太陽光発電に“輝ける未来”はない ドイツ=料金高騰 スペイン=巨額赤字 設備利用率わずか12%
平成24年7月に始まった再生可能エネルギー固定価格買い取り制度によって、全国の農地はメガソーラー(大規模太陽光発電所)の黒々としたパネルで虫食いになり、民家の屋根にも次々とパネルが設置された。
全国で稼働する太陽光発電の総数は47万7967件(25年10月現在)。定格出力は、大型原発4~5基分にあたる計567万キロワットに達した。九州では出力115万キロワットの太陽光が稼働する。
だが、これだけ太陽光が普及しても電力不安は一向に解消されない。
昨年8月19日。午後4時台、九州電力管内は供給力に対する使用率が97%に達した。このわずか2時間前の午後2時台は、九州内の太陽光発電所が計60万キロワットの電気を起こしていたが、日が傾いたとたんに20万キロワットに落ち込んでしまった。九電は揚水発電の緊急稼働により何とか乗り切ったが、一つ間違えたら大規模停電が懸念される非常事態だった。
言うまでもなく太陽光発電は「お天気まかせ」。夜の発電量がゼロなのはもちろん、晴天でも定格出力の80%といわれているが、それも正午を挟んだ4時間に限られ、曇りになると3分の1に急落する。需要に応じて発電を制御することは不可能だ。
定格出力から導いた計算上の年間発電量に対する実際の発電量の比率を「設備利用率」という。石炭とLNG(液化天然ガス)火力の設備利用率は80%。原発は13カ月に1度、定期検査があるため70%。「風まかせ」の風力発電でさえ洋上で30%、陸上で20%あるが、太陽光発電はわずか12%。再生可能エネルギーの中でも最低に位置する。
しかも設備投資コストが異常なほど高い。
経済産業相の諮問機関、総合資源エネルギー調査会の試算によると、出力100万キロワットの原発の発電量を太陽光でまかなうには、山手線の内側に相当する58平方キロメートルの土地を手当てした上で、7兆~8兆円が必要となる。原発1基の建設費用は3600億円。同じ金額で20基以上の原発を建設できる計算となる。
こんな不安定かつ非効率でコスト高の電源が、原発の代替となり得るはずはない。メガソーラー事業を大規模展開する建設会社幹部でさえ、こう打ち明けた。
「本気で太陽光が原発に代わるエネルギー源になると思っている業者なんてほとんどいないですよ。太陽光発電は単なるビジネスの種でしかないんです」
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それでも福島第1原発事故後、首相だった菅直人のゴリ押しもあり、太陽光発電は再生可能エネルギーの花形となってしまった。日本の将来のエネルギー事情は一体どうなるのか。実はいくつか先例がある。
ドイツ政府は、1986年に旧ソ連(現ウクライナ)で起きたチェルノブイリ原発事故を機に「脱原発」をぶち上げた。代替電源として、風力や太陽光など再生可能エネルギーの普及を目指し、日本の再生可能エネルギー買い取り制度の下敷きとなる「電力買取法」(1990年)や「再生可能エネルギー開発促進法」(2000年)を次々に制定した。
しかも買い取り価格は日本より高かった。太陽光は2004年に1キロワット時あたり45.7ユーロセント(当時の為替レートで64円)と設定され、一気に普及。2012年末には太陽光発電の総出力は3132万キロワットとなり、世界一の規模となった。
この結果、太陽光や風力を含めた再生可能エネルギーの買い取り総額は急速に膨らんだ。2004年は36億ユーロ(5040億円)、2011年には167億ユーロ(1兆8300億円)に達した。
膨張する買い取り額は、国民が支払う電気料金を押し上げた。日本の制度と同じように、ドイツも買い取り価格を、電気利用者が支払う毎月の電気代に「賦課金」として上乗せされる。
2013年の一般家庭の賦課金は月額15ユーロ(約2千円)。国際競争力を保つため大企業は賦課金が減免されていることもあるが、日本の同じ年の賦課金105円に比べると負担の大きさがよくわかる。
賦課金を含め、電気代は10年間で2倍になり、ドイツ国民の不満は爆発した。
2009年に発足したメルケル政権は、翌年10月、「脱原発」政策を一部見直す法改正を実施した。ところが、2011年3月に発生した福島第1原発事故を受け、メルケル政権は再び脱原発に転じた。停止中や古い原発8基を閉鎖し、運転中の原発9基を2022年までに段階的に閉鎖することを決めた。
それでも賦課金問題は政権に重くのしかかる。
メルケル政権は2012年に買い取り価格を引き下げ、太陽光発電の出力が計5200万キロワットを超えた場合、制度を適用しないことを発表した。
ドイツ政府の諮問機関である研究・イノベーション専門家委員会は今年2月、こんな報告書を提出した。
「再生可能エネルギー開発促進法は電気料金を高くし、気候変動対策にも、技術革新にも役立たず、継続の妥当性は見出せない…」
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スペインも太陽光発電の“先進国”である。
ただ、ドイツと違って再生可能エネルギーの負担を国民に押しつけず、電力会社に押しつけた。
94年に固定価格買い取り制度を始めたスペイン政府は、買い取り価格を段階的に引き上げた。2007年には、前年の2倍となる1キロワット時あたり44.6ユーロセント(71.36円)に設定した。
この価格設定によってスペインの太陽光は爆発的に普及した。2011年の風力や水力を含めた再生可能エネルギーの発電量は、総発電量の3割を占める。
だが、政府は電力会社に対し、買い取り額の電気料金上乗せを認めなかった。
これにより、スペインの5大電力会社は260億ユーロ(3兆6千億円、2013年5月現在)の累積赤字を抱える状況に陥った。
スペイン政府は緊急措置として2012年から買い取り制度を中断したが、累積赤字解消の目処はなお立っていない。
太陽光発電に夢を追ったドイツ、スペイン両国のエネルギー政策は完全に暗礁に乗り上げているわけだ。
しかもドイツやスペインは大陸国家なので、島国の日本よりも条件がよい。電力が足りなければ他国から買えばよいし、余れば売ればよいからだ。
それでも不安定な太陽光発電や風力発電を増やしたばかりに、発電量の75%を原発で生み出す原発大国・フランスから大量の電力を買い取る羽目に陥った。
国際エネルギー機関(IEA)のデータ(2010年)によると、ドイツはフランスから年151億3200万キロワット時の電力を、スペインも35億100万キロワット時の電力を輸入している。ちなみにドイツがフランスに輸出した電力はわずか19分の1にすぎない。
ドイツはエネルギー安全保障上も「危ない綱渡り」をしているとしか言いようがないが、国境を越えて電力を融通できるだけまだましだ。需給の帳尻を自国だけで合わせなければならない島国・日本が同じ道を歩めば、その先には破滅しかない。
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不安定、非効率かつ高コストのメガソーラーによる農村部の景観破壊も深刻-。太陽光発電のあまりの問題の多さに、安倍晋三政権も普及のアクセルを緩め始めている。
買い取り価格は、制度導入時の平成24年度に1キロワット時あたり42円だったが、25年度に37.8円に引き下げられ、26年度は34.56円となる見通しとなった。
それでも昨年10月末段階で経産省が認定した太陽光発電計画は全国で66万5986件、2452万キロワットに達し、まだまだ増える公算が大きい。
経産省資源エネルギー庁新エネルギー対策課の担当者は「欧州の轍を踏まないよう動向を注視しているが、どこまで太陽光発電が拡大するかの予測は難しい」と語るが、すでにドイツ、スペインの轍を踏んでいるのではないか。
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