*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽
「第1章 避難計画の罠」(「プロローグ」含む)を複数回に分け紹介します。11回目の紹介
( Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。
作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。
( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。
過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から
救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」
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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介
前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※10回目の紹介
垂れた頭の上から、官房長官がさらに言葉を投げかけた。
「原子力規制庁さんにはね、あとは人とスペースの協力をお願いします」
内閣府に出向で人を出すとか、六本木ファーストビルの原子力規制庁のスペースを使わせるとか、さしずめ、そういう事務的なことであろう。
原子力規制庁はただでも人員不足だとか、スペース的にも余裕がないとか、いろいろいいたいことはあるが、これ以上そうした事務的な事項を官房長官に談判するべきではない。この程度で済むのであれば、御の字である。
こういう予想外の有利な顛末となったのであるから、風向きが変わらないうちに、一刻も早く官邸から退散したほうがいい。
「ハッ、ハァー」
井桁は再度、頭を垂れる。
「わかりました、ありがとうございますー。人とスペースの件、承知いたしましたっ」
こういって井桁は、足早に官房長官執務室から立ち去った。
どうしてこういう仕切りになったのか、井桁自身、まだ釈然としていなかった。しかし政治との関係では、時折こういうことも起きるものだ。所詮、役人の井桁には、政治家の判断材料や行動様式は、完全にはわからないのだ。
官房長官執務室の扉が閉まるのを確認して、官房長官は、事務の官房副長官に電話を入れた。
「ああ、いま規制庁長官、帰ったから。井桁長官、承知しました、といってたよ」
受話器の向こう側で、何か早口で事務的にまくしたてる、事務の官房副長官の声がしていた。
「そうそう、承知しました、ってたから。だから、内閣府の担当室員には規制庁の幹部を併任させて。場所も規制庁で・・・規制庁に内閣府の看板だけ貸してやるってことで。まぁ、名前だけだからね。」
と、サバサバしとした満足げな表情で答える。
役人の行動原理と人事の要諦を知り尽くした男の貫禄勝ちであった。
(4)
ー六本木ファーストビル・原子力規制庁。
霞が関から歩いていくには少し距離がある仙石山の小高い丘の上に、六本木ファーストビルは聳えている。もともと江戸時代には仙石讃岐守の屋敷があり、戦前には永井荷風が居を構えたところでもある。
この霞が関からの距離の遠さ、そして、官庁には似つかわしくない近代的なビルの風貌が、原子力規制庁の「霞が関クラブ」での位置付けを示しているといってもいいだろう。フクシマの原発事故という想定外の出来事が生み出した、時代の仇花であった。
その六本木ファーストビルの4階の原子力規制庁長官室に、総務課長が飛び込んできた。その後ろには、総務課長補佐の西岡進が続いている。
「長官、内閣官房から、とんでもない話がっ!」
※続き「第1章 避難計画の罠」(「プロローグ」含む)は、3/2(月)22:00に投稿予定です。
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