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韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(98)
すぐ後からクマが帰ってくる。クムスンは路地側からも見えないように車の横に隠れた。
クマは自宅の前までやってきた。人が立っているのに気付いたが、そのまま入ろうとする。すると声がかかる。
「私を覚えてない? 前にも一度お母さんを訪ねたんだけど」
「ああ・・・こんばんは。母の同僚の方ですよね」
「あっ・・・はい。今、学生さん? いいえ。卒業しました」
「きれいになったわ」
「・・・」
「お母さん、いるかしら」
「いると思います」
「だったら――呼んでくれないかしら」
クムスンは車の陰から二人の様子をうかがう。
「お母さんに話したいことがあるの」
「でしたら中へどうぞ」
「それは結構よ。お願い。話があるから外で待ってると伝えてくれない? ぜひに会いたいと」
クマは了解して家に入っていった。
スンジャが出てくるのを待つ間、ヨンオクは縁台の縁に腰をおろした。クムスンが隠れている車のすぐそばだ。ヨンオクは見るからに疲れているようだった。
「誰だって?」
スンジャはクマに訊ねかえす。
「前に門の前で会った人よ。母さんの同僚だとかいう人」
「誰だかぜんぜん分からないわ」
「ほら、私が飲食店で働きそうにないって言った人よ」
瞬間、スンジャは気付いた。
「話があると言ってて、外で待ってる」
誰かわかったが、スンジャはどう対応しようか迷う。
スンジャが出てくる。
「どうしたんです」
「出てきてくれたわね。話があるのよ」
「・・・」
「カフェがあったからそこで話しましょう」
スンジャは困った顔をする。
「私はあなたと話すことなんてないのに」
「ごめんなさい。これで最後にするから」
「だったらここで話を聞くわ」
「ここだとお義母さんが出てくるかもしれないし――立ち話をするのはとてもつらくて・・・」
スンジャはやむなく店に向かって歩き出す。
一緒に歩いていく二人にクムスンもついて行くことにした。
ソンランはシワンに言った。
「どうして先に帰ったの」
シワンは黙っている。怖い目でソンランを睨んでいる。
「どうしたの」
「男と会ってたとはな」
ソンランはベッドに腰をおろした。
「単なる友達よ。約束があると言ったでしょ」
「それに結婚したことを隠してたな」
「昨日、帰国したから話す暇がなかったの。向こうから誘われて――さっきは会ったばかりだったし、話す暇なんてなかったわ」
「そんなの言い訳にもならんぞ」
「どうしてよ」
「何だと――立場を替えて考えてみろ。俺の会ってる女性が俺を独身だと思ってたら――気分はどうだ?」
「説明されれば私は平気よ。ああ、そうか、と理解できると思う。あなたを信じてるから」
シワンを見てソンランは真顔になった。
「つまり――信じてないのね」
「そんな問題じゃない」
「だったら何なのよ」
「・・・」
「私を疑ってるんでしょ。私が未婚の振りして男性と遊んでるかと。違う?」
「違うさ」
「なら、何よ」
「とにかく、すごく気分が悪い。お前にとって俺は何だ。馬鹿にされてるし、信用されてない」
「何なの? 怒ったの?」
「結婚や夫をどう考えてるんだ? 自覚してるのか? お前の考えがさっぱり分からん」
シワンは怒って部屋を出ていった。
シワンは庭に出た。そこにテワンが帰ってきた。
「メークしてるか?」
「よく分かったな。撮影があったんだ」
「・・・」
「急な呼び出しで行ったら、また代打だったよ。でもこれはチャンスだと思ってる。真夏に毛皮を着て、暖炉の前で幸せそうな顔を作ったさ」
「大変な仕事だな」
「そうだよ。汗だくになったからシャワーを浴びるよ」
「ああ、そうしろ」
「お変わりない? みんな元気でしょ」
「そうよ。ところで話って?」
「クムスンも元気なのかしら」
「旦那さんに聞いたはず」
「ええ。地方の大学に通ってると。問題ない?」
「ええ。話とは・・・」
「私、病気を患ってて――悪化してきてるの。ショック状態になり、意識が戻らなかったら――どうなるか分からない」
「・・・」
「だから、もう時間もないと思って・・・罰よね。赤ん坊を見捨てたんだから」
