いたち日記

今治 来島海峡

「火の粉」読みました。ネタバレ注意!

2013-08-26 13:17:19 | 映画・本・アニメ
雫井脩介(しずくい しゅうすけ)さんの「火の粉」読み終えました。テンポと登場人物の心理描写が良いのであっという間に読了っす。謎解き推理小説ではなくサスペンスのジャンルに入る部類のものなのでネタバレというほどのものはないです。ト書きからして「引っ越してきた親切な隣人、しかし次第にエスカレートしていく親切と顕在しはじめる家族の和を乱す事象。そして・・・」みたいなもうネタバレ要素満載なんで、この小説の売りはこの気の狂った殺人犯の方ではなく、被害者家族のリアルな描写のほうかなと。映画化でもすればほぼ主役と言っていい殺人犯であり隣人である武内さんという人ですが、その内面はほとんど語られることはなくてあくまで被害者家族から見た感想でこの人の人格が形成されていってる感じっす。最初の「何て親切」から「何かおかしい」「怖い」に変わっていく様子を「そんなはずない、やっぱりいい人だった」っていうのをちりばめて二転三転させながらハラハラ・ドキドキで描いてくれてますです。

この小説の前半は被害者家族である梶間(かじま)家の人たちをかなり丁寧に描いていて、まあ、リアルな「サザエさん」を読んでいるような感じ。人間が複数集まればもめごとはいくらでもあって、微妙なバランスの上でみんな何とか暮らしていますよねっていう作者からの問いかけを感じちゃいます。この梶間家は何と4世代家族でだから「サザエさん」をイメージしたんですが、「サザエさん」一家+ひいおばあさん(つまりは姑)、カツオ・ワカメはいなくて、マスオにあたる人がニートで実子(サザエが嫁いできたほう)、波平の実姉(つまりは小姑)が毎週やってきてうざい。また、タラちゃんにあたる女の子3才もタラちゃんのような良い子ではなく普通にわがままで普通に気分屋、夫ニートは34才にして法律の勉強をし始めて子育て関与せずこの小説のヒロインであるサザエさんもお疲れぎみ。さらにこの小説のキーマン波平嫁のフネさんはわがまま姑の介護に疲れ、小姑にはいつもはらわた煮えくり返るわ、夫は地方裁判所の主席裁判官を退官して大学法学部の教授という世間的には人徳者と思われているが家では介護の手伝いどころか我関せず状態で姑・小姑のことをグチることもできない。あまりにも現実すぎてしかもそれぞれの内面描写がちゃんとしてて小説というよりはニュースを読んでるみたい、何か大変だよねでも自分とこもいつかこうなるかも人ごとじゃないよねって共感しながら読み進んでいけます。

ここで武内さん登場っす。フネさんと庭ごしの園芸談義で仲良くなって、グチを聞いてくれるようになって、フネさんが過労で倒れるととうとう介護の手伝いまでやってくれちゃいます。武内さんは親の遺産か何かで数億の資産があるっていう人なんで自家用車はベンツ、ニート・マスオさんにいつでも乗っていいよと貸してくれちゃったりもします。ここまではこんな隣人ならWelcome状態っす。

こっからちょっとネタバレになっちゃいますが、この小説は武内さん目線での心理描写がほぼないのでいろいろな殺人事件がほんとに殺人だったのか事故だったのかっていうのが未解決のまま終わっちゃってます。まあ、流れの中でいけばみんな武内さんがやったと思うんですが、最後は波平が武内さんの頭たたき割って(もちろん家族を守るためなんですが)殺しちゃって波平裁判のシーンで終わりなんで、普通なら武内さんの独白とか警察の事情聴取とかで詳細はこうでしたみたいな話無しに終わりになってるんで、私としては書いて欲しかったかなと。こういう場合の王道だと、日記が見つかるとかなんか告白したぶつが発見されて、ああマメな人だったねちゃんちゃんみたいな。
例えば、武内さんはまず一番にフネさんに親切にしてあげたい、もっというとストレスを取り除いてあげたいと思っているわけですね。で、いちばんのストレスは姑・小姑なわけですよ。ある日小姑が食事介助してあげてしばらくして様子見にいくと食事を喉につまらせてゲロってぶっ倒れて姑は病院でご臨終ってなるんですが、のちのち、これも武内さんの仕業に違いないと呼びつけての対決シーンもあるんですが逆に論破されてその場はお流れ。このあと武内さんに同じような被害にあって一家惨殺された(でも無罪判決。判決下したのは波平。)家族の親戚とか、武内さんの狂人ぶり(プレゼントしたもの使ってないと激昂するとか)を語る学生時代からの友人とか登場するにいたって、あれやこれやも武内さんがやったに違いない。こうやったんじゃないかというのがすべて憶測なんで、やっぱり締めという意味で武内さんの口や手記から実はこうやった、こうだったっていうのが欲しかったかなと。

まあでも隣人とのトラブルなんて誰でも経験しているし、ここ日本では隣人が拳銃を持ってるはずがないので「安心して」どなり込んだりしてるわけですが、こういう小説を読み昨今のリアルな殺人事件を見聞きするにつけ、気をつけなきゃいけないのかなと思うしだいっす。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