(前編より)
<IS THE NIGHT>
夕方4時、早めにチェックイン。 宿は駅前のビジネスホテル。 結構歩いて少し汗ばんだ体をシャワーで洗い流す。 ついでに昼間のメールの返事。 あとは部屋で5時までのんびり過ごす。
夕飯は有名な麺料理の予定。 でも店は決めてない、ガイドブックには頼らない。 宿を出て少し歩いて、大通りから一歩入った路地にある古びた店に入る。
「いらっしゃい」
初老の夫婦が出迎えてくれた。 10人も入れば満員みたいな小さな店に、珍しい『一見さん』だったのか
「若い女の子が一人で来るなんて珍しいのよ、地元の子じゃ無いわね」とか、あたしが観光で来たと言うと
「どこから来たの? どこ見てきた? 何泊するの?」って色々質問されて、ついつい会話が弾む。 他人とこんなに会話するなんて何時以来なんだろ? でも良い人達みたいで楽しく感じた。
肝心の料理も、とても美味しくガイドブックに頼らなくて正解って感じ。 あたしの直感もまだまだ捨てたもんじゃないわね!!
「ごちそうさま!」
「ありがと、気をつけてね」
……久し振りに『楽しい』って思えた気がする。 そして旅行に来て良かったのかな? とも感じた。
「一人旅も悪くない、わね」
気がついたら時計は夜7時を回っていた。 途中のコンビニで飲み物を買って宿へ戻る。 もう一度シャワーを浴び、備え付けの浴衣に着替える。 そしてベッドで横になってたら
――いつの間にか寝てたみたい。 バスの中じゃあまり眠れなかったし、歩き疲れたせいかな。
そして、久し振りに夢を見た。 骨折した時以来よね、キョンが出て来る灰色空間の夢……あ~もう思い出すだけでも恥ずかしいわ! だから、これはオフレコよ、無しよ! な・し!!
夢の中じゃ互いに素直で、夢の最後はキ――あ、だからカット、カット!!
目覚めて時計を見ると夜中の3時前。 このまま再び眠っても良かったんだけど、あまりにリアルな唇の感触が残ってて。 久し振りに、あの声が聞きたくなった。
はぁ、あたしって相変わらず我が儘よね。 何を求めてるのかしら? でも、とにかく素直になりたかった……気がついたら携帯電話を手にしてたあたしは~。
<Long Distance Call>
「……もしもし?」
『……よう』
こんな夜中に、あたしったら、非常識よね。
「寝てた、よね?」
『ん、ああ。 でも丁度目が覚めた所だ』
「あたしも」
『で、何か用か。 こんな夜中に』
――普通は怒るよね。 でも、少し優しい声。 台詞は相変わらずぶっきらぼうなのに。
「キョン、あたし今、どこに居ると思う?」
『さあな。 と言いたい所だが、長咲だろ』
「どうして知ってるの?」
『古泉に聞いた』
「……ゴメンね、こんな夜中に」
『どうしたハルヒ、やけに素直じゃないか』
「まあね、たまには良いでしょ」
『たまには、か。 所で一人旅はどうだ』
「まあまあ、ね」
『そうか。 何泊するんだ』
「一泊よ。 明日の最終の新幹線で帰るわ」
『明日の予定は?』
「決めてない」
『明日……いや、今日か。 まだこんな時間だ、もう一度寝とけ』
「うん、ありがと」
『おう、おやすみ』
「おやすみ、キョン」
『あ、ハルヒ』
「な、何よ」
『ん、まあ、その、何だ……俺で良かったら何時でも電話の相手してやるから、気を使わなくていいぞ』
何でそんなに優しいのよ? あたしなんかより佐々木さんを大事にしなさいよ! まあ、誰にでも優しいのがキョンなのよね。
「――ありがと、キョン。 す……」
『す? 何だ』
「ううん、何でも無い!」
あぶない、うっかり口にする所だったわ! 雰囲気って怖いわね。
「改めて、おやすみ。 キョン」
『おやすみ、ハルヒ』
ツー、ツー、ツー
……電話を切るのが何となく名残り惜しくって、いつまでも携帯を握り締めたまま、ベッドの上で寝そべっていた。 久し振りに聞いた、あいつの声。 それだけで心が安らぐ。 距離は離れていても、とても近くに居てくれる気にさせてくれた。
「でも、駄目なのよね」 あいつの隣には――。
<Dear One>
気がつくと眠ってしまっていたらしい。 目覚めて時計を見ると9時を回っていた。 チェックアウトは10時。 目覚めのシャワーを浴び、支度を済ませ、宿を出る。 今日も良い天気、また暑くなりそう。
