夢と現実のおとぼけバラエティー

実際に夢で見た内容を載せています。それと落語や漫才・コント・川柳・コラムなどで世相を風刺したりしています。

創作落語『伏魔殿』

2019-09-27 19:07:09 | 夢と現実のおとぼけバラエティー
       

    テン・テン・ツク・ポン・テケ・テン・テン・テケ・ツク・ポン


             『伏魔殿』


      へい、ようこそお越しいただきまして、ありがとうございます。
       館内の冷房は効いておりますですか?えっ、まだ暑い・・?
      そのうち、涼しくしてさしあげます。あたしが、保証します。
     こんなこと保証したって、ちっとも腹の足(た)しにはなりません。
    え〜、落語家の先祖は、どんな人・・? なんてよく聞かれますが・・、
       江戸では延宝(えいほう)から貞享(じょうきょう)年間に、
      辻芸人として『鹿野武左衛門』なぞという人が活躍しましたそうで、
       上方では『露の五郎兵衛』とか『米沢彦八』なぞ、・・・
      名前のフィーリングが今の落語家とは懸け離れております・・・。
     江戸では、その後、烏亭焉馬(うていえんば)などの『咄(はなし)の会』、
        三笑亭可楽の『三題噺』なぞが流行りまして、
      この時代は、寺社境内での興業が普通でしたようで、
         落語や講談をやる寄席が出来たのが、
        文化・文政年間のころだそうでございます。
     なんでも、この頃には、江戸市中に120軒以上もあったそうで、
     こんにちから見ますと、まことにうらやましいかぎりで・・・。
   え〜、江戸の千住て処に、笑作という落語作者が住んでおりまして、・・・



笑作   「近頃、客の好みが変わったンかなア・・。
      昔のネタが、さっぱり受けねえナ・・。
      なンか、ここらで目新しいネタを仕入れねえといけねえな・・。
      おっ、向こうから来るなあ、瓦版屋じゃねえか。
      そうか、奴っこさんなら、おもしれえネタア持ってるに違えねぇ」


瓦版屋  「おや、笑作の旦那じゃござんせんか・・」


笑作   「おう、瓦版屋か。どうだい、近頃不景気だが、
     なンか面白れぇ話しでもあるかい?」


瓦版屋  「まぁ、こういう御時世でやすから、
     面白い話ってぇのは、ねぇんでやすがね、ドタバタ話しならありやす・・」


笑作   「へぇ〜、いってエ、どんな話しだい?」


瓦版屋  「おっと待ったア。旦那は落語作者だア。
     ここで、べらべらしゃべったら、瓦版が売れなくなる・・」


笑作   「そんな気遣えは無用だ。なにも全部聞こうってンじゃあねぇ。
     ほんの世間話、立ち話じゃあねぇか」


瓦版屋  「じゃあ、耳寄りのドタバタ話しでやすがね・・」


笑作   「おうおう・・」


瓦版屋  「両国の『小泉屋』ってぇ乾物問屋を御存じで・・?」


笑作   「知らねぇな・・」


瓦版屋  「去年の春先に、先代の跡目を継いで、
     若旦那夫婦が店をやりくりしてたんでやすが・・」


笑作   「うむ・・」


瓦版屋  「はじめの内は、夫婦仲睦まじく店の改革に精出してたんでやすが、
     今年に入って直ぐ、夫婦別れしちまいやした」


笑作   「ほう・・。夫婦喧嘩でもしたんかナ」


瓦版屋  「それも、言ったとか言わないとかが元で、
     亭主のやつが、嬶(かかあ)を追ん出したってわけで・・」


笑作   「ずいぶん乱暴な話だな」


瓦版屋  「まぁ、嬶(かかあ)の方も、かなりのじゃじゃ馬らしいんでやすがね・・」


笑作   「それにしても、この不景気な世の中だ・・。
     家を追ん出されたら、さぞかし難儀をしとることだろう」


瓦版屋  「それが・・、もともと目白あたりの町名主の娘でしたんで、
     今ア、実家に戻って、別れた亭主の悪口を吠えまくってるそうで・・」


笑作   「かなりのじやじや馬らしいな・・」


瓦版屋  「へぇ、町内では、『毒舌じゃじゃ馬』ってぇあだ名がついて・・」


笑作   「毒舌をはくのかい?」


瓦版屋  「へぇ、町内の井戸端会議じゃ、天下の誰彼かまわず、
     毒舌でぶった切りでやすから、その話しが面白れぇってんで、
     周りは連日、野次馬で黒山の人だかりでやした」


