夜明けのダイナー(仮題)

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SS:憂いのGypsy(後編)

2011年06月02日 06時07分20秒 | ハルヒSS:シリーズ物

  
  (前編より)  

 
「――クリスマスは……今年も――やって……来る?」
「どわっ!!」
何時の間にか電車は通過し、遮断機が上昇し……そいつが突然現れた。
「――油断……大敵」
「す、周防!?」
「――そう」
漆黒の闇に紛れて解らなかったぞ、コンb……じゃなかった、周防九曜。
「な、何だ? こんな寒い夜中に」
「――貴方に……伝言」
「伝言?」
「――大きな……モミの――木の……下で」
おいおい、それを言うなら『大きな栗の木の下で』だろ?
「――お揃いの……傷を抱えた――二人は……再び出会う」
「……言ってる意味が、さっぱりだが」
 
やはり情報統合思念体のインターフェースの方が伝達能力において上回ってるんじゃないのか?
全く何が言いたいんだ周防。 誰か通訳してくれ。 長門、喜緑さん、ええい、この際朝倉でも良いぞ!
 
『プルルルル……』
こんな時に携帯電話が鳴る。 ん、メールか?
 
『発信者:長門有希』 お、ナイスタイミング! 流石は長門だ。
『パーソナルネーム・周防九曜の発言は、あなたの行動指針となる』
はぁ?
『……Santa Claus Is Coming To Town』
全くもって意味が解らんぞ、長門。 ええい仕方無い
「おい、周防!」
視線を携帯電話の画面から、周防の居る筈の場所へ移し、質問をしようとしたが
「……居ない」
闇に紛れただけか? いや、完全に姿を消したな。 何てこった
「ううっ、寒い!!」 
山おろしの強風は吹き抜ける。 早く帰ろう、風邪をひいてしまう前に……。
 
 
12月19日。 午前中の講義を受け、夕方のアルバイトの時間まで暇になってしまった俺は、『鶴屋北口ガーデンス』にやって来た。
何々、アルバイト先じゃないのか。 って? 確かにそうだが、大学生になって以来この施設内の他のテナントを見て回った事が無いのだ。
ウィンドーショッピングをするタイプでは無いのだが、クリスマス一色に染まっている店内を見て回るのも一興かと、そう思ったのだ。 本当に暇だし、家に居るだけなのも退屈だしな。
ショッピングセンターを行き交う人々は、それぞれ荷物を抱え、店内に流れるBGMはクリスマス気分を盛り上げている。
単なる暇潰しに来てるのは自分だけ、なのか? やれやれ。
 
行くあても無く歩いていると、最上階まで突き抜ける吹き抜けの中央に聳え立つクリスマス・ツリーが見えて来た。
「……でかいな」
こんなのがあったのか、知らなかった。 
普段は通用口から入ってバイト先の店内で完結してるからな、行動範囲。 暫しツリーに見とれてると
「よう、現地人」
――余り聞きたくなかったトーンの声だな。 後ろを振り返ると
「藤原、か」
「フンッ、相変わらずだな」
「どう言う意味だ」
「そのままの意味だ。 所で昨日、周防九曜に会ったか」
「あぁ。 言ってる意味は、全く解らなかったが」
「お前が周防に会ったのは既定事項だ。 しかし、言ってる意味が解らん、と来たか」
「……あぁ。 所で未来人が、こんな所で何をやってるんだ」
「僕か? それは禁則だ」
何だ、そりゃ。 意味が解らんのは、コイツもか。
「それより、ほら」
藤原が差し出したのは一枚の紙。 赤い色紙がブーツの形に切り取られていた
「これを、どうしろと?」
「見て解らんのか」 一々、癪に障る奴だな、コイツは
「あれだ」
指差された先を見ると、藤原から手渡されたのと同じブーツの形の色紙や、緑の色紙を切り取ったモミの木やらが、巨大ツリーの下でぶら下がっていた。
「願い事を書け、ってか」 七夕と間違えてないか?
「その通りだ」
やれやれ、正解か。 此処で当たっても嬉しくも何とも無いクイズだったな。
「アホらし。 そう言うお前が書いたらどうだ?」
「僕が? フンッ、それでは意味が無い」
 
俺が書く事に意味があるのか!? 朝比奈さんの指示なら喜んで書いて差し上げるのだが、どうもコイツに指示されたとなると、やるべき事すらやりたく無くなるのは、仕方無いよな?
 
