黒猫チャペルのつぶやき

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海の男!②

2006年08月21日 | みのりのつぶやき-旅行
 直島は瀬戸内海に浮かぶ小さな島だが、近年Bという出版社が美術館を建て、そこを中心に現代美術家の活動場所として注目されつつある。この島を訪ねたのは、ただその美術館にあるモネの大作を見たいという母殿の希望によるものである。B社は岡山県に本社がある、受験教材などを出している会社だが、父殿も母殿もこの会社のSゼミという教材を高校時代購読していた。二人が大学生になってからも、同社からはOB向けの小雑誌が定期的に送られてきた。その中に文通相手を募るページがあり、母殿がそこに募集の記事を載せたところ、返事のあった一人が父殿であった。以来二人は十年近い文通を重ね結婚に至った由であり、その点で言えば今回の旅はお仲人の別荘でも訪ねるような性質でもあると思われるのだが、二人ともそうした意識はほとんど無かったようである。

 高松港は設備の整った、新しい、公園のように気持ちのいい場所だった。着いたとき丁度直島への第一便が出てしまったところだったので、近くのベーカリーで軽食を取ったり、宇高連絡線に関する展示品など見学したりしてゆっくりと次の船を待った。今度の船は東京から乗ってきた船に比べると無論随分と小さい。冷房の効いた客室の一番前に陣取り、瀬戸内海のゆったりとした海原、島々の模様を眺め楽しむ。「うーみーはひろいーな おおきいーなー」父殿が調子外れに歌う。

 1時間ほどで直島の港に下り立つ。目立つ建物も何もない、のどかな町が待っていた。家々がいずれも造作の立派な、古く重々しい建てぶりであるのが好ましい。商店にかけられた看板なども思い切り古めかしく、一昔前の世界にでもきたような錯覚さえ味わう。細い路地をくぐり、今夜の宿である「しおや」を捜し当て大きな荷物だけ預かっていただき、早速B美術館へのバスに乗った。町を離れ、丘の向こうの町を抜け、美しい海岸を幾つも見て、終点で降りる。この町営バスはいくら乗っても一人100円でしかない。

 美術館は一度に入れる人数が限られていて、しばらく駐車場側に設けられた仮設テントで待たされた。ようやく順番が回ってきて、坂道を登って安藤忠雄設計になるという館内に入る。モネの作品も無論見事だったが、それ以上にジェームズ・タレルの光と空間をうまく使った錯覚を味わうような作品が面白く、時間をかけて鑑賞させていただく。館内のカフェで軽い食事をし、バスで今度は来たときの逆側の道を回って港に帰った。商店でいくらか食料品など調達し、「しおや」に入る。美しい庭を眺められる落ち着いた和室をあてがわれる。古い家の造作、庭の赴き、虫の声など皆珍しく、お昼寝もしないでこの日は大いにはしゃいだ。挙句危ないから近づくなと幾度も言われていたのに、縁側に立って庭を見下ろして遊んでいたら、もたれかかった網戸が突然外れて庭に転落し、鼻の下を大きくすりむいて大騒ぎになった。父殿母殿救急薬品の持ち合わせもなく、宿の方に尋ねても薬局もないという由、困っているうちに女将が近所を探して回って消毒薬を借りてきてくださり、ようやく落ち着いた。

 夕飯に食べたお魚、海老など極めて美味であった。中でも小豆島産の素麺が私は大いに気に入り、自分の分を平らげてもまだ足りず父殿、母殿の分までおねだりして食べた。翌日、午前中はまた島内の方々にある現代美術作品を幾つか見て歩く。ジェームズ・タレルのまた別の作品も見ることができ、真っ暗な空間の中に徐々に光が現れてくる効果が大層面白かった。

 午後また船に乗る。海を渡り、まず岡山の宇野港へ、さらに別の船に乗り換え小豆島土庄港へ。私はすっかり船と海が気に入って、盛んに「うみ、うみ」と指差し「ふね、ふね」と口に出してみて昨日の怪我などすっかり忘れて悦に入っていた。瀬戸内海の島々、澄んだ水面の輝き、爽やかな海風、何もかも素敵だった。「わーれはうーみのーこ、しーらなーみーのー・・・」父殿がまた調子外れに歌っている。

 小豆島到着、港のすぐ側の「ニューポート」なるホテルに投宿。荷物をおろし、薬屋さんの場所を尋ねたら、ホテルの奥さん、歩いていくのは大変だから従業員に車で送らせるという。ありがたく受けて送っていただき、消毒薬など手に入れる。タウンマップを片手に和菓子屋さんに立ち寄ってみたり、土産物屋さんを覗いてカップ式の即席素麺を買ったりして宿に帰る。ここはホテルとはいえ、奥さんも従業員の皆さんも本当に家庭的に接してくれる民宿のような雰囲気が快く、値段も飛び切り安い。お食事も部屋に運んでいただいたが、大層盛りだくさんで食べきれないくらいのものだった。

 翌朝は早くから出かけ、バスでまず寒霞渓を訪ねる。路線バスなのだが、途中途中の観光スポットでしばらく降りて楽しみながら行ける時刻表になっている。たまたまこの日の乗客は私たちだけで、女性の運転手さんにゆっくりとガイドしていただいて寒霞渓に到着。眺めが良い。多くの観光客でにぎわっていたが、ニホンザルが飛び出してきて小さな女の子の食べていたソフトクリームを奪い取っていくシーンなども見物できてなかなか楽しかった。ロープウェーで下り、バスを乗り継いで福田という港まで至り、桟橋近くで食べたあなご丼がまた絶品であった。

 しばらく歩いて吉田という町まで行く。炎天下歩いていたら、島の人が通り過ぎざま車を止めて、「どこまで行くんですか?どうぞ乗って行って下さい。」などと声をかけてくださったりする。気持ちのいい島であった。吉田では氷を食べたり、河口の浅瀬で水につかってばちゃばちゃやったりして時を過ごす。またバスに乗って、島の反対側をぐるりと巡って土庄に帰り着き、丁度港前から出るところだった送迎バスでオリーブ温泉まで乗って行って気持ちの良い露天風呂を楽しんだ。夜はまた豪勢な食事をたっぷりといただき、大いに眠る。

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