朝食、ううん、ブランチね。 今日も駅前のファミレスに入る。 今回は『和定食』を注文する。今日の予定は全くの白紙、観光って気分じゃないし。 それよりも、あたしは
『キョンに会いたい』
会うだけで良いの。 でも、帰りの電車まで時間がかなりあるわね。 切符を確認するため封筒を取り出し――ん、あれ? 何か手紙が入ってる
『指定券の変更は可能。 一回なら手数料は不要だ。 詳しくは駅員にでも聞け』
……やってくれるじゃない、親父。 何もかもお見通しって奴かしら。
ファミレスを出て、お土産を買って駅の窓口に向かう。 11時25分発の特急の予約が取れた。 合わせて新幹線も15時45分に新神辺に到着する列車にしてもらう。
まだキョンには連絡はしない。 着いてから連絡して驚かせてやるんだから! 待ってなさいよ!! たとえ彼女が居たって、そう、まだあたしの気持ちを伝えてないんだから。
別に、あたしに向いてくれなくても良いの。 あたしのRe:Startのきっかけを掴みたかったの。 キョンなら、それを教えてくれる気がしたから――
白い車体の特急の窓から見える海は、春の陽気で輝いて、あたしの事を暖かく見守ってくれている感じがした。
<乗り換えた新幹線(アウトテイク)>
――イライライライライラ……
『ピンポンパンポーン。 本日は新幹線にご乗車くださいましてありがとうございます。 この列車は、のぞみ……』
「あ~、もう遅いわね。 何ノンビリ走ってんのよ!!」
「あ、あのーお客様。 このN700系は最高時速300キロ――」
「ハァ? どうせなら500キロ位出しなさいよ。 あ~もう、あたしに運転させなさーい!!」
「お、お客様~!」
『ピンポンパンポーン。 みだりに新幹線の運転室に立ち入る事は法律によって罰せられます』
「おやおや涼宮さん、いくら我々でも法律までは変えられませんよ?」
「ふぇ~、涼宮さんが『暴走』してますぅ~」
「今までジリ貧だったからね、むしろこれ位で良いんじゃない?」
「……ユニーク」
<Come Again>
新神辺→参ノ宮と来た所でキョンに電話してみる。 『いつでも電話して来い』って言ってたから問題ないわよね?
「もしもし、キョン? 今から祝川駅に来なさい。 30秒以内!」これでよし、っと。 今から特急乗って丁度良い位よね。
来てくれるかしら。 電話は良いって言ってくれたけど、会うのは別よね? でも構わない。 ううん、会いたい。 会って伝えたい、一方的なんだけど、あたしの気持ちを。
祝川駅着。 駅から見える川沿いの公園の桜は満開で綺麗よね。
改札を出る
「よっ」 ――来てくれた。
「帰って来るの早かったな。 最終で帰って来るって言ってたじゃないか。 それよりどうした、いきなり呼び出して」
「迷惑だった?」
「いや、別に。 何時でも良いって言っただろ」
「電話は、でしょ」
「荷物、持とうか?」
「え、いいわよ。 別に」
「遠慮するなって、ほら」
「あ、ありがと」
あ~、あたしったら最初っから素直になりなさいよ!! せっかくキョンが来てくれたのに。 今までと同じじゃ意味無いでしょ?
「ねえ、キョン」
「何だ、ハルヒ」
「桜、見に行かない?」
「あ、ああ。 良いぞ」 二人で川沿いを歩く
「旅行、どうだった?」
「まあまあ、ね」
「そうか。 しかし、よく親が一人旅を許可してくれたな」
「行けって言ったのは親父よ。 宿や切符も全て用意して」
「良い親父さんだな」
「……そうかしら」
言わなきゃ、言いたい、でも――
「ねえ、キョン」
「何だ?」
「どうして会いに来てくれたの?」
「どうして、って。 お前が呼んだからだろ」
「……佐々木さんの事は良いの?」
「へ!?」
「だから、彼女を放っておいて、あたしと会ってて良いの?」
しばしの沈黙。 何で黙るのかしら。 やっぱり、あたしと会うのは『やましい』って思うのかしら。
「何言ってるんだハルヒ。 俺には彼女は居ないし、佐々木とは『親友』、それ以外の何者でもないが」
「ハァ? だってあんた、文化祭の打ち上げの時、佐々木さんに……」
「……聞いてたのか?」
「……うん」
「じゃあ、断ったのまで聞いてるよな?」
断った? 何を!? 誰が?
