなくなった事が分かれば、私も無事ではいられない。私もゲルに行きます」
 ムソンはマリたちも誘った。
「お前たちも疑われるから一緒に行こうじゃないか」
 オイが答えた。
「俺たちは夫余に残ってユファ夫人を守ります」
「兄貴。俺たちのことは心配しないでくれ」
 ヒョッポもマリも同調した。
「房長。お体を大切に。機会があれば、また会いましょう」

 モパルモを逃がし、帯素はカンカンになってナロを叱り付けた。
「何をやってたんだ。鉄塔になって鉄器工房を警戒しろと言ったじゃないか」
 ナロは唇を噛みしめた。
「モパルモの剣が漢の鋼鉄剣より優れているなら、絶対捕まえるんだ。何としてでも捕まえろ」
 ナロはマリたちを一番に疑った。ナロは剣を突きつけてマリたちを問いつめるが、金蛙王の忠臣ソンジュが助け舟に入って事なきを得る。

 帯素は王妃(母)に切り出した。
「ヒョント城に行ってソルランを連れてきます」
 王妃は複雑な表情になった。
「帯素よ」
「はい」
「いくら夫余のために選択した政略結婚と言っても、婚姻後はソルランもあなたの夫人であり、夫余の人間だ。あなたを頼って遠くからやってくる。この母と同じ思いはさせないで。わかったわね」
「・・・」
「行ってらっしゃい」 

 帯素はヒョント城に出向いた。
 ハフチョンから来訪の報告を聞いたソルランは嬉しそうな表情をした。
 帯素が訪ねてきて、ヤンジョンもご機嫌だ。
 ソルランが姿を現し、帯素らは行儀よく挨拶しあった。上機嫌でヤンジョンは言った。
「私は平気だったが、ソルランはひどく気をもんでおったぞ」
 二人は目を見交わし合った。
「夫になる帯素王子が来る日を待ち焦がれておったのだ。はっははは」
「お父様ったら」
 酒を酌み交わしながら、ヤンジョンと帯素は現状を話し合った。
「クムワ王の容態はどうなのだ」
「まだ、危篤状態です」
「そうか。残念だが、それも無謀な戦を行なったせいだ」
「・・・」
「戦で我が漢軍が受けた被害も甚大だ。帯素王子の立場を考えて直接的な保証は求めないが、公益品目の条件を変えてほしい」
「太守の考えに従います」
「うむ。真蕃と臨屯を脱出して、夫余に向った流民たちが多くいる。流民たちをこっちに戻してほしい」
「それは・・・」
「それが出来ないようなら、私がいくら努力しても皇室とヨドン軍を説得できるわけがない」
「・・・おっしゃる通りにします」
「あっははは」
 ヤンジョンは帯素の心を見透かすように笑った。
「帯素王子と私がいる限り、漢と夫余は二度と戦うことはない。あっははは」

 ヤンジョンは娘のソルランに言った。
「戦をした敵国にお前を行かせるのは気が重い」
「心配しないでください。私はみなに尊敬される夫余の王妃になります。尊敬されると同時にみなに恐れられる夫余の王妃になります。夫余を私の手に入れるまで見守ってください」
「わかった。お前を信じよう。辛いことがあったらいつでも連絡をよこせ」


 召西奴はウテを呼んだ。
「ウテさん。私と結婚してください」
「どうしたのです。私と婚姻したいなどと・・・」
「ウテさんに断わられたら、私は帯素王子の側室になるしかありません」
「ゲルに戻ればいいでしょう」ウテは毅然と言い放った。「夫余との関係を切っても我が商団とゲルは生きられます」
「昔とは違います」
 召西奴は冷静に応じた。
「帯素王子がヤンジョンの娘と婚姻すれば、夫余と漢は同盟国になり、ゲルは孤立してしまう」
「・・・」
「でも、私が婚姻してしまえば帯素王子も仕方がないでしょう。帯素王子はヤンジョンの娘を連れにヒョント城に行きました。今がその機会です」
「・・・」
「突然の提案に驚いたと思う。でも、他の選択をする余裕も方法もないの」
「・・・」
「私の心はまだ、朱蒙王子のことでいっぱいだけど、時が経てば忘れることもできるでしょう。ウテさんは私が幼い時から信じて頼ってきた人。どうか、私の気持ちをわかってほしいの」
 召西奴の気持ちを感じ取り、ウテは彼女の願いを受けた。
「お嬢さんの頼みなら、そのために死ぬことになっても構いません。だが、私がお嬢さんの主人になる資格があるか、心配なだけです」

 召西奴は番頭会議を招集し、みなの前でヨンタバルにウテと婚姻することを伝えた。
「私は帯素王子の側室にはなりたくありません」
 これには他の者はむろん、ヨンタバルまでも異を唱えたが召西奴の意志は固かった。 

 二人だけになった時、サヨンは召西奴に言った。
「ウテ兄さんが気の毒です」
 召西奴はサヨンを見た。
「心には朱蒙王子のことしかない人と婚姻するのですから」
 召西奴は答えた。
「時が経てば、忘れられるでしょう。これからはウテさんを愛していく」
「好きな人を忘れるというのは思うようにはならないものです」
「忘れてみせる」
 悲壮な声で泣き濡れながら召西奴は言った。
「私のことを残して行ってしまった人のことなんか、きっと忘れてみせる。忘れてみせるとも!」

