ファンタスティック・プラスチック・マシーン「Why not?」のフィーチャリング・ヴォーカリストとして脚光を浴び、m-floとのコラボをはじめ、さまざまな客演をこなしてきた彼がソロで魅せるのは、音楽への愛と感謝だ。
Ryoheiといえば、なんといってもハスキーなスウィート・ヴォイス。声量がある訳ではないが、ただ甘いだけではないソウルフルなヴォーカルには透明感とブラックネスが同居する、日本では稀有な存在感のあるヴォーカリストだ。
また、フットワークの軽さも彼の良さ。単に身のこなしが軽いというだけでは軽薄な感が否めないが、アメリカで本場モータウン・サウンドを学んだ経験を活かしたソウルネスがしっかりと根底に築かれていて、揺らぐことがない。
そして、リスナーを虜にする、ハートに沁み込んでくるヴォーカル。ダニエル・パウターやジェイムス・モリソンといった佇まいも感じられる、特に女性の心を打つであろうちょっぴり物憂げでありながらピースフルなヴォーカルは、“沁み込む”という言葉にふさわしい、浸透力が感じられる。それが最大の武器だ。
R&Bシーンや近年のアルバム製作においては当然となってきたイントロとアウトロを本作でも組み込んできた。凝り固まった作りではないが、リラックスして心のたがを緩めて聴いて欲しいという思いが込められたようなトラックで、Ryoheiワールドへエスコートする風。アウトロも「楽しめましたか?」と訊かれているような、彼の心遣いが感じられる。
このアルバム最大のトピックはやはりm-floとのコラボで、ドラマ『神はサイコロを振らない』主題歌となった「onelove feat. VERBAL(m-flo)」とLISAをフィーチャーした「ReListen feat. LISA」。
特にLISAをフィーチャーした「ReListen feat. LISA」は「もう一回聴いてみようよ」といった意のアルバム・タイトル曲だが、そのタイトルの“R”と“L”が大文字になっていることからも(RyoheiとLisa)、RyoheiのLISAへの愛情が感じられる。
m-flo時代や1stソロシングル「move on」での優しく包み込むLISAのヴォーカルが引き出されていて、それに呼応するようにRyoheiは活き活きとしたヴォーカル・ワークで魅せている。ブリッジでのスロー・バラード風の絡みを経てストリングスに促されるように駆け出していく終盤への展開が微笑ましく、ラストもm-flo楽曲を意識したキュートな作りだ。
一方、VERBALとの「One Love」はピースフルなメッセージを掲げたコンシャスなナンバー。ゆったりとした光が差し込んでくるような聡明さがある。GTSによる曲だからか、ハウス・トラックとしてリミックスしたら面白いと思わせる曲で、その時はVERBALのラップ・パートはm-flo「ASTROSEXY」風になるのではとも感じる。
宮川弾作曲による「あなたの手」は2ステップ風ビートに乗るライト・ポップで、FPM「Why not?」のような佇まい。(ミキシングにはFPMのエンジニアでもある熊原正幸が参加しているからか)マイナー調なのに抜けていくような煌めきを感じる、高品質なナンバーだ。“あなたの手~”というサビ終わりがなんともいえず、まろやかでドキドキとする刺激を与えてくれる。
中盤は、安定感のある楽曲がズラリ。
「World」は4つ打ちブレークビーツ風で、強く語りかけるヴォーカルに、彼の心の底からの願いを感じる応援ソング。
「Like This」は、サーフ・ギター・サウンドに乗せたミッド。砂浜から海へ走り飛び込んでいくようなワクワク感とリラックス感で、心を解放して夏を楽しもうという風だ。陰ながら、しっかりとビートがうねっているので、上っ面にならず、安定感をもたらせている。
「Upside Down」は、初期のクレイグ・デヴィッドのような2ステップ・チューン。“リズムに任せて”と詞にもあるように、余計な力が抜けた、アドリブ風なフロウが走っていく。精密な手を施してあるサウンド・プロダクションでありながら、あくまでもRyoheiのイメージともいえる爽やかさを何気なく醸し出しているところがニクイ。「miss you」でのお気に入りフレーズ“少しだけBABY”をちゃっかり詞に加えているところもお茶目な、自然体の一曲だ。
「you said...」は沈んだ気持ちから抜け出し前を向いて進んでいくんだという意志を歌ったスロー・バラード。物悲しいダークな雰囲気の導入だが、サビでのファルセットには、光明を見出し虚しさから這い上がろうとするポジティヴな力が感じられる。金原千恵子ストリングスによる美しい旋律が、明日への勇気を与えてくれるようだ。
終盤にさしかかって、ギター・ロックのテイストを加えた楽曲が続く。