「佐々木に好きだと言われたが断った。 親友のままで居ようと言ったのだが――」
「ば、バッカじゃないの? あんな可愛くて性格も良くって頭も良い娘に告白されて断るなんて。 二度と無いわよ、こんな事。まさか、キョン、あんた一生独身で過ごすつもり!?」
「それも良いかもな」
「何言ってんのよ!」
「それは俺の台詞だ。 ハルヒ、まさかお前、途中だけ聞いて勝手に結論出してたんじゃあるまいな?」
はい、そうです。 ごめんなさい、あたしが悪いんです。
「それでか。 文化祭の振替休日の次の日、ハルヒが俺に『SOS団員の恋愛禁止の規則を破った罰で追放!』って言って、それ以来、俺の言う事を全く聞こうとせず無視しまくってたのは」
思い出したく無いわ。 そうよ、あの日キョンにそう言って、他にも罵詈雑言を浴びせ、あたしの方から一方的に壁を造って避けてたのを。
「ショックだったぞ。 訳も分からんまま勝手に距離を置かれたのは」
ああ~、あたしってば恥ずかしい……何を血迷ってたのかしら、何を。 無駄に4ヶ月過ごしてたのか。 これじゃあ死んでも死にきれないわ。
「これで辻褄があったよ。 そして障害も無くなった訳、か。 それならば言わせてもらうぞ」 な、何?
「『ハルヒ、好きだ。 俺と付き合ってくれ!』」
桜並木の中、あたしはキョンに抱きしめられる――また、あたしから言い出せなかった。 自分から告白出来なかった悔しさと、それを大きく上回る告白された喜びで、あたしは、キョンの胸の中で泣いていた。
「ひっく、ゴメンね。 キョン、あたしも、えぐっ、あたしも、あんたが好き! ずっとこの4ヶ月、悩んでた。 長咲でも、あんたの事ばかり思い出して、えぐっ、夢にまで出て来て……」
「……そうか」
「えぐっ、あたしから本当は告白したかった。 ひっく、でも言えなかった。 我が儘で、意地っ張りで、可愛くないから、ひっく、あたし――」
もう涙が止まらない、苦しかった感情。 それがダムを壊し、一気に流れ出したかの様に溢れ出す。 キョンは、そんなあたしの気持ちを受け止めてくれた。
「でも、今は言える、大好き、キョンが。 他の誰よりも……そして嬉しいの、それを伝える事が出来て。 キョンも、あたしを好きと言ってくれて、幸せなの。 もう、これ以上無いくらいに!」
夕方、少し肌寒くなった桜並木の下で、あたしはキョンとキスをした。 うれしいキスを。
「あたし、キョンと離れたくない! ずっと一緒に居て!!」
「サンキュ、ハルヒ。 やっと来てくれて嬉しいよ」
抱きしめたキョンの体は、とっても暖かかった。
<エピローグ>
その日の夜、あたしとキョンは一つになった。 そして何度も求め合った、今までの距離を埋めるように。 互いに、夜明けまで――。
次の日、ファーストデート。 昼からだったけどね。
更に次の日、SOS団全員集合! 卒業したみくるちゃん含めて久し振りの不思議探索。 涼子を含めて6人でやるのは初めてよね。 集合して直ぐに、あたしは皆に今までの事を謝った。 でも誰一人あたしを怒ったりしなかった。 むしろ久し振りに会えた事を喜んでくれて、とても嬉しかった。 いつもの喫茶店で、あたしはキョンと付き合う事を宣言した。 思わず大声で言ってしまったので、周囲に居た全ての人に聞かれて店内は沈黙したわね。 でも、その後、居合わせた人達全員から拍手を貰って、嬉しいやら恥ずかしいやら……キョンも恥ずかしかったみたいだったけど、まんざらでもない声で言ってたわね
「やれやれ」 ってね。
<『さくらの花の咲く頃に』~Fin~>
<IS THE NIGHT>
夕方4時、早めにチェックイン。 宿は駅前のビジネスホテル。 結構歩いて少し汗ばんだ体をシャワーで洗い流す。 ついでに昼間のメールの返事。 あとは部屋で5時までのんびり過ごす。
夕飯は有名な麺料理の予定。 でも店は決めてない、ガイドブックには頼らない。 宿を出て少し歩いて、大通りから一歩入った路地にある古びた店に入る。
「いらっしゃい」
初老の夫婦が出迎えてくれた。 10人も入れば満員みたいな小さな店に、珍しい『一見さん』だったのか
「若い女の子が一人で来るなんて珍しいのよ、地元の子じゃ無いわね」とか、あたしが観光で来たと言うと
「どこから来たの? どこ見てきた? 何泊するの?」って色々質問されて、ついつい会話が弾む。 他人とこんなに会話するなんて何時以来なんだろ? でも良い人達みたいで楽しく感じた。
肝心の料理も、とても美味しくガイドブックに頼らなくて正解って感じ。 あたしの直感もまだまだ捨てたもんじゃないわね!!
