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韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(60)
ジェヒは車でウンジェを送っていった。ウンジュは話もせず車窓に目をやり続けている。
元気のないウンジュをジェヒは気遣った。
「音楽でも聴くか?」
「いいえ。うるさいからこのまま行きましょ」
ほとんど会話もなくジェヒはウンジュを家まで送ってきた。
キジョンはヨンオクと家に帰りついた。
家に入って行こうとしているところにジェヒの車がやってきた。
キジョンらはジェヒの車に気付く。車からはウンジュが降りてくる。
「どこに行ってた?」
「食事よ」
ジェヒとキジョンらの間に重い空気が漂う。
「お帰りになって」
ヨンオクが冷たい口調で言った。
キジョンとウンジュは意外そうにした。
「早く行って」
ジェヒは頭を下げて車に乗り込んだ。
エンジンをかけ、走り去った。
ウンジュはヨンオクに歩み寄った。強い口調で問いただした。
「どうしたって言うの?」
「分からないのか?」キジョンが訊ね返した。
何を言っても父とぶつかることになる。
ウンジュは黙り込み、先に表玄関のドアを押して入っていった。
ヨンオクもキジョンを促した。
ウンジュの部屋にヨンオクがジュースを持ってやったきた。
ウンジュはベッドの縁に腰をおろした。ヨンオクも同じようにした。
「どうして彼にあんな態度を?」
「憎いからよ」
「・・・」
「あなた、これからもジェヒに会うつもり? なぜ会うの?」
「昔から親しくしてきたのに急に関係を切れる?」
「男女の仲は――私が知る限りそんなものよ。一度手をつなげば・・・それ以前の関係には戻れないの。一度キスをすれば――キスする前の関係には戻れない。そう振舞ってるだけよ」
「・・・」
「辛いだろうけど、忘れなさい。思い切って切り捨てなさい」
「疲れてるの。休みたいわ」
「そうしなさい。そうでないとあなたが辛くなるだけよ。ジェヒは諦めなさい。諦めて他の人を見つけなさい。あなただけを愛し、あなただけを気遣ってくれる――そんな人と会いなさい」
「そんな人が見つかるかしら?」
「見つかるわ」
「今までいなかったのに、そんな人が現れるかしら?」
「・・・」
「ママは愛されてるから堂々と言えるのよ。愛されない人間は――自分の存在が無用で粗雑で――くずに思えてくるのよ。くずに付き合ってくれるのだから、感謝すべきじゃないの?」
「・・・」
「それに”愛”がそんなに容易い? そんなに簡単に切れるもの? ママは誰かを真剣に愛したことがある? パパ? 私も知ってるわよ。ママはパパを愛してなどいないわ」
「・・・!」
「出ていって」
今日のミジャは「ラブストーリー」にはまり込んでいる。胸をときめかせている。
そこにジェヒが帰ってきた。
むろん、ミジャは気付かない。
ジェヒは”またか”の表情で部屋に入っていく。
上着を脱ぐとジェヒはベッド上に仰向けで倒れこむ。大きく伸びをして腕枕で横になる。
思い浮かべるのは映画のワンシーンじゃない。クムスンのことだ。
率直で飾り気のない彼女の姿がいつまでも目の奥で動き続けている。
口を大きく開けて混ぜご飯を食べていた彼女・・・。
ふと思い出し笑いする。
シワンは二階のテワンの部屋にやってきた。
テワンはシワンに”初夜のため”と称し、顔パックをほどこしてやった。
そのせいではなかったが、シワンはテヨンと父親のために小遣いを与えた。まとまった金にテワンは驚いた。
シワンはクムスンの部屋にも顔を出した。
「お義兄様。明日はいよいよ結婚式ですね」
「あっはは、そうみたいだ」
シワンは手荒れ予防の軟膏をクムスンに差し出した。
「夜に塗って手袋をすれば効果があるそうだ」
シワンの結婚式の朝。
まだ起きてこないテワンを呼ぶ声が響き渡る。
テワンが降りてくる。
「早く食べなさい。準備して早く行かなくちゃ」
結婚式に備え、粛々と食事する家族の前でテワンは大きくあくびをする。
「その口を閉じろ」
ピルトがテワンを叱り付ける。
「食事がすんだら私たちも美容室に行くわよ」
「なぜ美容室に?」とクムスン。
「なぜって、韓服を着るから髪を整えるの」
「私がします。うまくできますよ」
