今日は、iPS細胞でノーベル医学・生理学賞を受賞された山中教授のことを書いてみたいと思います。と言っても、山中教授の研究業績のことはほとんど分かりません。たまたまひょんなことから、今日YouTubeで受賞記念講演をまるごと見てしまいました。
講演は日本時間の8日にストックホルムで行われました。共同受賞したイギリスケンブリッジ大学のガードン名誉教授に続いて登壇した山中教授は、とてもゆったりした分かりやすい英語で、およそ1時間、500人以上の聴衆の前でトークしました。
ノーベル賞の科学部門の記念講演というと、受賞した科学者が自分の専門領域の、その中でも専門的で難解な研究業績について喋ることが多く、一般人にはなかなか理解しにくいものです。ましてや専門用語をたっぷりと織り交ぜた話となると、最後まで聴き通す忍耐力は持てません。
ところが、何気なく聴き始めた山中教授の講演は、ときにユーモアを交えて、自分の若いころの研究環境、とくに仲間や恩師のこと、さらには家族のことなどを織り交ぜた素晴らしいトークでした。大学教授らしい、ありがちな研究解説ではなく、ある種のエンターテインメントの域にも達していると思いました。
山中教授は大学院生のころは大阪市立大学で血圧の研究をしていました。そして恩師である指導教官が考え出したある仮説を証明しようと、犬を使った実験をしました。外科医になりそこねた医学生でもできる簡単な実験でした(会場に笑い)。ところがその実験によって、仮説とはまったく相容れない結果が出てしまいます。普通なら自分の仮説を、たまたまとは言え、教え子に否定されてしまえば愉快ではありません。ところがその恩師も実験結果に興奮します。そして山中青年をこれまで以上にエンカレッジしたのです。「予期せぬ結果こそが大切」だという山中教授の研究者としての原点がそこにあったのです。
2人目の尊敬する恩師は、アメリカで研究生活を送っていたときの指導者でした。そこは心臓病の研究を行っているグラッドストーン研究所でした。マウスを使った実験をしていたとき、実験助手の女性が「マウスが妊娠してしまいました」と言うのです。それもメスではなく、オスのマウスでした。ここで会場は笑いの渦です。それはある遺伝子をマウスに注入した結果なのですが、マウスに肝臓がんを発生させてしまったのです。まったく予期せぬ結果でした。
その研究所の指導教官は、研究目的とは何の関係もない実験結果を出した山中青年に対して、さらに肝臓がんの研究を進めるように指導しました。在籍していたのは心臓病の研究所であるにもかかわらずです。もう会場は大爆笑です。よほどアメリカの研究環境はよかったようで、やむを得ない事情によって日本に帰ってきた山中青年は、しばらく憂鬱な日々を過ごします。それを教授は「PAD」すなわち「Post America Depression」と命名します。そこでまた会場は笑いの渦です。良質なユーモアが随所にあふれているのです。
細かな内容はもう書きません。講演の前半は、若いころに出会った2人の恩師の話を、ユーモアたっぷりに語りながら、聴衆の心をグイッと掴みました。実は彼が一番言いたかったのは、「予期せぬ結果(失敗)」こそが新しい発見を導いてくれる」という、山中教授の体験に基づく信念だったと思います。まるで漫談のように語りかける話術の素晴らしさと、表現の分かりやすさに驚きました。ノーベル賞の記念講演で、これだけ面白く英語で語れる能力はすごいものだと思いました。もちろん肝心のiPS細胞の解説もあるにはありましたが、どちらかというと、自分の研究チームで一緒に研究した若い人たちの実名を出して、ほめたたえる内容でした。
最後は家族のお話でした。奥さんだけでなく、自分の父親のことや、やはり医者であった奥さんの父親のこと、そして講演会場には来なかった81歳の母親のことも話に出ました。なぜ母親は今日ここに来なかったのか。「あんたの英語は下手くそだから、聴いても分からないだろうから行きません。」・・・・会場が笑いに包まれたことは言うまでもありません。
iPS細胞のことは、この講演を聴いてもよくわかりませんでした。とにかく、山中教授は「とても面白い普通の人」だということがわかりました。「家族と仲間を大切にする真っ直ぐな人」だということも。そして並はずれて国際的に通用する表現力をもった日本人だということが改めて良くわかりました。すごい人ですね。
Nobel Lectures in Physiology or Medicine
www.youtube.com/watch%3Fv=FMVEZaJLNOg
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「米国では科学者は子供や若者の憧れの職業であるのに、日本ではそうではない。」とやや残念がっていました。
米国には合理主義の元となる科学を大切にする風土があるのか、あるいは科学に夢中になっている子供を変人とみなさず、個性ある者とし大切にする風土があるのかもしれません。
きっと山中教授は良き青春時代を米国で送ったのでしょうね。
数学や科学などの理系に弱かった私ですが、「博士の愛した数式」などを読むと数学とはなんとロマンチックで不思議なんだろうと思わずにいられません。きっと科学や化学にも元素記号や数式だけでない不思議な魅力がたくさんあるのでしょう。そんな魅力に取りつかれ、明日の科学者を目指す子供がもっとでてくると良いですね。
ノーベル賞に関して言えば、物理学、化学、そして医学と、日本人ですごい業績を残している人がたくさんいますね。もちろん欧米には遠く及びませんが、アジアでは唯一日本だけと言っていいですね。
研究レベルも人柄も、ピンからキリまであるのが研究者の世界ですが、仰るように、科学者をめざす子供がたくさん出てくるといいですね。
すごく面白いです(笑)
山中教授は資金集めのためにマラソンに出たりされてるんですよね。(政府がもっと補助してあげたらいいのに)お人柄も良くて、講演会では「助手が有能で」としきりに話されてたそうです。
性格良くてノーベル賞受賞者。最強ですね。
こんな日本人がでてきてくれて誇りに思えます。
島津製作所(当時)の田中さんのように、本人も周囲もまったく予想していなかった意外な受賞もありましたが、山中教授の場合は、本人は別として、世界中の専門家の間では、時間の問題と思われていたようですね。思い切った早い段階での授賞によって、iPS細胞技術の臨床応用が一気に進むことを期待したいです。その面で日本が世界に貢献できれば、さらに素晴らしいと思います。
青文字は割と最近変えたんですよ。ブログ上の噂話によると、クリックをお願いする文は工夫すべしということでしたので。最初の発信源は海外暮らしさんだと思いますが、私も素直ですから、みなさんの噂に付き合ってみました(笑)。