今年も大連国際マラソンを走ってきました。
5年連続です。
3月下旬から猛烈に忙しい日々が続いており、無事渡航できるか際どい状況でしたが、何とかスケジュールを調整して1年ぶりに大連を訪れることができました。
しかし、今シーズンは調整が順調ではありませんでした。
昨年から日頃の週末ジョギングのスピードが落ちてきたことを実感したので、専門書を読み、12月からフォアフット走法という走りを試してみました。アフリカ人ランナーや大迫傑選手が取り入れている、やや前傾してつま先から着地する走り方です。
すると、これが効果てきめんで、慣れるにしたがってぐんぐんスピードが上がってきました。
いい走り方を手に入れました。
トレーニングを積み、2月には1人でハーフを走ったところ、1時間52分というレース並みのタイムが出ました。
これは5月の大連が楽しみになってきました。
ところが、です。
その直後、トレーニング中に左足のアキレス腱が痛み始めました。
大事を取ってその場でトレーニングを中止し、その週は患部を安静にして回復に専念しました。
翌週、恐る恐る走ってみると、3キロ程度走ったところで再び痛み始めました。
どうやら本格的に故障してしまったようです。
調べてみると、フォアフット走法はアキレス腱に負担の掛かる走り方だったようです。後悔の念が募ります。やはり、僕のような短足の日本人には向かない走り方だったようです。
そこで、思い切って1ヶ月トレーニングを休むことにしました。
そして、ようやく左足が回復してきたのは桜が咲き始めた頃でした。その頃から仕事が忙しくなり、休日出勤が増え、十分なトレーニング時間が確保できなくなりました。
こんな調子でレースを迎えました。
当日は、まだ寝不足による軽い頭痛と疲れが残っていました。
さすがに好タイムを狙うのは難しそうです。
今回は楽しむレースと割り切ることにしました。マイペースで行けるところまで行き、足が止まってしまったら、そこから先は歩いてゴールまでの時間を楽しむことにしました。
スタートは7:10です。
ずいぶん早いスタート時間です。一昨年は8:00だったはずです。
昨年は7:30で、今年はさらに繰り上がりました。交通への配慮なのか、暑さ対策なのか、よくわかりません。
いずれにしろ、今年も無事スタートラインに立つことができました。
スタート時の気温は15度です。天候は曇り、無風です。
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定刻に東港の国際会議中心をスタートしました。
人民路では道路の両方に人だかりができ、大きな声援が聞こえてきます。
森ビルを過ぎた登りの途中でLちゃんの姿が見えました。毎年応援してくれて、ありがたいことです。
5キロを通過しました。
27分01秒です。
まずまずです。
人民広場付近では、SZさんが手を振ってくれました。
この辺りがコースの最高地点です。ここから緩やかな下りに入ります。
市内を抜け、馬欄河を過ぎ、大連富士が見えてきたところで折り返しの先頭ランナーとすれ違いました。
僕が習得できなかったフォアフット走法で、あっという間に過ぎ去っていきます。まるで違う生き物のようです。
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星海広場に入りました。なるべく内側のコースを選んで1周します。
10キロ地点を通過しました。
この5キロ、26分25秒です。
思いのほか順調です。体が軽く感じます。
ランナーズハイの状態とはいえ、少なくとも過去2年に比べるとコンディションは良好です。
星海広場を周回すると、再び中山路に戻ります。
ここは今年からコースが変更になっています。
今度は中山路を市内に向かって走ります。
左側の車線には往路を走る多くの市民ランナーの姿が目に入ります。大会には3万人が出場していると聞いていますが、相当な人数であることがわかります。
去年まで通っていたゴーリキー路は、プラタナスの新緑に包まれながら走るので景色はよかったのですが、緩やかな登りが長く続くところが難点でした。
中山路ではそれがかなり軽減されています。
ここは改良と言えるでしょう。
15キロ地点を通過しました。
この5キロ、26分23秒です。
順調です。
気温は少し上がったようですが、それでも17度には届いていないように感じられます。
18キロ地点から、早くもエードステーションが現れました。ランナーの視点で様々な改良が行われているようです。
しかし、ここはパスします。
一二九街の坂を下ると、緑に覆われた労働公園が目に入ってきました。
五恵路に入ります。
この付近では山翠のYさんやLちゃん、W、Bなどが待ってくれているはずです。
前方に僕の名前を書いた大きな看板が見えました。
手を振りながら、スピードを落として歩道寄りに移動します。
応援団はたくさんいるようです。
YさんやLちゃん、W、Bだけではありません。Gもいます。OさんもSさんもいます。
懐かしいです。見たことのない女性もいます。