「本当なら、この紙を渡すのは朝比奈みくるの役目。 その筈だった……」
「!?」
「尤も、朝比奈みくるが指示を断るのは既定事項だったがな」
朝比奈さんが未来からの指示を守らない? どう言う事だ!?
「……朝比奈みくるも『一人の女性』だったって事だ」
「どう言う意味だ!」
「それは僕の言うべき事じゃ無い、自分で考えろ。 じゃあな」
言うだけ言って、藤原は人混みの中へ消えて行った。
  
そう言えば朝比奈さんと藤原は未来人でも違う勢力で意見も違うと聞いた事がある。
しかし、藤原が朝比奈さんの代わりに指示された。 と言う事に何か意味があるのだろう、そして
「朝比奈さんも『一人の女性』だった……って」
謎掛けにも程があるぞ、藤原。
「願い、か」
書いて叶うものでも無し、ハルヒじゃあるまいし……って
「よし!」
書く事は一つだ。 そう、願いが叶うかは知らん。 知らんが、偶にはイベントに乗っかるのも悪くないだろ? あの頃の様に――
俺は、備え付けのペンのキャップを取り、筆を進ませた。
 
 
大学も冬休みに入り、そして、やって来た
12月24日、クリスマス・イブ
今日は丸一日アルバイトの予定。 開店準備を手伝い、11時の開店――ショッピングセンターは10時開店だが、レストラン街は11時オープンなのだ……から怒涛の如く来店する客を捌き
「疲れた~! 腹減った~!!」
閉店まで飲まず喰わず休まず働く事となった、やれやれ。
 
「さて、帰るか」
照明が殆ど消えたショッピングセンターの中を歩く。 併設する映画館は未だ上映中であるので、店内に人の気配が全く無い訳では無い。 俺は更に歩みを進める。
そして、その一角だけ無駄に明るい照明が輝いてる場所。 そう
 
「……クリスマス・ツリー、か」
 
確かに言われてみれば周防の言う通りの『大きなモミの木』ではあるが、一体この下に何があると言うのだ?
そもそも周防の言った木が、この木では無く別の場所にある木の事を指してるのかも知れないし……そして
「――お揃いの傷?」 更に
「サンタが街にやって来る!?」
長門、そのヒントは何なんだ? 何時かの『……Sleeping Beauty』は――って、何を思い出した、俺! 赤面ものだな。
ええい、さっぱり解らん!! 所で
「……再び、出会う?」
誰と? 再びってからには、一度は俺と会ってる人物の事だよな。

――そう、確かに一度。 いや、高校時代は殆ど一緒にいた人物だったさ。 
衝撃的な出会いをし、それから三年間、俺やSOS団のメンバーを引っ張り回し、世界の中心に居た女。 忘れる筈が無いだろう。
そして一週間前、俺自身、そいつの事が好きだ。 と、気付いた相手……
 
まさか、この時間、この場所で出会うとは思っていなかったな。 あぁ、姿が見えた瞬間叫んだよ! 大声で、そいつの名前を
「ハルヒっ!!」
「き、キョン!?」
一年も離れた訳じゃ無いから、直ぐに解ったよ。 トレードマークの黄色いカチューシャ、白いジャンバー、デニムのミニスカート……そして銀河の輝きを見せる大きな瞳。
しかし、そいつの名前を此処で叫んだ事を、瞬時に後悔する羽目になるとは思わなかったな。 あぁ、「うかつ」って奴だ。
 
「ほら、やっぱりあの『涼宮ハルヒ』じゃない!」
「しかし、何でこんな場所に?」
「あの相手の男って、涼宮ハルヒと一緒に雑誌に載ってた……」
「まさか彼氏!?」
「サイン貰おうぜ、サイン!」
 
