PCRとmRNA

2021年01月16日 15時46分05秒 | Weblog

昨年2020年の流行語大賞(「現代用語の基礎知識」選「ユーキャン新語・流行語大賞」年間大賞)は「3密」でした。新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナ」を名称にした企業や商品に配慮して、COVID-19と書きます。)拡大に翻弄された一年を象徴する言葉としては、至極妥当でしょう。しかし、ひそかに期待していた「PCR」がトップ10に上り詰めなかったのは残念でした。ノミネート語の28位に「PCR検査」と、「検査」付きでランクインはしていたのですが。

PCRは一言でいうと「DNAを増やす」技術です。1983年にキャリー・マリスが発明しました。当時、アメリカのシータスという会社で研究員をしていた方です。増やすといってもハンパないレベルで、普通は目に見えないDNAを、目に見える量に、ざっと百万倍に増やします。しかも1時間もかかりません。すごいです。

多くの科学者や技術者に使われるようになったのは1990年ごろからです。専用の装置が販売されるようになったためです。それから生物学やバイオの世界がガラッと変わりました。結果、マリスは発明から10年後、1993年にノーベル賞を獲りました。便利な世界を作ってくれてみんな感謝していたので、違和感なかったです。

残念ながらマリスは2019年の夏に亡くなりました。そう、COVID-19が中国の武漢で確認される少し前です。自身が開発した技術が「流行語」になるぐらい、世界中でみんなが口にする時代を見ることはありませんでした。残念です。

PCR装置を使うと特定のDNAを選り分けて増やすことができます。PCR検査ではSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)のDNAだけを増やします。増えたらウイルスがいたことになり「陽性」、でも100%とは言い切れない。そして増えなくても「陰性」とまでは言い切れず「検出なし」。白黒はっきりせずもやもやします。理由はいろいろあるのですが、そもそもハンパなく増やす技術であるがゆえに、出て来る結果の判定が微妙なんですね。なので医師や医療従事者に判断を委ねましょう。特に、通販で買える検査キットや、街のPCR屋さん(?)で調べた結果をうのみにしないことが大切です。素人判断は禁物なのです。


 

大学院の学生時代に毎日のようにPCRを使っていました。そしてそこからmRNAを作っていました。mRNAも昨年末から急にみんなが使う言葉になってきました。もちろん「ワクチン」だからです。このあたりも、後日書きます。

(続く)


ミニマムゲノムファクトリー論文覚書

2021年01月11日 11時26分49秒 | 科学

Reyes-Prieto-2021_The Metabolic Building Blocks of a Minimal Cell

・最小代謝ネットワークの構成要素を同定し、KEGGデータベースと関連付け、MetaDAG法を適用して代謝ビルディングブロック(MBB)を決定し、その代謝有向非周期グラフ(m-DAG)を再構成した。この代謝ネットワークの反応グラフは、80の化合物と98の反応から構成されており、m-DAGは36のMBBから構成されている。

 

Luo-2021_Compacting a synthetic yeast chromosome arm

・SCRaMbLEベースのゲノム圧縮法(SGC)を開発し、合成染色体アーム(synXIIL)を効率的に縮小できることを実証した。

・synXIIL中の65個の非必須遺伝子のうち少なくとも39個が、栄養培地中で30℃で細胞の生存性に影響を与えることなく、まとめて除去することができることを明らかにした。

・28個の遺伝子をコードする合成配列の約40%は、30℃の栄養培地での細胞増殖には不要であることが判明し、特定の条件下で機能が必要とされるいくつかの遺伝子が同定された。

 


分裂酵母 Schizosaccharomyces pombe 論文覚書

2021年01月11日 10時58分41秒 | 科学

Malecki-2016_Functional and regulatory profiling of energy metabolism in fission yeast

・エネルギー代謝経路に機能するほとんどの遺伝子の転写産物レベルは、発酵細胞と呼吸細胞の代謝フローの違いを反映して、一貫して調整されていることがわかった。

・分裂酵母のアセチル-CoA合成には、クエン酸リアーゼではなくアセチル-CoA合成酵素が必須であることを明らかにした。

・ミトコンドリアの機能不全による損傷を回避するためには、核内遺伝子群の協調的な制御が必要であることが明らかになった。

Schuh-2020_Network Design and Analysis for Multi-Enzyme (Dissertation)

・任意の基質から目的の製品への代謝経路を見出すアルゴリズムを提案する。また、代謝ネットワーク再構築のための包括的なワークフローも紹介する。分裂酵母もモデルの一つとして使っている。


注目企業

2021年01月08日 08時00分00秒 | Weblog

株式会社シルクルネッサンス

沖縄工業高等専門学校発のバイオベンチャー。カイコの無細胞蛋白質合成技術を用いた組換え蛋白質受託生産事業を2018年から始めている。代表の伊東昌章氏は同校の副校長、レンゴー株式会社、株式会社島津製作所での研究・開発を経て起業されている。

https://www.silk-r.jp/

※JREC-INで求人されています(募集終了日 :2021年03月31日)。

 

付記:

大関株式会社の無細胞タンパク質合成サービス

総合食品メーカーの大関株式会社が同社のカイコ無細胞タンパク質合成技術を用いたタンパク質の受託合成サービスをおこなっている。

 

 

 


新年のご挨拶

2021年01月03日 13時00分00秒 | Weblog
喪中につき静かな正月(三が日)を過ごしております。
みなさま本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

正月って1月のことだろうか、元旦は1月1日のことだろうか、松の内はいつまでか、毎年新年になると悩みます。というか、せっかく調べたことを1年たつと忘れてしまっています。なのでここに備忘録として書いておきます(>来年の私へ!)。

正月は本来は旧暦1月の別名のようですが、改暦後は新暦1月を意味するようです(後日ちゃんと調べる)。そして現在は「三が日」または「松の内」という意味で使用することもあるようです(https://ja.wikipedia.org/wiki/正月)。三が日はともかく、松の内の期間は人によってそれぞれのようで気になっています。元々は1月15日までだったのではないかと思うのですが(後日ちゃんと調べる)、現在は1月7日までに短縮していることが私の周囲(関東)では多いようです(寛文2年1月6日に江戸幕府の町触として1月7日を以ての飾り納めが指示されたそうです、https://ja.wikipedia.org/wiki/正月)。あるいは1月20日までを正月とすることもあり、この場合は1月20日を二十日正月と呼ぶそうです(https://ja.wikipedia.org/wiki/正月)。なお元日は1月1日であり、今では国民の祝日です。

そもそも喪中や忌中の期間も、時代や地域、そして故人との関係性によって異なるようです。その中で忌中は四十九日までということで50日間、喪中は一周忌までとして13か月間とするのが、一般的というか、多いようです(https://nenga.yu-bin.jp/mochu_manners/)。明治7年に出された太政官布告(昭和22年に廃止)が今も一つの目安にされているのかもしれません。