相田が眼を覚ました時、まだトランは眠っていて、おばあさんが朝ごはんの支度をしていた。
死の運命が迫っているのにもかかわらず、怖くないのか、と相田がおばあさんに尋ねると、おばあさんは運命は運命だからね。私ももう長くないからそんなに怖くはないね、と言った。
相田は、ジフの言った通りおばあさんがすでに死に対してある種の放棄的な心理にあることを悟った。
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逃げることに成功したジフは二人組が追ってこない事を確認しながら廃墟の物影で頭の中の状況を整理していた。
二人組が追って来なかったのは、彼にとって不幸中の幸いであった。二人組は彼が何の目的で彼らを狙ったのかわかっていない。そしてそれはジフにとって大変有利な状況を作り出していた。
二人組の女の方にジフは奇襲を仕掛けたが、それが失敗に終わった。最大の原 . . . 本文を読む
ジフの振り下ろしたモリがミルファの肩に当たると、モリは音を立てて2つに折れた。
なんだこれは!?
こいつ、モリが刺さらない!肌が鉄のように硬い!
ジフの頭は混乱した。そしてそれと同時に相手が特異な性質を持っている、ということを恐怖に感じた。
そしてその恐怖はジフの脳内に逃げなければならない、という危険信号として放たれた。
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その日ドールは朝起きて、いつものように身支度をしていた。とても早い朝だった。まだ日は出ていなかった。 一通りの身支度を終えると、クローゼットから大きな人形を取り出し、服を着せて、化粧を施した。慣れたものだった。ヘリが到着する約束の時間が訪れると、いつも通りの黒のジャケットに黒いハットを被って、まるでサーカスの支配人のような格好で、そのまま島へと向かうヘリコプターのやってくる着陸場に向かっ . . . 本文を読む
彼は考え続けた。そして、色々な考えとともに、多くの感情も芽生えてきた。 この状況がチャンスであるという考えが浮かんでくると、今度はこの状況を見過ごしてしまう事への恐怖感も生まれて来た。 また、ここに来て人を殺害する、と言う事への恐怖感も芽生えてきた。この二人組が、本当に自分たちを殺しに来たならば、それを阻止するために彼らを迎撃する、というのは彼の中で納得がいった。 し . . . 本文を読む
辺りは明るくなり始めていた。朝の5時ごろだった。明朝の湿気に満ちた空気がジフの体全体を濡らした。昨夜から寝ていない彼の疲れはピークに達していた。体が重く、頭がぼーっとする。しかし彼に休むという考えは浮かばなかった。しばらくして今まで築いてきたものが、すべて崩されてしまうことが起こるかもしれないという現実が、彼に疲れを忘れさせた。 ジフは物陰から注意深くその二人組を観察していた。  . . . 本文を読む
お父さん。彼は意思の強い男だった。彼の名前はジフ。 彼がこの島に生まれてすぐ、両親が離婚した。父親は島を出て行き、母とともにこの島に暮らした。 女手一つで育ててくれる母を支えようと、家事の手伝い、アルバイト、なんでもやった。ちょうどその頃近所の漁師に習って漁業も習得した。 彼には生きるという事に対する信念があった。島を守る、子供や未来を担う若者を守る事で、人間の営みを . . . 本文を読む
相田が家に戻った時、トランとおばあさんはすでに寝ていて、お父さんだけが茶の間で準備を進めていた。
お父さんは相田にナイフを手渡した。
今のところ武器になりそうなものといえばこんなものくらいしかない。
お父さんは言った。
他にトランと婆さんにもナイフを預けてある。もちろん、それがどこまで役に立つものなのかわからないがな。
お父さんは漁で使うモリを持っていた。
もしもの時は、それで婆さんをや . . . 本文を読む
ジェットは歌うように大きな独り言を続けた。
ここは一体どこなんだろうね。なんで君はここにいるんだろうね。時々僕は思うんだ。
人はどうして生まれてくるんだろう。
そしてどうして死んで行くんだろう。
ある時生まれ、大きくなって、だんだん元気が無くなって、最後には何もなくなる。
どうしてそんなこと繰り返すんだろうね。
言葉の切れ目に相田が口を挟む。
あなた、一体誰よ?何か知ってるの?そうだ、なん . . . 本文を読む
昼の蒸し暑さを忘れたように、外は暗くひんやりと気温が下がっていた。
下り坂の向こうには、静まり返った古い民家がいくつか見え、地平線の上に浮かぶ月が海を照らしているのが見えた。
相田は深呼吸をした。大きく息を吸って、もう息が吸えないというところでゆっくりと息を吐いていく。
そうする事で次期に落ち着く。相田はそんな事を生得的に学んでいた。
ひとしきり落ち着いた後、そろそろ戻ろうかとしていた時、
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