ジョンシムはクムスンを見る。
「いいのよ。あなたも準備で忙しいでしょ」
「私がしますよ」
「そうだよ。クムスンに頼め」
ピルトが加勢する。
「家に美容師がいるのにどうしてよそに行く?」
「この子はまだ研修中よ」
「お義母さん、私を信用できないんですね。そんなに不安ですか?」
「そうよ。正直、信じられないわ。この髪がひどい目に遭ったのよ。二度は騙されないわ」
クムスンはシュンとなった。
「事実なんだから仕方ないでしょ。だから今日はみんなで美容室よ。変な格好で行ったら一家で笑われるわ。いいわね」
「・・・じゃあ、お義父様と私は・・・」
「ああ、もう――ダメだと言ってるでしょ。今日は、シワンの結婚式なのよ」
クムスンは仕方なく黙った。
韓服を着込みながらスンジャは言った。
「立派だわ。若いお嬢さんが社長だなんて。稼ぐんですね」
「そうだろうさ」
「大学も長男と同じ一流大の出身ですよ。クムスンのお姑さんは幸せよ。賢い人を長男の嫁にもらって」
「でも、けっこうな年なんだろ。息子と同い年だから31だが32だよ」
「それが欠陥だとでも? やり手の女性の中ではずいぶん若い方ですよ。近頃は才能のある女性は結婚も遅いし――結婚しない人だって多いわ。収入の桁が違うから――義父母に渡す小遣いの桁も違うわね。羨ましい限りだわ」
「・・・」
「とにかく申し分はないし、長男も立派だからその女性と結婚できるんでしょうけど、婚家は一家で――今回の結婚を大歓迎してるはずよ」
ジョムスンは次第に不機嫌な顔になっていく。
「ジョンワンの時はがっかりしたはずだし・・・」
「どういう意味だい?」
スンジャはパウダーの手を止めた。
「どういうことだ? 朝から何を言ってる」
「お義母さんったら、正直にならなきゃ・・・ジョンワンとクムスンが反対されたのは事実だし・・・そうでしょ?」
「・・・」
「婚家のご両親は――人の道理としてあの子を引き取っただけだわ。あの時クムスンが――妊娠してなければ結婚は難しかったわ。ジョンワンに釣り合わないもの」
「だからどうしろと? どうしろというんだ!」
スンジャはジョムスンを急かした。
「遅れますよ。準備してください」
準備を終えたスンジャはクマを呼んだ。
クマは鏡で服を選んでいた。
「待って。今着替えてるから」
お祝い客は次々に訪れる。
盛大な結婚式だった。
大きな鏡の前でウエディングドレスに身を包んだソンランは、会社の部下たちから羨ましがられている。
「わあ、きれい。私も結婚したいな」
そこへジョンシムとフィソンを抱いたクムスンが顔を出した。
「お義姉さん、すごくきれいです」
「来たのね。お義母さん、いらしたんですね」
「ほんときれいよ」
「ありがとうございます」
「ドレスも洗練されてるわ」
ソンランは部下たちに挨拶を促す。
挨拶を返してジョンシムたちは出ていく。
トイレにやってきたジョンシムたちは、手洗いを待つ間、今日結婚するカップルの噂話を耳にした。
「新郎は初婚でしょ?」
「そうみたい」
「すごいわ。初婚の男をつかまえて」
「でも、新郎も欠けたところがないそうよ」
「そうなの?」
「だから、新郎の両親は複雑な心境のはずだわ」
「バツイチの子持ちとの結婚なんて」
「そうよね。だから男も女も能力が必要なの」
「やり手だから許したのよ」
「何もなければ認めないわ」
女たちは出ていった。
ジョンシムは今聞いた話を話題にした。
トイレを出てくるとお祝い客の応対をしている他家の両親がジョンシムの目に止まった。
「トイレで話してるの聞いた?」
「はい。新郎は初婚で新婦はバツイチみたいですね」
「あの人たちが新郎のご両親みたいね」ジョンシムは舌打ちした。「お気の毒に。まともな息子をバツイチの子持ちになんて。どんな心境だったかしら?」
「・・・」
「見てごらんなさい。暗い顔してるじゃないの」
「そうですかね・・・? そう言われればそんな気もします」
「見れば分かるじゃない。暗い顔してるわ。あれが息子の結婚する表情とは悲しさを覚えるわ」
「・・・」
「無理しても笑うべきなのに・・・あまりに呆然として笑いすら出てこないのね。だからあんなに固まってるのだわ」
また舌打ちする。
クムスンが言った。
「お義母さん、早く行かなくては」
ジョムスンとスンジャとクマがやってきた。
