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アッラアアア

Beautiful City 1

2020-04-29 | 『Beautiful City』

去年の春に大学を卒業して、社会人としての生活が始まった。もともと剣道のスポーツ推薦で大学を入学した僕、岩瀬紘一は、大学時代、本当に部活しかやっていなかったが、なんとか中小の製造業に、営業として入社することができた。会社の研修として、数か月間工場で勤務する、というものがあって。初めの数か月は工場に配属されることとなった。

工場は東海地方のある田舎にあった。田舎は不便だった。複合的な商業施設が、僕の住んでいた寮から徒歩で30分はかかるところにあって、基本は自転車での移動をしていた。休日は話し相手がすぐ見つかるわけでもなく、特にすることもなかったので、適当にその辺をぶらつくくらいしかやることがなかった。

社会人生活の始まりが、こんなに寂しい始まりだったので、これから一体どうなるのだろう、と不安になっていたが、研修が始まってからしばらくして、僕にも気の合う同期ができた。須藤という男だった。須藤は研究職として入社したそうで、僕みたいな体育会系と違い、バリバリの理系で頭も賢かった。ほかのほとんどの同期とは気が合わなかったので、からむこともなかったが、須藤だけは僕と波長があったらしく、工場研修中は大体須藤とつるんでいた。

 須藤は九州の出身だと言っていた。2年前から九州のやんちゃな女の子と付き合っていたらしく、この会社の入社前に別れたといった。原因は喧嘩別れで、何やら彼女の飼っていた愛犬が死んだ際、須藤が「そんな犬ごときで泣くんじゃない」の一言が原因だったようであった。その一言にキレた彼女が、須藤のバイクにコンクリートブロックをぶつけた。それを見た須藤も激情し、彼女めがけて拳で鉄槌を食らわせ、歯を2本折ったそうだ。幸い警察沙汰にはならず、相手はそのまま音信を絶ったそうだ。僕はこの話を聞いてこいつだけは怒らせるんじゃないと思った。

彼は、酒が入ると工場研修のことについてたびたび不満を言った。どうしてこんなことをしなければいけないのかわからない。俺たち大卒はこんな単純労働をするために会社に入ったんじゃない、とまで言った。

彼のプライドの高さには少々扱いにくさがあったが、こんなことを言っておきながら人前ではへこへこと頭を下げて処世しながら、「こんなこと」とののしった仕事をもくもくとこなしているのだから、大したやつだと僕は思った。

 しばらくして、同期の中ではぐれた僕と須藤だったが、後で聞いた話、ほかの同期は同期でいろいろとドロドロとした事件が起きていたらしい。よくよく考えてみれば、大学を卒業したばかりのパワー有り余る人たちが、田舎に閉じ込められて、何も起きないはずがない、と思った。

 具体的には書かないが、同期内で派閥ができたり、男女の変な関係ができてしまったりだそうだ。

須藤と僕が同期から孤立できたことは、後から思うとかえって良かったのかもしれない。

 初めの2週間くらいは、僕も真剣に働いていたけれど、研修生ということで特に重要な仕事も与えられなかったので、僕は時折退屈を感じていた。

 僕は大学時代のことを時折思い出していた。体育会系は、なにかと馬鹿にされがちだけど、僕は大学時代の剣道の練習や、仲間、先生たちとの生活に、確かに充実感を感じていた。人生をある時点で振り返った時、そういう充実した時期があるのは、本当に大切なことだと思う。そんな日々と今の単調な生活を比べて、今の生活に若干の不満を感じていた。

須藤と適当な居酒屋で飲んでいたとき、彼から井上という同期が労災を起こした、という話を聞いた。

井上と同じ班で働いていた須藤は、井上の鈍さに日ごろからイライラしていたらしく、同期の失敗の話をさも嬉しそうに話していた。

「あいつは、これから先出世の道はねえな。」須藤は言った。

「まあ、かわいそうではあるよね。」

僕は井上のことをよく知っているわけではなかったので、うまく同意ができなかった。

 

僕らは田舎から少し電車で、ちょっとした繁華街へ来ていた。

街は多すぎない人達でにぎわっていた。

「井上はあの、売店の女にもからかわれたらしい。」須藤はつづけた。

【売店の女】とは、僕ら同期で有名になっていた工場内の売店に勤務していたヤリマンの人妻のことだ。

工場内でもその人のことは有名で、隙あらば新人を食ってしまうらしい。

 

「マジい?」僕は思わず声がでた。

井上は目立つ方ではなかったので、そんなことが起きたことにとても驚いた。

「あいつ、就職に失敗してこの会社にきたらしい。」須藤はつづけた。

「もともと、大手のいいところに最終選考まで行ったらしいが、そこで落とされたんだとさ。面接官にこの会社に来て何かしたいことはありますか、って聞かれて、ないって答えたらしい。」須藤は笑いながら言った。

 

「ないって、そんなの適当に返しておけばいいのに。」僕は言った。

「とにかく、あいつはポンコツだ。」須藤は言った。それを聞いて僕も笑った。

 

僕らは、そのあと居酒屋を出て、適当にあたりをぶらついた。

 

街にはポン引きのお兄ちゃんたちが立っていた。須藤と僕は、適当にポン引きの人について行って、案内所で好みの女の子を指名した。案内所のおじさんは、近くのホテルを指定して、その前で待っていてくれといった。須藤とはそこで別れて、僕は指定されたホテルへ向かった。

 

しばらくすると、女の子が来た。指名した写真とは若干違ったけど、それなりの子だった。

「飲んできたの?」女の子は言った。

「少しね。」僕は答えた。

 

「こっちの人?」女の子は言った。

「ううん、四国の方。」

「やっぱり。なんかこっちの人と話し方が違ったから。」女の子は言った。

 

適当な話をしながら、僕らはホテル入って、その日はその子と遊んだ。

 

事が終わってホテル近くのファミレスにいって、須藤にラインを送った。

しばらくして須藤がやってきた。

「おう、どうだった?やれたか。」須藤が聞いた。

 

「うん、まあね。須藤はどうだったの?」僕は聞いた。

「ひでえ臭いの女だったよ。まだ口の中に最悪なにおいが残ってる。」須藤は言った。

 

須藤は、自分からなめる男だった。

 

僕らはタクシーで寮に帰った。

 



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