創作 テーマ「綿矢りさ『蹴りたい背中』へのオマージュ」作:林美沙希
部屋を出ると、いつも通り騒がしい。言い争って、火花は僕に飛んでくる。お前が死ねばよかっただのこういう時だけ実物として扱われ、痣だらけになる。もういっそのこと、殺してくれないだろうか。
なんで僕は、生きているのだろう。親に殺されるのと、奴に呪い殺されるのだったら、どちらが良いか。枕の下にあるナイフを手に取り、深呼吸をする。そんなことを真剣に頑張るのが僕の日課だ。死ぬために生きる。毎日続けていたら、いつかやり遂げるかもしれない。
さて、あとは寝るだけだ。布団に潜ると、突然奴が動き始めた。居てもたってもいられず後をついて行く。僕について来てとでも言うように、振り返ってくる。外に出て、立ち入り禁止のテープを越えて、あの場所へ。予想していた通りだ。つまり僕は、これから死ぬのだろう。でも奴は何もしてこないから、だんだんと、話したくなった。素直になれなかった弟に。
殺すつもりはなかった。お前はこんな僕にも優しかったから。死ぬと分かっていたら、この川に落としてなかった。なんでも出来るお前が、褒められているお前が、大嫌いで憎かったけど、大好きだった。涙があふれる。早く、殺してくれ。生暖かい風が吹いたそのとき、あの優しい声が聞こえた。
「恨んでないよ」
気づいてないふりをして何食わぬ顔でそっぽを向いたら、はく息が震えた。
完
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