「ごちそうさま!」
「ありがと、気をつけてね」
……久し振りに『楽しい』って思えた気がする。 そして旅行に来て良かったのかな? とも感じた。
「一人旅も悪くない、わね」
気がついたら時計は夜7時を回っていた。 途中のコンビニで飲み物を買って宿へ戻る。 もう一度シャワーを浴び、備え付けの浴衣に着替える。 そしてベッドで横になってたら
――いつの間にか寝てたみたい。 バスの中じゃあまり眠れなかったし、歩き疲れたせいかな。
そして、久し振りに夢を見た。 骨折した時以来よね、キョンが出て来る灰色空間の夢……あ~もう思い出すだけでも恥ずかしいわ! だから、これはオフレコよ、無しよ! な・し!!
夢の中じゃ互いに素直で、夢の最後はキ――あ、だからカット、カット!!
目覚めて時計を見ると夜中の3時前。 このまま再び眠っても良かったんだけど、あまりにリアルな唇の感触が残ってて。 久し振りに、あの声が聞きたくなった。
はぁ、あたしって相変わらず我が儘よね。 何を求めてるのかしら? でも、とにかく素直になりたかった……気がついたら携帯電話を手にしてたあたしは~。
<Long Distance Call>
「……もしもし?」
『……よう』
こんな夜中に、あたしったら、非常識よね。
「寝てた、よね?」
『ん、ああ。 でも丁度目が覚めた所だ』
「あたしも」
『で、何か用か。 こんな夜中に』
――普通は怒るよね。 でも、少し優しい声。 台詞は相変わらずぶっきらぼうなのに。
「キョン、あたし今、どこに居ると思う?」
『さあな。 と言いたい所だが、長咲だろ』
「どうして知ってるの?」
『古泉に聞いた』
「……ゴメンね、こんな夜中に」
『どうしたハルヒ、やけに素直じゃないか』
「まあね、たまには良いでしょ」
『たまには、か。 所で一人旅はどうだ』
「まあまあ、ね」
『そうか。 何泊するんだ』
「一泊よ。 明日の最終の新幹線で帰るわ」
『明日の予定は?』
「決めてない」
『明日……いや、今日か。 まだこんな時間だ、もう一度寝とけ』
「うん、ありがと」
『おう、おやすみ』
「おやすみ、キョン」
『あ、ハルヒ』
「な、何よ」
『ん、まあ、その、何だ……俺で良かったら何時でも電話の相手してやるから、気を使わなくていいぞ』
何でそんなに優しいのよ? あたしなんかより佐々木さんを大事にしなさいよ! まあ、誰にでも優しいのがキョンなのよね。
「――ありがと、キョン。 す……」
『す? 何だ』
「ううん、何でも無い!」
あぶない、うっかり口にする所だったわ! 雰囲気って怖いわね。
「改めて、おやすみ。 キョン」
『おやすみ、ハルヒ』
ツー、ツー、ツー
……電話を切るのが何となく名残り惜しくって、いつまでも携帯を握り締めたまま、ベッドの上で寝そべっていた。 久し振りに聞いた、あいつの声。 それだけで心が安らぐ。 距離は離れていても、とても近くに居てくれる気にさせてくれた。
「でも、駄目なのよね」 あいつの隣には――。
<Dear One>
気がつくと眠ってしまっていたらしい。 目覚めて時計を見ると9時を回っていた。 チェックアウトは10時。 目覚めのシャワーを浴び、支度を済ませ、宿を出る。 今日も良い天気、また暑くなりそう。
朝食、ううん、ブランチね。 今日も駅前のファミレスに入る。 今回は『和定食』を注文する。今日の予定は全くの白紙、観光って気分じゃないし。 それよりも、あたしは
『キョンに会いたい』
会うだけで良いの。 でも、帰りの電車まで時間がかなりあるわね。 切符を確認するため封筒を取り出し――ん、あれ? 何か手紙が入ってる
『指定券の変更は可能。 一回なら手数料は不要だ。 詳しくは駅員にでも聞け』