全員女性です。
これはテンションが上がります。
僕だけを応援してくれているわけではないと思いますが、このレースでこんなに恵まれた応援を貰える幸せな日本人は、僕ぐらいではないでしょうか。
ちなみに、こういう女性のみの応援団を拉拉隊と呼ぶそうです。生涯の自慢になりそうです。
とても元気をもらいました。
願わくば、拉拉隊は一箇所にまとまらずに、数キロ置きに1人ずつ立っていてくれたらもっと力になるのにな…。
しかも、できれば苦しい後半30キロ過ぎで…。
という自己中な気持ちも過ぎりますが、それは欲張りすぎというものです。
労働公園を右折し、解放路に入ります。
昨年工事が行われていた旧満鉄倶楽部野球場は、野外のスポーツ施設に改造されたようです。
78年前に日本のプロ野球公式戦も行われた伝説の球場跡ですから、同じくスポーツで利用されるのはうれしいものです。
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満鉄倶楽部野球場跡です。
七七路に入りました。
コース中、もっとも道幅の狭い場所です。
周囲はノスタルジックな大正から昭和初期の老建築です。新緑の香りに混じって、ところどころでアカシアの甘い香りも漂ってきます。
今が大連の一番よい季節です。自分が大連に帰ってきた喜びをかみしめながら足を運びます。
20キロ地点を通過しました。
この5キロ、26分56秒です。
まだどこにも痛みはありません。
思いのほか軽快です。
このままどこまで行けるでしょうか。
中間地点に到達しました。ハーフマラソンの選手たちが満足げにゴールしています。
三八広場に来ました。
ここは沿道の応援が一際多い場所のひとつでしょうか。広場を取り巻くように多くの人波ができています。
魯迅路に入りました。
路面電車と並行する道を寺児溝に向かって走ります。市街地のコースはまもなく終わり、東港エリアが待ち構えています。
24キロ地点を通過した直後です。
右側から突然ジャンプしながら両手を振って僕の名前を呼ぶ大男がいました。
なんと、Mです。
これは驚きました。
そういえば、Mが務める物流会社はこのすぐ近くです。
彼には僕が出場することは伝えていましたが、通過予想時間も、ゼッケンもウェアの特徴も伝えていません。
僕の顔しか目印がないはずです。しかも、僕は帽子を深めにかぶっています。
よく探し当てたものです。
いつからここで待っていたのでしょうか?
レース後に聞いたところ、Mはそこで2時間、僕の通過を待ってくれていたそうです。
必死に人ばかり見ていたので目が痛くなったそうです。
恐縮至極です。
僕も両手を振り返し、大声で御礼を言います。
Mよ、ありがとう。
魯迅路に別れを告げ、東港の埋め立て地に入りました。
ここからゴールまでの17キロは、ひたすらこの殺風景な埋め立て地を走ることになります。
この先は、沿道の応援者もほとんどいません。
25キロを通過しました。
この5キロ、26分51秒です。
やや腰が重く感じますが、足は大丈夫です。息も大丈夫です。
風は東向きに微風でしょうか。向かい風ですが、それほど気になりません。
油断は禁物ですが、案外、今日は行けるかもしれない、と思いました。
1ヶ月半の激務の影響で体重が3キロほど落ちましたので、これはプラスに働いているはずです。
海之韵公園まで来ました。ここで折り返して西に向かいます。
ここから4キロ、まっすぐな道が続きます。
少しずつ両足にしびれを感じるようになってきました。
30キロの掲示板が見えてきました。
この5キロ、27分39秒です。
ラップは落ちましたが、上出来です。
ゴールまで残り1時間ちょっとです。
ここまで順調に来ることができたのですから、緩めることなく最後まで走りきろうと気持ちを固めます。
このペースなら3時間40分台も視野に入ります。
例年、この辺りから右ふくらはぎの痙攣が始まるのですが、今年はまだ兆しがありません。
痛めていた左のアキレス腱も大丈夫です。
時計は午前10時前です。
雲が晴れて、高い位置から日光が照りつけるようになってきました。
東港地区は平坦で道幅が広いのはいいのですが、景色に変化がなく単調なので、前に進んでいる手応えが感じられないのが難点です。
願わくば、何かここらでランナーを飽きさせない工夫がほしいところです。
32キロで再び折り返し、再び東側に向かいます。
エードステーションが見えてきました。
体がエネルギーを欲しているように思われたので、バナナを手に取り、3分の1カットを軽く咬んで流し込みます。
ドールが提供しているようですが、甘みが強くて美味しいです。
苦しくなってきましたが、いつものことです。
黙々と東に向かって直進します。
ようやく最後の折り返しが見えてきた頃です。
突然、右足ふくらはぎに鋭い痛みが走りました。
ついに来ました。痙攣です。
足を止め、コース脇の縁石を使って素早くストレッチします。
目の前には35キロ地点を示す掲示板が見えています。残り7キロです。
「頼む、持ってくれ」
重症化しないことを祈りながら再び走り始めます。