「Just Want」は4つ打ちサウンドではあるが、アクセントとなってるギターが曲調をコントロールしている。U2「I still haven't found What I'm looking for」あたりを思わせるアレンジで、陽光の力を授かった自身が思いをかなえるために旅立とうとする意志を優しく描写する、マインド・コンシャスな曲だ。
同じように陽光を感じさせるのが、次のタイトル通りの「the LIGHT」だ。“LIGHT”が大文字になっているのが意図したところかどうかは不明だが、こちらは前曲「Just Want」より強くたくましく輝く光を感じるナンバー。ギター・ロックmeetsテクノポップといった風の颯爽としたサウンドが肝。
本編終盤は「In My Arms」と「Gift」。
「In My Arms」はイントロが一瞬、マイケル・ジャクソン「ビリー・ジーン」かと思わせる。だが、そこからファンキーなベース・ラインへと落とし込み、滑らかなグルーヴを創り出すところに、彼の音楽的資質の高さを感じる。彼の音楽的嗜好がギュッとつまったナンバーだ。
「Gift」は、こちらもマイケル・ジャクソン「ヒール・ザ・ワールド」あたりを彷彿とさせるスロー・バラード。ハートウォームなヴォーカルと漂うようなエレピ、それだけで充分キラー・チューンなのだが、そこに地響きのようなベースを組み込んでいる。
端麗なメロウネスと相容れないようにも聴こえるかもしれないが、聴けば聴くほど母なる大地や母の胎内そのものの響きを表現しているかのよう。綺麗事だけではなく、表も裏もあるのがこの世界。そのなかで純粋なものを届けたい……そんな気持ちも読み取れる入魂作だ。
「Outro」で本編を終えた後には、アコースティック調のボーナス・トラックが3曲。印象的だったのは、1、2曲目。
「After The Love Has Gone」はアース、ウインド&ファイアで知られる名バラード。持ち前のハイトーン・ヴォイスやファルセットを多用したナチュラルな歌唱をアコギにたゆたうように披露した至福のララバイ(子守唄)だ。
その次は、ダンス・クラシックス曲としても定番なシャラマー「A Night To Remember」のアコースティック・カヴァーときた。軽妙なカッティング・ギターに乗って、Ryoheiのアドリブも楽しげ。アウトロはラップ風のアドリブで笑みとともにカット・アウトするというリラックスした心境がうかがえる。ただ、個人的にはこの曲は、艶やかで派手やかなホーン・セクションなどのバック・サウンドが濃く映えるなかでこそ活きる曲だと思う。それをアコースティックで演じるというのが、いかにもRyoheiらしいのだが。分厚いホーンを前に、通りにくい声質のRyoheiがどう立ち回るのか、という心配もあるかもしれないが、彼の声質は音に潰されるほどやわではない。かえってそのような多少異質なサウンドの前の方が、存在感を発揮するかもしれない。
ラストは、原田知世の「Sincere」でしっとりと締めくくる。“sincere”とは誠実なという意味がある言葉だが、それから派生した“sincerely”は、英文手紙の最後にしるす“sincerely (yours)”(心から、心を込めて)と原義は同じ。大切な人に感謝の気持ちを込めて最後にしたためる一筆のような、彼の感謝の念が歌声からも伝わってくる。
全体を通して聴くと、さまざまな楽曲にも腰を据え、振幅もあるといった器用なところがうかがえる。声質のイメージからややもすると弱々しく受け取られる風もあるが、声の色彩をコーティングしている外面的な部分はともかく、内実はソウルがしっかりと宿った芯の強いヴォーカルだ。対応力も素晴らしいものがあり、そこがポップスやハウスなどさまざまなジャンルの楽曲で重宝されるゆえんだろう。
その一方でバランス感覚が良すぎるために、思った以上にインパクトを与えることが出来ないという器用貧乏な面があることも確かだ。使い勝手がいいということは、逆な意味で言うと、曲調があくまでも主というイメージも持たれかねない。そういった意味でも、今後はより思い切った歌唱を望みたい。もちろん、ロックなどのヘヴィなサウンドや声質からイメージされない多彩なジャンルの楽曲にチャレンジすることもいい。だが、大切なのはRyohei自身が自らの殻をさらに破るような思い切った歌唱をすることだ。楽曲の質はかなりハイレヴェルだし、完成度も高い。ただ、個性を最大限に出し切っているかというと、そこにはやや疑問符がつく。泥臭いまでに拘ったり執着心を露にしたスタイルもあっていいし、そのソフィスティケートなヴォーカルをさらに高密度にしてもいい。クセをもっと全面に出せば、きっと唯一無比なソロ・ヴォーカリストへの高みへと突き抜けていくに違いない。
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