本を探していて、息子の子ども時代の本棚も覗いていたら、懐かしい一冊に目が止まった。
『しかのハインリッヒ』、この絵本は、当時、まだ幼児の息子と散歩のついでに立ち寄った本屋さんの絵本の棚から、何気に手に取ってみたら、なんと東ドイツDDRの絵本だったのだ。
私は、これは珍しい絵本を発見したと思い、即、買った。
それに、私の大好きな上田真而子の訳だということも、嬉しいことだった。
絵本の裏表紙に買った日付が記されている。
この日付に、今更だが、あれ?! である。
1989年って!!
日本での初版は、1988年10月31日。
因みにDDRでの初版は1960年。
なんと、その日本出版からほぼ一年後、あの歴史的な年、1989年だ……。
その年の9月、札幌の地元の小さな本屋さんで、偶然見つけた絵本……。
1989年11月9日
ベルリンの壁が、唐突に、崩壊したのだった。
呆れることに、
2017年の真夏の真夜中に、この事実に初めて、気付いたのだ。
この絵本を買った時には、東ドイツDDRがこの地球上から無くなるなんて想像もしていなかったはずだ。
このようなことに思いを巡らしつつ、絵本のページをめくる。
この絵本の対象年齢は四歳からとある。
どうだ!
見て欲しい。
この文字数を。
海外の絵本と、日本の絵本となにが違うかというと、この文字数、文章の長さである。
私が訪れた海外の本屋さんで観察していると、ほんと、四歳、五歳ぐらいの幼児が、親と連れだって来て、このような文字数の多い絵本を買っていくのだ。
また店内でも親の横に座り込んで、かなり文字数の多い絵本でも読む親の声に聴き入っていたりするのだ。
オランダでも、ドイツでも、子どもの本屋さんの方に訊いてみると、幼児でもこの文字数をちゃんと聴くという。
日本で出版される幼児絵本では、この文字数は、まず有り得ない。
先日、東京へ行ったおり、ある中堅どころの絵本作家さんと会う機会があり、なぜ児童書が売れないかという話になった。
その原因は多々あるだろうけれど、ひとつには長いセンテンスに対して馴れていないこともあるのではないかと、私は常々海外の絵本に比べて文字数が圧倒的に短い日本の絵本についての危惧を話した。
日本の絵本作家も出版社も、もっと子どもの理解する力を信じた方が良いと思う。
『しかのハインリッヒ』は、当時息子のお気に入りで、それは何度も何度もリクエストされて読んだものだった。
息子は、いつも飽きず聴き入っていた。
<追記>
2015年にドイツへ行ったおり、このベルリンの動物園へ行って来た。
ブランデンブルグ門をかつての西側から通り抜けた、真ん前の森というか公園の中にあり、かつてはここには、厚さが1メートほどの、東西を分かつ壁があった。
動物園の森の入り口には、東から西へと壁を越えようとして射殺された人たちの慰霊の十字架が並んでいる。
この最後の犠牲者は、壁の崩壊前一ヶ月である。
あと少し待てば、歓喜のなか、ブランデンブルグ門を通過することができたのだ。
<追記2>
更に歩いて行くと、ロマの人たちがナチスに虐殺された慰霊のエリアがある。
緑の木々に囲われたこの場所には、静謐な空気がながれたいた。
動物園はその先にある。
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