『ワイルドサイドをほっつき歩け』 ブレイディみかこ
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『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』のブレイディみかこさんの本。
『ぼくは・・・』はみかこさんがイギリス人の夫との間に生まれた息子さんの中学校生活を描いた本で、とても好きな本でした。
その後は彼女の本を読んでなかったのですが、この本を書店で見て面白そうだなと思って読んでみました。
この本は1950年代後半生まれのイギリス人の旦那さんとその周囲のおじさんたちの事を書いています。
イギリスの労働者階級といわれる人達。
もともとこの年代の人が若かった頃には、まさにワイルドな若者として社会に反抗的で反権力的だった。それなのに既存の社会階級の枠にはまり込んでしまうといわれてきたそうな。英国では有名な『ハマータウンのやろうどもー学校への反抗・労働への順応』という本で描かれているそうです。
その頃に若かったやろうどもが今はおじさんになって、今ではまさに労働者として暮らしているけれど、その間にイギリスの社会制度は大きく変わってしまったのですね。
サッチャー首相に代表される保守党の政策で、ゆりかごから墓場までと言われていたイギリスの社会保障制度がどんどん縮小されてしまった事、さらに緊縮財政で公共サービスが削減されていった事。
この本を読んでいて、本当に深刻な状態なんだなと思いました。
特に無料で受けられる医療制度がイギリスの誇りでもあったのに、今では診療を受けることさえままならない状態になっている様子です。
お金を払えば行ける病院はあるけれど、それはお金を持っている人が使うという事。
そして、無料の医療制度を誇りに思っているから、機能不全になっていてもなるべく他の病院には行きたくないという気持ちもある。
つくづく、大変なことになってるんだな〜〜と思いましたが、そんな中でもなんだかんだ皆さんが落ち込んでも次のステップに歩き続けているたくましさがすごい。
そして、さすがに次の世代は自分たちのような事をさせたくないと思っている人も多くなっているそうです。
イタリアは深いなと思ったけど、イギリスも色々あるし、一人一人の事情があるのは当然ですね。
イギリスの今をワイルドサイドをうろうろとしているおじさん達から見ると、EU離脱問題や階級問題の実際が少しわかったような気がします。
息子さんの周囲から見たイギリス社会、ワイルドサイドのおじさん達から見たイギリス社会、どちらもとても興味深かった。
本当に大変な状態になっているイギリスではあるけれど、日本を省みるとどうなんだろう?とそれも考えさせられました。
おじさん達の状況はすごく厳しいけど、社会状況に翻弄されながらも立ち上がるおじさんがその方向性はどうであれ凄いなと感心しきりです。
ブレイディみかこさん、面白いな〜〜