笑作   「うらやましい才能だ・・」


瓦版屋  「そこで、亭主が嬶(かかあ)の才能を見込んで、
     出入りの料亭で、ちょうど雇われ女将(おかみ)を探してたんで、
     そこへ嬶(かかあ)を口入れしやした・・」


作笑   「なるほど・・」


瓦版屋  「ところが、その料亭が『伏魔殿』だったわけで・・」


笑作   「なんだい、そりゃあ?」 (こいつぁ、面白い噺が出来上るかナ・・)


瓦版屋  「あんまりしゃべると、瓦版が売れなくなるんで・・」


笑作   「なにを心配してやんでぇ。ほんの世間話、立ち話じゃねぇかい」


瓦版屋  「伏魔殿ってのは、嬶(かかあ)が付けたあだ名で、
     本当は、『むねむね屋』と言いやす」


笑作   「それも、うさん臭い名前だな?」(ますます、面白くなってきやがった・・)


瓦版屋  「ところが、この料亭の使用人達の間では、
     永年にわたって、店の金をネコババするという伝統がありやした」


笑作   「使用人が料亭を食うのか・・?」


瓦版屋  「へえ、番頭から丁稚にいたるまで、私用で使った費用は、
     全部店に付けてやした」


笑作   「全部かい・・?」


瓦版屋  「へえ、丁稚が遣い先で買い食いした団子代から、
     手代が女中と不倫旅行したときの代金、
     番頭にいたっては、てめンちの米・味噌・醤油・酒代に
     がきの手習い代の付けなンて、朝飯まえで、
     先月は、店に内緒で競走馬を買っちまったてェくらいで・・」


笑作   「凄まじいもんだなア・・」


瓦版屋  「へえ・・で、新女将は店の塵芥(ちりあくた)を大掃除するってンで、
     使用人達とすったもんだのくり返しで、客など、そっちのけでやした」


笑作   「それじゃあ、商売あがったりだろう」


瓦版屋  「へえ、・・で、あるとき、料亭で公儀の接待が行われることになりやしたが、
     料亭主人(あるじ)の『むね衛門』が招待者の人選に横やりを入れたことが
     公儀の耳に入りやして、大問題となりやした」


笑作   「そりゃあ、問題になるなぁ・・」


瓦版屋  「公儀のお調べに対し新女将は、そうゆ〜話しは聞いたというし、
     むね衛門は、言ってないと言うし、水掛け論となりやした」


笑作   「なるほど・・」


瓦版屋  「小泉屋の亭主は、これ以上公儀とのゴタゴタに巻き込まれたくねぇって
     んで、嬶(かかあ)を新女将の座から降ろし、ついでに離縁しやした」


笑作   「へえ〜、ついでに離縁かい? それで一件落着したのかな?」


瓦版屋  「ところが、その話を聞いた井戸端会議の野次馬連中が、
     収まりがつかなくなりやして、あんな面白れぇ嬶(かかあ)を追ん出すたぁ、
     とんでもねぇ亭主だ・・てンで、小泉屋の売り上げは、一気に落ちやして、
     店ン中ア、閑古鳥がうるさいくらい鳴いてやす・・・・」


笑作   「ほう、閑古鳥がうるさい・のか・・」


瓦版屋  「それに、・・亭主ってのが、ちょいと変わってやして・・」


笑作   「ほう、変わってる・・?」


瓦版屋  「へえ、使用人に用事を言い付けるときア、紙に用件を書いて、
     そいつを、グシャッと丸めて、往来へ向かって放り投げやす」


笑作   「往来へ・・?」


瓦版屋  「へえ、世間では『丸投げ』と呼んで、そこを避けて通りやす」


笑作   「なるほど、変わってるなあ。
     ・・・で『むね衛門』の方は、どうしたイ・・?」


瓦版屋  「これが、トンポンチンを伏魔殿に送り込んでたとか、
     日本橋の上に勝手に『むねむね小屋』を建ててたとか、
     ボンゴの外交官をてめエの店の門番にしてたとか、
     汚職だ賄賂だ脅しだ泣き落としだなんだかんだと、
     次から次へ呆れるくれぇ、うさん臭え話がいろいろ出て来やして、
     町奉行所もどこから手え付けていいンだか、
     さっぱり見当もつかねえ始末で・・」


笑作   「それで、しょっぴかれたンかィ・・?」


瓦版屋  「いけねぇ、油売ってる場合じゃねえや。
     瓦版を刷る刻になっちまったィ。じゃあ、ご免なすって・・」


笑作   「なに、まだゆっくりして行きねぇ」
     (・・・あとちょっとで・・・仕上がる)



           お後がよろしいようで・・