いや〜これは作者にしてやられた。読了後に何度も前のページに戻って「このシーンはこうだったのか…」を繰り返す。
久々にどっしりとした満足感を味わった。語り手の里佳子は既婚者で一児の母、在宅で校正と校閲の仕事をしている。まだ幼い息子を育てる平凡な毎日に、とある人物が入り込んでくる。その人物に胸騒ぎを覚える里佳子。
構成が絶妙で、里佳子が校閲している作品のワンシーンやあらすじが
作品世界とリンクする形で時折カットインしてくる。ちなみに冒頭は、その小説世界の記述から始まるので
読者は最初から作者の目眩しに合ったような心持ちにさせられる。
犯人は、自分の親に冷徹なまでの嫌悪感をもって生きてきたのだが
唾棄するように心の中でこう思う箇所がある
『認めたくないことは見なかったことにする人間がここにもいた』
「風は吹いているか」の問いかけが二回出てくる
二度目の問いかけに答えが「今日はほとんど吹いていない」だったのが哀しい。
吹いていて欲しかった。
ニーチェの『怪物とたたかうものは、それが故に自身が怪物にならぬよう用心せよ
お前が長く深淵を覗き込む時、深淵もまたお前を覗き込む』という言葉が意味を持つ本作においては
風が吹かないほうが似合っている。
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