「・・・」
ヨンオクはバッグを開けた。包みを出した。
「何です?」
「通帳――クムスンが結婚する時に使って。半分はあなたへの感謝の気持ちよ」
「・・・」
「クムスンの成長は――あなたたち夫婦のおかげだったと思うから。こんなお礼の仕方でごめんなさい。申し訳ないけど――この気持ちは本心だと分かってほしい」
「ダメです。これは受け取れません」
スンジャは包みを押し返す。
「私は自分の罪を自覚してるわ。許してもらおうなんて思ってない。ただ、何かをしてあげたいの」
「・・・」
「私は罪深く何も出来ない人よ。恥を忍んで用意したから、どうか受け取って」
「・・・」
「私は一瞬たりとも忘れたことはないわ。私が産んだ子だし――会いたい思いは骨に染みるほどだもの」
「なぜ・・・もう少し耐えなかったんですか。お義母さんが厳しくたって――我慢し続けてればそのうち変わってくるのに」
「死ぬほど後悔して正気を取り戻した時は――もう米国にいたわ。帰ってきたいと何度も思ってたけど」
「・・・」
「いいえ・・・こんなの言い訳になるだけ・・・お願いよ。将来、クムスンも
嫁ぐことになるでしょ。その時、母親がいないから・・・寂しくないよう――気遣ってあげて。どうか、お願い」
二人は店を出てきた。
クムスンは二人について店まで来ていた。
スンジャはヨンオクと挨拶を交わして帰っていった。
ヨンオクも歩いて帰り始める。ヨンオクの動きにつれ、クムスンは階段をおりる。
ヨンオクの話を聞き、母への恋しさの募らせたクムスンは、母親から自分を隠す気持ちなど失せていたかもしれない。
トントントンと階段をおり、人の気配をさせ、自分を気付かせたかったかもしれない。
ヨンオクは後ろを振り返った。そこには美容室のナ・クムスンが立っている。彼女の不思議な印象はさらに濃くヨンオクの胸に刻まれる。
しかし、クムスンはヨンオクから目を逃げた。顔を背けた。母親の閑職を知らない悲しさか――そのまま意固地に歩き去ろうとする。一度振り向きかけるが、そのままヨンオクの前から歩き去った。
ジェヒの気持ちがクムスンに傾いているのに気付いたウンジュはそれが信じられないでいる。
「呆れたわ・・・ク・ジェヒ、あなた笑わせるわ。ナ・クムスンなの? 好みが変よ。変わりすぎてるわ」
悲しさとバカバカしさの混じった笑いが胸の隙間からついもれ出てしまう。
ミジャはそれを見て怪訝そうにする。
「どうしたの?」
「院長」
「こんな暗いところで何してるの?」
「院長」
「えっ?」
「ジェヒさんの好みって変わってますね」
「ん? ああ、ファッション感覚は独特よね」
ウンジュの気持ちなど分からずミジャは答える。
「・・・」
「でも、それなり着こなしてると思うけどどうしたの? 買い物に行って喧嘩でもした?」
「ええ、まあ・・・なぜ、ここに?」
主治医はキジョンに言った。
「俺が負けた。言うとおりにするよ」
「ありがとう」
「ヨンオクさんの血圧が低く、手術を急がないといかん。下手したら、手術もできなくなる」
「そうだな。ありがとう」
「腎臓提供者に会って検査をしよう」
「わかった。明日にでも連絡する」
勉強の傍ら、ジェヒはクムスンのことを思って一人笑いしている。
そこにミジャが顔を出した。
「お帰り。遅かったね」
ミジャはいきなりぐちをこぼす。
「最近、何日もぜんぜん眠れなくて――身体がだるくて仕方がないの。健康ランドに行かない?」
ジェヒは首を横に振る。
「行かない」
「即座に断るなんて、ほんと薄情なんだから」
「母さんの方が突拍子もないよ。眠りがこないなら、うちの睡眠クリニックに通ったら? 今度、精神科が出来たんだ」
「この子ったら何を言い出すのよ。精神科ですって?」
「予約してあげようか?」
ミジャはジェヒの腕を叩いた。
「何て子なの」
「痛いよ」
「ウンジュが怒るわけだわ。だけどウンジュの好みが変わってるのよ。こんな男が好きだとは。まったく情のかけらもないんだから」
グチと文句を並べるだけ並べてミジャは出ていった。
「悪いこと言ったか? 眠れない人に何て言えばいいんだ?」
病院に帰ってきたヨンオクはクムスンのことがますます頭から離れない。
「なぜ、私から逃げたの? それにあの辺に住んでるのかしら・・・」
――今、お幾つなの?