35キロ地点を通過しました。
この5キロ、27分46秒です。
思ったほどスピードは落ちていません。まだ3時間50分切りは圏内です。
しかし、足は重く、次第にしびれが強くなってきています。
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「はあっ」と大きく息を吐き出し、大きく酸素を取り込みます。最後の7キロに挑む覚悟を決めます。
イヤホンを耳にねじ込み、ボリュームをひとつ上げました。これも最近のレースでのルーティンになってきました。
流れてくる音楽に集中して、疲れや痛みを紛らわせます。
気温が上がってきました。20度近くあるでしょうか。
汗が流れてきます。
37キロからは東港の一番北側の道に入ります。ここはコースが変更された場所です。
右側には大連湾が広がり、客船の往来が目に入ってきます。
海の向こうには大黒山の姿も確認できます。
足を止めて雄大な大黒山を眺めたい誘惑にかられます。
ここにきて、足が止まってきました。
ここまで何とか粘ってきましたが、スピードが極端に落ちたように感じられます。
腕を振ってややフォアフット気味の着地を試みますが、疲れた腰がついていきません。
さらに、右足の痙攣もときどき顔を出します。
ガス欠の症状がはっきりと出始め、呼吸の乱れも大きくなってきました。
もはやスピードを回復させるのは不可能のように思われます。
冷静になって残り5キロの攻略を組み立てます。
ここは次なる故障を誘発するようなチャレンジは避け、今のままのフォームで騙し騙し最後まで走り抜いた方がよさそうです。
しかし、このスピードでは3時間50分は微妙です。
諦めるか?
どうせダメならいっそ歩くか?
悩みます。
そう考えている間も、疲労はみるみる蓄積し、足のしびれも増していきます。
待望の40キロサインが見えてきました。
ゴールの国際会議センターも目の前です。
この5キロ、28分22秒です。
ここまで3時間37分過ぎです。
残り1キロを6分ぐらいで走れば、ちょうど3時間50分ぐらいの計算になります。
やれるか?
最後の給水を続けて2杯取って、のどに流し込みます。
体は悲鳴を上げています。
あと12分ちょっと…。あと3曲聞けば終わる…。
しかし、ここから先が長い12分です。
なかなか目標物が近づいてこないように感じられます。
腕も振れていません。
「はあっ、はあっ」という自分の荒い吐息がはっきり耳に聞こえてきます。
なんで? なんで進まないんだ?
早く終わらせたいがあまり、急いている気持ちがそうさせているのでしょうか。
残り1キロです。
国際会議センターを回り込むと、正面に中山東路が見えてきました。
ここを右折すれば、ゴールゲートが見えるはずです。
はあ、ようやく着いた…。ここまでくれば後は惰性でゴールになだれ込むだけです。
最後のカーブを曲がると、やけに遠くに小さくゴールが見えました。
ゴールは、自分が思っていたより遠くにありました。実はここも今年からコースが変更されていたようです。
まだ300メートル以上あるように感じられます。
あれ…? こんなに遠かったっけ?
ああ、くそっ….。主催者を恨みます。
歯を食いしばって足を回転させます。周りのランナーたちはゴールの歓喜で笑顔です。
しかし、僕はまったく笑えません。足がもつれて、今にも転びそうです。
ゴールの100メートルほど手前で、再び拉拉隊が僕の名前を呼んで応援してくれていました。
右手を半分ぐらい上げて、かろうじて声援に応えます。
ありがたいのですが、もはや笑顔を出す力は残っていません。
正面を向き直します。
ゴールの電光掲示板が目に入ってきました。
3時間49分台を指しています。
間に合うでしょうか?
最後だ….最後だ….
両手を強く握り、前傾姿勢を取ってゴールを目指します。
他のランナーと接触して倒れそうになりながら、ゴールしました。
ゴールを通過すると、少し右脇にそれた場所を確保して両手を膝につき、大きく息を吸い込みました。
ふう、ふう….。
見上げると、大連の空には青空が広がっていました。
●第31回大連国際マラソン 2018年5月13日(日)曇り、15度
5km 0:27:01
10km 0:53:26(26:25)
15km 1:19:49(26:23)
20km 1:46:44(26:56)
25km 2:13:35(26:51)
30km 2:41:13(27:39)
35km 3:08:58(27:46)
40km 3:37:20(28:22)
Finish 3:50:03(12:43)
何とかやり切りました。
何とか、今年も走りきることができました。
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狙った3時間40分台には、わずか4秒足りませんでした。
まあ、これは来年また来いという神様からのメッセージだと理解しました。
今年も第2の故郷でよい思い出ができました。
応援してくれた皆さん、本当にありがとうございました。