しまった、コイツは今や有名人だったんだ! 昔みたく学校内じゃなく全国的に。 一瞬、忘れてたぞ。
そして俺も、何時かの雑誌にコイツと一緒に写ってたんだ――目線入りだけどな。
夜も12時近いのに、このツリー目当てにカップルやら若い連中が結構居るんだ。 まさか、こんな所に有名人のハルヒが居る訳無いと思って誰も声を掛けなかったのか?
そして、俺が名前を叫んじまった所為で周囲の連中にバレちまった訳だ。 やれやれ……さて、どうする俺?
「行くぞ!」
「え? ち、ちょっとキョン!?」 ハルヒの手を引っ張って、ショッピングセンターの外へ出る事にする。
 

「「さむいっ!!」」
ショッピングセンターと北口駅を繋ぐ歩道橋の上で、俺とハルヒはフェンスにもたれて駅前広場のイルミネーションを見ていた。
ちなみに二人、肩を寄せ合って居るのは……冬の凍てつく寒さのせいだろうよ。 他意は無いさ、多分。
 
「所でハルヒ」
「何よ」
「どうして、お前が此処に居る」
「どうして、って? あたしの地元だからよ!」 そりゃそうだ、そんな事は解ってる。
「……色々とあってね、少し帰ってみたかったの。 この街に」
「そうか、何があったんだ?……あ、言いにくかったら言わなくて良いぞ」
「ふふっ。 相変わらずね、キョン」
「そうか?」
「そうよ――それじゃ聞いてくれる?」
「あぁ」
「あたしの載ってる雑誌とか見た事ある?」
「まあな。 有名になったな、お前」
「それでね、仕事が増えて大学に行けなくなる程忙しくなって……あ、最初はモデルじゃなくって、撮影の手伝いのアルバイトで入ったんだけど。
ある日、モデルの娘が急病で出れなくなって、代わりに何故かあたしが――」
「見た目は良いからな」 一応、本音だがそれは黙っておこう
「うっさいわね!」 よし、皮肉に取ってくれたか
「それでね、初めは嫌々だったけど『仕事だから』って自分に言い聞かせて……そしたら何故か人気が出て沢山仕事が入って来て、忙しさのあまり段々訳が解らなくなって――気がついたらドラマの仕事のオファーが来てたの」
「それは初耳だな」 週刊誌に載ってたか?
「だって、まだマスコミに公表して無いもの」 そうか
「初めは仕方無いと思って引き受けたけど……台本見たらね――見たら……」
最初は普通に話をしてたハルヒだったが、段々と俯き始め
「……キスシーンがあったの」
「…………」
「いくら仕事とは言え、好きじゃ無い相手とするのは嫌! 絶対に嫌!!」
「……ハルヒ」
「あたしね、高校一年の時、夢を見たの。 北高に、あんたと二人で居たら光る巨人が現れて」
おいおい、あの『閉鎖空間』の事かよ!?
「そしたら、あんたが『元の世界に戻りたい』って言って――ううん、あれは夢だった筈。 でも、ものすご~くリアリティな感触があって……」
そりゃそうだろうよ、現実なんだから。 とは言えないな、流石に。
「でも、嫌じゃ無かった。 不意打ちだったから怒る暇も無かったけど。 嫌じゃ無かった」
「そう、なのか」 嫌じゃ無かったのか、それは一安心。 って事で良いのか?
「で、高校二年の夏休み。 二人だけで海に行ったの、憶えてる?」
「あぁ」
「あの頃ね、自分の気持ちに気付いたの。 何で夢の中でのキスが嫌じゃ無かったのか……でも、言えなかった。 だって『この関係』を壊したくなかったから。 そして、ずっと続いてくと思ってたから――」
「…………」
「そして、その二学期の中間テスト。 初めてクラス上位から落ちたわ」
確か、あれは国木田が始めてハルヒに順位が上だったテスト、だったな。 国木田も喜ぶかと思ったが、何故か浮かない顔をしてたのが印象的だったぞ。
「あの後、国木田に呼ばれて『涼宮さんは、このままで良いの?』って言われて、あたしは黙って睨み返しただけだった。
でも、あの言い方をしたって事は、国木田には、あたしの気持ちがバレてた。 って事よね……」
「ハルヒの、気持ち?」
「そうよ。 その事に心乱されてたから、他の事に手が回らなかったのよ」
 