……やってくれるじゃない、親父。 何もかもお見通しって奴かしら。
ファミレスを出て、お土産を買って駅の窓口に向かう。 11時25分発の特急の予約が取れた。 合わせて新幹線も15時45分に新神辺に到着する列車にしてもらう。
まだキョンには連絡はしない。 着いてから連絡して驚かせてやるんだから! 待ってなさいよ!! たとえ彼女が居たって、そう、まだあたしの気持ちを伝えてないんだから。
別に、あたしに向いてくれなくても良いの。 あたしのRe:Startのきっかけを掴みたかったの。 キョンなら、それを教えてくれる気がしたから――
白い車体の特急の窓から見える海は、春の陽気で輝いて、あたしの事を暖かく見守ってくれている感じがした。
<乗り換えた新幹線(アウトテイク)>
――イライライライライラ……
『ピンポンパンポーン。 本日は新幹線にご乗車くださいましてありがとうございます。 この列車は、のぞみ……』
「あ~、もう遅いわね。 何ノンビリ走ってんのよ!!」
「あ、あのーお客様。 このN700系は最高時速300キロ――」
「ハァ? どうせなら500キロ位出しなさいよ。 あ~もう、あたしに運転させなさーい!!」
「お、お客様~!」
『ピンポンパンポーン。 みだりに新幹線の運転室に立ち入る事は法律によって罰せられます』
「おやおや涼宮さん、いくら我々でも法律までは変えられませんよ?」
「ふぇ~、涼宮さんが『暴走』してますぅ~」
「今までジリ貧だったからね、むしろこれ位で良いんじゃない?」
「……ユニーク」
<Come Again>
新神辺→参ノ宮と来た所でキョンに電話してみる。 『いつでも電話して来い』って言ってたから問題ないわよね?
「もしもし、キョン? 今から祝川駅に来なさい。 30秒以内!」これでよし、っと。 今から特急乗って丁度良い位よね。
来てくれるかしら。 電話は良いって言ってくれたけど、会うのは別よね? でも構わない。 ううん、会いたい。 会って伝えたい、一方的なんだけど、あたしの気持ちを。
祝川駅着。 駅から見える川沿いの公園の桜は満開で綺麗よね。
改札を出る
「よっ」 ――来てくれた。
「帰って来るの早かったな。 最終で帰って来るって言ってたじゃないか。 それよりどうした、いきなり呼び出して」
「迷惑だった?」
「いや、別に。 何時でも良いって言っただろ」
「電話は、でしょ」
「荷物、持とうか?」
「え、いいわよ。 別に」
「遠慮するなって、ほら」
「あ、ありがと」
あ~、あたしったら最初っから素直になりなさいよ!! せっかくキョンが来てくれたのに。 今までと同じじゃ意味無いでしょ?
「ねえ、キョン」
「何だ、ハルヒ」
「桜、見に行かない?」
「あ、ああ。 良いぞ」 二人で川沿いを歩く
「旅行、どうだった?」
「まあまあ、ね」
「そうか。 しかし、よく親が一人旅を許可してくれたな」
「行けって言ったのは親父よ。 宿や切符も全て用意して」
「良い親父さんだな」
「……そうかしら」
言わなきゃ、言いたい、でも――
「ねえ、キョン」
「何だ?」
「どうして会いに来てくれたの?」
「どうして、って。 お前が呼んだからだろ」
「……佐々木さんの事は良いの?」
「へ!?」
「だから、彼女を放っておいて、あたしと会ってて良いの?」
しばしの沈黙。 何で黙るのかしら。 やっぱり、あたしと会うのは『やましい』って思うのかしら。
「何言ってるんだハルヒ。 俺には彼女は居ないし、佐々木とは『親友』、それ以外の何者でもないが」
「ハァ? だってあんた、文化祭の打ち上げの時、佐々木さんに……」
「……聞いてたのか?」
「……うん」
「じゃあ、断ったのまで聞いてるよな?」
断った? 何を!? 誰が?