 ヨミウルはヤンタクを呼んだ。
「その後、クムワ王が回復したという連絡はありませんか」
「ありません」
 ヨミウルはため息をついた。
 ヤンタクは言った。
「ゲルの召西奴お嬢様が婚姻なさったそうです」
「誰とですか」
「相手はウテ番頭です」
 
 ソリョンはヨミウルに言った。
「召西奴お嬢さんの運命は難しくなってきそうです」
「どういう意味?」
「召西奴お嬢さんと婚姻したウテ番頭は印象が暗かったです」
「暗いとは?」
「死の影がかかっていました」

 モパルモは酒を吹き付け、自分の作ったお気に入りの剣を眺めながら嘆いていた。
「この剣の主人をどうやって探すんだ。ああ、嘆かわしい」
 ムソンは剣を取り上げ、振り回して言った。
「この剣の主人が私ではどうだ」
「何を言ってる」モパルモは剣を取り返した。「この剣の主人は朱蒙王子しかいない」
「まったく、房長のその気持ちはわかるけど、死んだ人に仕えるなんて・・・未練はいい加減に捨てて、そろそろ生きている人に仕えなきゃ・・・」
「・・・」
 モパルモはじろっとムソンを睨んだ。
「新しい主人に召西奴お嬢さんはどうかなと思うが・・・房長はどうだ」
「召西奴?」
「うん。女だけど、あれほど度量の大きい人も珍しい。私はムドクを連れてきてこのゲルに骨を埋めるつもりです。房長もよく考えてみてください」
「・・・王子様・・・」
 モパルモは剣を握りしめて泣き叫んだ。

 ソルランは馬に引かれた御車に乗って夫余に嫁入りしてきた。
 プドウクプルは「今回の婚礼を機にユファ夫人の軟禁を解かれたらどうでしょう」と進言した。
「夫余のために善政をしくのです。よい機会となりましょう」


 ヨンポはトチの商団本拠宅で気の抜けた酒を飲んだ。
「不思議だ。帯素兄上が婚姻したのは夫余の慶事で喜ぶべきことだが、どうしてか気持ちがさびしくてならない」
 ハンダンが軽い調子で相槌を入れた。
「それは王子様にふさわしい方がまだおられないからでしょう」
「ばか者。そうではないよ。私は女には関心がないのだ」
 トチが目をぱちくりさせながら訊ねた。
「では何に関心があるのです」
「うむ。一時は夫余の太子になるため努力したりしたが、それは私の席でもなくなった。急に人生の目標がなくなってしまった。それで空しくなってしまった。お前たちにはこの気持ちはわからないだろう」
「では、人生の目標をまた作ればいいではないですか」
「目標なんかいらない。生きる張り合いもない。張り合いもないんだよ」
「王子様」
 ヨンポが行こうとするのをトチは呼び止めた。
「お話があります」
「言ってみろ」
「王子様はすべてを失った私に機会を与えるとおっしゃいましたね。まだ、何のお話もないものですから」
「何を言ってる。今、生きる張り合いもないと言ったばかりではないか。何の意欲もない私がお前の心配などしておれるか。そのまま、待っていろ」
 ヨンポは行ってしまった。
 トチは地団太踏んだ。
「あんな男に全財産など賭けるんじゃなかった」

 ナロに召西奴が婚姻したと聞き、帯素は頭に血を上らせた。いそいで召西奴のもとに駆けつけた。
 帯素に恭しく挨拶して召西奴は訊ねた。
「何の御用ですか?」
「本当に婚礼を挙げたのか」
「はい。王子様も婚礼を挙げたのに私はしてはいけませんか」
「私を避けるために浅知恵を使ったな」
「軽々しく言わないでください。今まで私が頼ってきた方なので婚礼を挙げたのです」
「黙れ! 私の提案を断わったらどうなるか警告したはずだ。どんなに愚かなことをしたのかまだわからないのか」
「王子様の気持ちは受け入れられないと、きちんと申し上げたはずですが」
 帯素は目を充血させて言った。
「私を侮辱したらどんな目に遭うか。必ず思い知らせてやる」
 帯素は召西奴を睨みつけて引き揚げて行った。
「お嬢様・・・」
 ウテは心配そうにした。
「心配しなくていいわ。帯素王子は諸臣下の目や民心に気持ちを配らねばなりません。
何の名分もなく私たちを殺めたりはできません」

 クムワ王の意識は相変わらず回復しない。ユファ夫人は不安は募るばかりのようであった。

 ソルランは帯素の気持ちが晴れないのを微妙に感じ取っていた。それが誰のせいであるかもわかっているようでもある。

 意識の戻らないクムワ王の前でユファ夫人は祈りに似た思いをぶつけた。
「陛下、早く元気を取り戻してください」
 そうして手を握った。
 するとその手を感じたようにクムワ王は目を開けた。
 ユファ夫人の顔に喜色が走った。

 その報が王妃らのもとにもたらされると、ヨンポは喜んだが彼女は気の抜けたような顔になった。そんな母をヨンポは意外そうに見つめた。

 その頃、ピョリハは三足鳥が空に飛び上がる姿を見た。それを伝えてヨミウルの胸で気を失った。
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