ハルヒの頬に、イルミネーションの光を受け流れる物が見えた。
 
「精神病よ! この、あたしが心乱されたのよ!! このまま『オトモダチ』で良いと思ってたのに、納得出来なかった自分が居たのよ! だけど、だけど……たった一言が言えなくって。 こんなに近くに居るのに、手を伸ばせば届くのに――それから成績を取り戻して、他の事をやってく事で『あたし』を取り戻したと思ってた。 そして、距離が離れれば忘れられる、悩まなくて済む。 そう思ってた、思ってたのに……」
流れる涙は、とめどなく
「やっぱり駄目! あたしは……あたしは――」
「ハルヒ?」
「あたしは、あんたが好き! キョンが好き!! 忘れられなかった。 無理して、自分に嘘ついて、離れるんじゃなかった!!」
俺の胸元で、ハルヒは泣き叫んで居た
「あの台本を見て、キスの事思い出して、そしたら急にキョンに会いたくなって……気がついたら新幹線に飛び乗ってた。 そして自分の家に向かったら玄関の前に黒い車が停まってたから、あんたの家に行ってみたの」
「黒い車?」
「事務所の連中でしょ。 あたしが居なくなったから探してたのよ、きっと。 携帯もうるさいから、電源切ってやったわ!!」 やれやれ
「そして、あんたの家の呼鈴押したら妹ちゃんが出て来て『キョン君はバイトだよ~』ってバイト先を教えてくれて」
「来たのか?」 気が付かなかったぞ、忙しかったし
「うん。 忙しそうだったから外から見ただけだったけど……キョンってば、真剣にバイトしてたのね」
「そう見えたか」 
「そうよ、ちょっと格好良かった」
何か、ハルヒに褒められると少し照れくさいな。
「だから声も掛けられずに、ショッピングセンターの中を回ったり、映画を見たり――」
「……バレなかったのか」
「何を?」
「お前が『涼宮ハルヒ』だって事に」
「ハァ!? あたしは、あたしでしょ?」
「いや、意味が違うって!」
「冗談よ。 偶に声を掛けられたけど『違います!』って言ってやったわ!!」 それだけ堂々と否定すれば、それ以上は聞かれないよな
「元・北高の連中や、東中の奴も見掛けたけど、まさか、あたしが此処に居るなんて思わなかったでしょうね。 遠くから見てただけだもの」
いや、そいつらは『涼宮ハルヒ』が、どんな人間か知ってるから声を掛けなかっただけだろ。 何せ「学校一の変人」だったからな、当時は。
「そしてね、吹き抜けの所に立ってるクリスマス・ツリーを見つけたの。 下を見てみたら『願い事を書いて下さい』ってテーブルの上に紙が置いてあって……七夕を思い出したわ――願い事を書いて、ツリーに付けようとしたの」
「…………」
「何気なく手を伸ばしたら見えた願い事。 あ、何処かで見た事のある字だと思ったら――」
「……見ちまったのか?」 俺の願い事を
「……うん」 確かに、誰にも呼ばれない本名も併せて書いてあったからな
「――しゃ~ねーな」 黙って居ても仕方無い、今度は俺のターンか。
「あの願いはな……俺の本心だよ」
「えっ?」
「自分の気持ちに気づいたのが一週間前、なんて間抜けな話なんだけどな。 それから色々とあって……願い事なんて最初は書く気無かったんだけど、
『好きな人に、もう一度会いたい』って、単純な気持ちを書いたんだ」
「キョンの『会いたい』人って?」

「それはな……ハルヒ、お前だよ」
「え!?」
 
何時の間にか日付の変わった深夜の北口駅前。 イルミネーションの輝きだけが賑やかだ。
「一緒に居た頃は気がつかなかった。 何時も一緒に居るのが当たり前だったからな。 ハルヒの思いつきに振り回され、やれやれって言いながらも……楽しんでた。 三年生になって進路が違うと解っても『まだ大丈夫』って思ってた。 大学に入って、ハルヒと離れて――大学の講義とアルバイトの忙しさに追われて気付かなかった。 『もう、近くにハルヒが居ない』って事に。 そして不意に独りになった時、気付いたんだよ。 情け無い事にな」
「……キョン」
「つまらない物に思えたんだよ、ハルヒの居ない世界が! 淋しくなっちまったんだよ、ハルヒが遠くに居ると考えただけで!!」
 