――満23歳になりますから――数え年では24歳で・・・
「まさか・・・いいえ、ありえない」
ヨンオクはベッドに戻って腰をおろす。
自宅に帰ってきたクムスンはフィソンのホッペにキスをする。
フィソンの寝顔を見ているうち、今日見た母親のことを思い浮かべる。
スンジャもジョムスンも眠れない。
二人は身体を起こした。
「何があっても起きない人が珍しいことだわ」
「怒りが治まりません?」
「いいや。胸が痛んで眠れないだけよ」
「クムスンのことでですか?」
「・・・」
「何と言ってました?」
「別に何も。大丈夫だから――気にしなくていいと言ってただけよ」
「・・・」
「むしろ私に――怒ってくれれば楽だった。なぜ母親のことを隠したのかと」
「だけど、母親に会いたがらないことを満足してたはずです」
「正気なの?」
「お義母さん・・・」
「なぜ、そんなことを?」
「死んだと思ってた母親に会わないと言ったのは――どんな思いなのか・・・想像しただけでこの胸をえぐられる思いなのに・・・それを満足してると?」
「でも会いたいと言われたらそれも寂しいでしょ」
「・・・」
「違います? 胸が苦しいのだって――母親に会わないと言うから・・・」
ジョムスンはスンジャの話を無視して立ち上がった。
「どこへ?」
ジョムスンは暗がりの中、部屋を出ていく。
「まったく・・・」
スンジャはヨンオクからもらった通帳を思い出した。それを引っ張り出し、嘆息する。
「どうすればいい? 手術の件も言うべきかどうか悩ましいってのに――何てことかしら・・・みんな私のところにきて悩みを膨らませる・・・」
居間に出てきたジョムスンは暗がりの中で紙切れを取り出した。それを見て電話をかけた。
「クムスンか。私だけど・・・」
「おばあちゃん、まだ寝てなかったの?」
「暑いせいなのか、どうしても眠れなくて・・・寝てなかった? こんな時間なのに・・・うん。それより、クムスン・・・夕食は?」
クムスンは笑う。
「もう夜中よ。すませたわ。私を心配してるのね。嘘をつかないで。心配しないで。今日も元気に過ごしたから。誰の孫だと思ってるの?」
「お前さえ大丈夫なら何も心配ないわ。明日も仕事でしょ。もう寝なさい」
ノ家の朝食。
「わあ、ごちそうだな」とシワン。
クムスンは笑顔全開だ。
「お義父さまの好きなマナガツオの煮物です」
「ありがとう。そういえば、昨日、保育園を調べてきたぞ」
「本当ですか?」
クムスンは身を乗り出す。
「隣の人に聞いた所が――施設も悪くないし、みんな同年代でいいと思う。終日と午前のクラスがあるんだけど――最初のうちは午前かしらね」
「そうですか。今月からお給料が入るので――明日から行かせます」
「ええ。フィソンも照れながらも喜んでたからね」
「あら、フィソン照れちゃったの?」
「よかったわ。普通は人見知りをするんですけどね。給食も味見してみて、確認したほうがいいわ」
「そうですね――分かりました」
ジョンシムはソンランを見た。
「あなたも子供を産んだら、しっかり育てそうね」
ソンランはシワンと顔を見合わせる。
「そうです。お義姉さんはいい母親になりますよ。両親が賢いから家庭教師もいらないし」
「それじゃあ、誰かさんは嫁がなきゃな」
クムスンはムッとしてテワンに眼をたれる。
「どういう意味?」
「家庭教師が必要だろ。フィソンが心配だ」
「心配ないよ、クムスンさん。子供は愛で育てるんだ。頭ばかりで、心のない母親より――頭がよくなくても心の温かい母親がいいのさ」
シワンの言葉に、ソンランだけでなく、家族ぜんぶが緊張――いや、クムスンだけはそうじゃない。
「ほら、聞いたでしょ」
テワンを見て自慢げにする。
「君に言ったんじゃないような気がするがなあ・・・」
とテワン。
バツが悪そうにするシワンたちに、クムスンも何やら二人が変だと感じて・・・。
部屋に戻ってくるなりソンランは腕を組んだ。
「きちんと話をしなきゃいけないわ」
「・・・」
「いつでも時間を作って。いつがいい」
「さあ、今はわからない」
「何なの、いったい! 話をして解決しなきゃダメでしょ。私は忍耐力に欠けてるの。我慢できない。いつにする?」
シワンはソンランを振り向く。
「俺にとっては問題ないんだがな」
「シワン」
「昨日のお前と同じだ。行くよ」
「・・・」
ジェヒは朝から張り切っている。研修医の指導は厳しいが的確でりりしくもある。
クムスンも美容室に出勤してきた。ロッカーで着替えをしようとしたら携帯が鳴る。
キジョンからだった。
「元気でしたか? 早朝から迷惑だったかな。そうなんだ。他でもなくて手術の日程が決ったんだ」
「いつ・・・はい。わかりました。私もその日なら大丈夫です。いいえ。今日は無理なので明日の朝に伺います」
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