ジョムスンらとピルト夫妻はふだんの表情を離れ笑顔で挨拶を交し合う。
クマも丁寧にお祝いの挨拶をした。
「来たな」とテワン。
テワンに対してクマははにかんだ。
テワンに挨拶されたスンジャは、”ひょっとして?”の顔をちらとクマに向けた。
花婿と新婦の登場を待つ間、クムスンはここぞとばかりジェヒからもらったデジカメを使おうとするが思うように使えない。
外に出てジェヒに電話を入れるが通じない。するうち、新郎の登場の案内がされて、クムスンはやむなく会場に戻った。
新郎が一人で登場し、次に新婦がワグナー「ローエングリン――婚礼」の楽曲に乗り、父親に手を取られて登場すると、セレモニーの場は一気に盛り上がる。
ピルトとジョンシムは感無量の笑顔、ソンランの母親は複雑な表情を娘に送る。
シワンとソンランは幸せそうだった。
フィソンを抱いたクムスンは二人の背中を見ながらジョンワンとの結婚式を思い出していた。
そんなクムスンの背中を複雑な思いで見つめるジョムスンだった。
「ああ、疲れた。でも、着替えたら仕事にでなくちゃーね」
結婚式から引き揚げてきたスンジャは床に腰をおろすなりさっそく切り出した。
「お義母さん、クムスンの義姉の顔をよく見ました?」
「・・・」
「ただ者じゃないわ。見ました」
「結婚式に行ったんだ。当然、見たさ。手ごわそうだったわ」
「お義母さんもそう思いました? あれは相当な気性で攻撃的ですよ。クムスンはもっと苦労しそうですね」
ジョムスンはスンジャを見た。口をとがらした。
「あなたはそれが問題なのよ。どうして物事を悪い方へ悪い方へと考えるの? 社長だって人が――しっかりしてなければ会社はどうなる? 社員に給料だってろくにやれないだろ」
「・・・」
「同じことを言うなら"堅実な人”と言えばいいのに、”相当な気性で攻撃的”なんて言い方しなくてもいいだろ。あなたも”ゾウやカバ”と言われるよりも――”上部で健康そう”と言われる方がずっといいだろ」
スンジャは反論できずに服を脱ぎだす。
「何か間違ってるかい?」
ジョムスンも靴下を脱いだ。
「ああ、爽快だ」
黙って自分を見ているスンジャに言った。
「何してるの? 仕事に行くんだろ?」
電話の送受器を握る。
「ちょっとクムスンに電話してくれ」
スンジャは黙って電話番号を入力してやる。隣の部屋に入っていった。
「クムスンか? 何をしてる? ちょうどいい。出かける時に寄りなさい」
クムスンの家族も家に帰りついた。
「新郎も新婦も素敵でした」とクムスン。
「シワンもなかなかの器量だったわ」
「ええ。本当になかなかの器量でした」
ジョンシムはクムスンを見た。
「あなたまでそんな言い方はダメよ」
「はい。器量がよろしい、でしたね」
「クムスン。そういう言葉は目の上の使うべきじゃないんだ」とピルト。
「はい。これから気をつけます。お義母さん」
クムスンは改まって切り出す。
「これから美容室に出勤しないと・・・」
「分かったわ。行きなさい――フィソン、ママは仕事に行くそうよ。あらあら、眠たそうね。お昼ねしましょ。行ってきなさい」
ジョムスンのところにクムスンが駆けてくる。
ジョムスンは公園のベンチに腰をおろしている。
「おばあちゃん、どうしたの?」
「天気もいいし――お前の顔をもう一度見たくて・・・座りなさい」
「さっきはたくさん食べた?」
「食べたよ。おいしかった」
「お義兄さんとソンランさん――そうだ、これから何と呼ぼうかな・・・?」
「お義姉さんだよ」
「お義姉さん?」
「そう、お義姉さんよ。そう呼ぶもんだ」
「わかったわ。お義姉さんを見た? すごくきれいだったでしょ?」
「そうだ。結婚式の新婦は誰でもきれいなのさ」
クムスンは苦笑いする。
「じゃあ、私もきれいだった? 当然じゃないか。本当にきれいだったよ。とてもきれいだから私は――天女が舞い降りたかと思った」
「まさか・・・でも、嬉しいわ」
「クムスン」
「はい」
「お前は立派だよ」
「急にどうしたのよ?」
ジョムスンはヨンオクを思い出していた。彼女はクムスンを迎えに戻ってこなかった。
「いや、立派だよ。あまりに立派だから――表彰状を上げたいくらいだ」
クムスンは祖母の言葉をかしこまって受けとめた。
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