ハルヒの頬に流れる涙を、持っていたハンカチで拭き取り、改めて向き直る。
 
「だから、あの願いを書いたんだ。 叶う筈無いって思ってたけど……でも、心の何処かで願うと思ってた」
「…………」
「ハルヒ。 俺も、お前が好きだ!!」
「……バカキョン」
「あ、言うの忘れてた」
「何を?」
 
「メリークリスマス、ハルヒ」
「メリークリスマス、キョン」
  
周防の言ってた『お揃いの傷』って、互いに好きと言う気持ちを伝えられずに居た俺達の事を言ってたのか? そして、あのクリスマス・ツリーの下で再び出会う――これは偶然? それとも必然? まあ、そんな事はどっちでも良いさ。
サンタクロースの存在を信じなかった俺も、少しは夢と言う物を見ても良かったのか。 なんて思わせてくれた、天に星が降り注ぐ夜だった……。
 
 
さて、此処から先はエピローグって奴だ。 興味ある人間だけ見てくれ。
 
「で、今からどうするんだ? ハルヒ」
「今から、って?」
「東京へ帰るにしても、始発まで時間があるが……」 まだ午前零時を過ぎたばかりだからな
「あんたの家に行くわよ!!」
やれやれ、やっぱりか。 ってな訳で、俺はハルヒを連れて家に帰り――妹含め家族全員寝てたから、静かに自分の部屋に向かったよ。 
「あ」
「どうした、ハルヒ」
「……クリスマス・プレゼント、用意して無い」
「俺もだ」
そして再び外に出て、近所のコンビニでケーキとシャンパンを買い…… 
それ以上は禁則事項だ、ノーコメントだ。 「あたしがプレゼントよ!!」とか、わっふるが美味しかったとか、そんな事は一切無い! 断じて無かったぞ!!
 
 
翌朝、アルバイトに向かうついでにハルヒを北口駅に送って行った。 ちなみに、俺の家族には結局ハルヒを連れ込んだ事がバレちまったよ。
妹が朝、俺の部屋にノックせず入って来たからな。 やれやれ。 
 
北口駅到着
「なあ、ハルヒ」
「何よ」
「卒業したら、戻って来るのか?」
「あったり前じゃない! 向こうに未練は無いわ!!」 そうか
「でも、きっちり卒業するわ。 だから、もう仕事はしない!」
「え!?」 何だって? 勿体無い。 折角、有名になったのに
「……キスシーン」 そうだった! 次の仕事はドラマだったっけ
「……そうか。 じゃあ辞めてくれ」 ハルヒと他の男のキスシーンなんぞ、見たく無いからな
「ふふっ、ありがとキョン。 あ、電車来た! バイバイ!!」
「おう、気を付けてな!」
改札を抜けて、ハルヒは行ってしまった。
「おっと、バイトの時間だ」 
 
今は互いの道を行くしか無い。 でも、ハルヒは必ず戻って来る。
その事が解っただけで、気分はこんなにも晴れる物なのか――
12月25日。 冬空は、何処までも澄んで青かった。
 
 
ハルヒは仕事に専念していたせいで、大学の単位が不足し留年決定寸前だったらしいが……本人の努力で何とかなったみたいだ。
元々、頭の良かった奴とは言え、並大抵の努力では無かっただろう。 
所でハルヒの仕事からの引退は衝撃的なニュースとなって全国を駆け巡って行った。
そりゃあTV出演やCM等で引っ張りだこだったアイドルだったからな。 惜しむ声は多いだろうよ。
しかし、そんな奴の彼氏が俺なんかで良いのかね? やれやれ
 
 
季節は過ぎ、時は流れ、大学を卒業した俺は地元企業に就職。 ハルヒは地元に戻って来て、ショッピングセンターのイタリアン・レストランで俺と入替わりにアルバイトをする事となった。
『元・アイドル』が働いてるって事でマスコミが取り上げ、騒動になったのは今更語る事では無いだろ?
 

そして、この夏。 俺はハルヒと二人、あの海へ――
 
 
 
      <憂いのGypsy>
(From『Sunset Beach』 To『She’s Leaving Home』)   ~The End~
 

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