「佐々木に好きだと言われたが断った。 親友のままで居ようと言ったのだが――」
「ば、バッカじゃないの? あんな可愛くて性格も良くって頭も良い娘に告白されて断るなんて。 二度と無いわよ、こんな事。まさか、キョン、あんた一生独身で過ごすつもり!?」
「それも良いかもな」
「何言ってんのよ!」
「それは俺の台詞だ。 ハルヒ、まさかお前、途中だけ聞いて勝手に結論出してたんじゃあるまいな?」
はい、そうです。 ごめんなさい、あたしが悪いんです。
「それでか。 文化祭の振替休日の次の日、ハルヒが俺に『SOS団員の恋愛禁止の規則を破った罰で追放!』って言って、それ以来、俺の言う事を全く聞こうとせず無視しまくってたのは」
思い出したく無いわ。 そうよ、あの日キョンにそう言って、他にも罵詈雑言を浴びせ、あたしの方から一方的に壁を造って避けてたのを。
「ショックだったぞ。 訳も分からんまま勝手に距離を置かれたのは」
ああ~、あたしってば恥ずかしい……何を血迷ってたのかしら、何を。 無駄に4ヶ月過ごしてたのか。 これじゃあ死んでも死にきれないわ。
「これで辻褄があったよ。 そして障害も無くなった訳、か。 それならば言わせてもらうぞ」 な、何?
「『ハルヒ、好きだ。 俺と付き合ってくれ!』」
桜並木の中、あたしはキョンに抱きしめられる――また、あたしから言い出せなかった。 自分から告白出来なかった悔しさと、それを大きく上回る告白された喜びで、あたしは、キョンの胸の中で泣いていた。
「ひっく、ゴメンね。 キョン、あたしも、えぐっ、あたしも、あんたが好き! ずっとこの4ヶ月、悩んでた。 長咲でも、あんたの事ばかり思い出して、えぐっ、夢にまで出て来て……」
「……そうか」
「えぐっ、あたしから本当は告白したかった。 ひっく、でも言えなかった。 我が儘で、意地っ張りで、可愛くないから、ひっく、あたし――」
もう涙が止まらない、苦しかった感情。 それがダムを壊し、一気に流れ出したかの様に溢れ出す。 キョンは、そんなあたしの気持ちを受け止めてくれた。
「でも、今は言える、大好き、キョンが。 他の誰よりも……そして嬉しいの、それを伝える事が出来て。 キョンも、あたしを好きと言ってくれて、幸せなの。 もう、これ以上無いくらいに!」
夕方、少し肌寒くなった桜並木の下で、あたしはキョンとキスをした。 うれしいキスを。
「あたし、キョンと離れたくない! ずっと一緒に居て!!」
「サンキュ、ハルヒ。 やっと来てくれて嬉しいよ」
抱きしめたキョンの体は、とっても暖かかった。
<エピローグ>
その日の夜、あたしとキョンは一つになった。 そして何度も求め合った、今までの距離を埋めるように。 互いに、夜明けまで――。
次の日、ファーストデート。 昼からだったけどね。
更に次の日、SOS団全員集合! 卒業したみくるちゃん含めて久し振りの不思議探索。 涼子を含めて6人でやるのは初めてよね。 集合して直ぐに、あたしは皆に今までの事を謝った。 でも誰一人あたしを怒ったりしなかった。 むしろ久し振りに会えた事を喜んでくれて、とても嬉しかった。 いつもの喫茶店で、あたしはキョンと付き合う事を宣言した。 思わず大声で言ってしまったので、周囲に居た全ての人に聞かれて店内は沈黙したわね。 でも、その後、居合わせた人達全員から拍手を貰って、嬉しいやら恥ずかしいやら……キョンも恥ずかしかったみたいだったけど、まんざらでもない声で言ってたわね
「やれやれ」 ってね。
<『さくらの花の咲く頃に』~Fin~>
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