久保田利伸初となる野外公演ツアー“Toshinobu Kubota Special Tour with Acoustic Band ★in the Universe★”の追加公演2日目。当初は関東近郊で眼鏡にかなう野外ステージは河口湖のみだったが、ファンなどから東京での公演はないのかという多くの問い合わせを受けて、急遽野外ではないが追加公演を発表。東京国際フォーラムの2日間がその追加公演となった。そのツアー・ファイナル……となる予定だったが、沖縄公演が台風の影響で順延したことで、このステージは日程的にはラスト一つ前となった。だが、追加公演という位置づけもあり、元来、野外でのメロウな楽曲を聴かせるコンセプトのツアーという主旨では、スペシャルな公演となったことは間違いない。
また、次の沖縄公演のために舞台セットをフェリーで運搬しなければならず、ステージはテントを模した(本人談)という布が8枚のみという簡易的なものに。舞台スタッフは、“久保田の歌とバンド・メンバーのみのシンプルなスタイルだけで充分ではないか”と言ったそうだが、久保田が“何かほしい”と言ったところ、このような形になったということだ。
個人的には、昨年1月に代々木第一体育館で開催された〈25th Anniversary TOSHINOBU KUBOTA“Party ain't A Party!”>(その時の記事はこちら:「久保田利伸@代々木第一」)以来。前回は25周年の集大成となるライヴだったが、今回は2013年7月にリリースしたボサ・ノヴァ・アルバム『Parallel World II KUBOSSA』のリリースもあり、アコースティック編成でのライヴとなった。
アコースティック編成といっても、通常の久保田利伸のライヴに引けをとらないメンバーが揃った。盟友・柿崎洋一郎はもちろん、オオニシユウスケ、YURI、オリヴィアらいつものメンツに、パーカッション使いの時には活躍してきた中島オバヲ。レーベルメイトの森大輔、さらには阿部美緒を第一ヴァイオリンとしたストリングスも。ゆったりと、温かく、優しく、メロウな空間というコンセプトだったが、ただシンプルにやるのではない、しっかりとした音楽の信念に基づいたバンド・セットで出迎えてくれた。
アントニオ・カルロス・ジョビンのカヴァー「Corcovado」をはじめとした『KUBOSSA』からの楽曲で占められるのかと思ったが、実際には良い意味で裏切られた。これまでのライヴで披露したシンプルなアレンジとは異なる爽やかなグルーヴの井上陽水カヴァー「海へ来なさい」や、中島オバヲのプリミティヴなパーカッションが鳴り響く、アフリカン・ビートの「MAMA UDONGO~まぶたの中に~」。新しいシンガーを発見した時のエピソードを交えてからのYURIのソロ「コーリング・ユー」や、アドリブでコーラスとして加わる形での森大輔をメイン・ヴォーカルにした森の楽曲「Go your way, go my way」などのメンバーの歌唱も加えながら、まったく退屈させない構成でステージを静かに、されど、充実した時を作っていく。
さらに久保田らしかったのは、「今日はいつもと違ってずっと座ってきたから、肩とか腰とか疲れてきたでしょう。だから…今からラジオ体操します! というのは嘘ですが、ちょっとみんな立って身体を動かしましょう」のフリから、オリヴィアにミニー・リパートンの名曲「ラヴィン・ユー」へ。サビのパートで観客にストレッチをさせる振り付けで歌って観客の身体をリフレッシュさせると、次の曲入りで突然メンバーがファンキーなグルーヴを鳴らし始める。「違うでしょ、今日はメロウな音楽をやる日でしょ。こんな音を鳴らしてると、身体が勝手に動き出しちゃうじゃないか…」といっている間にミラーボールが輝き出し、“ポンポン、ポロンポンポ~ン”のフレーズがクセになる本人出演のCMソング「Bring me up!」へ。それまでのシャレた昼下がりのような雰囲気とは一変し、一気に会場をファンキーな彩りへと変えていく。それは、朝から夜までの間や季節がそれぞれ異なる表情を持つように、サウンドが自然に感情を変化させる“フリースタイルのグルーヴ”とでもいえる時空の経過だった。これには観客もここまで抑えていた感情が吹っ切れたかのように身体をうねらせ手を挙げ、このグルーヴに酔いしれていた。
「Indigo Waltz」「Missing」という名バラード2曲で本編を終えてのアンコール。やはり、先ほどの「Bring me up!」のグルーヴの心地よさが忘れられないのか、スティーヴィー・ワンダーの「アナザー・スター」のフレーズを加えた「You were mine」からスタート(「You were mine」自体が元々「Another Star」をモチーフに作られた曲なので、その整合性はバッチリ)して、ラストは幕開けの曲「やつらの足音のバラード」を再び。屋根はあるけれども、満天の星空を音と歌声で演出。シャレたメロウな時間と情熱的なホットな時間の双方を組み込んで、観客を完全に“ロック”したステージとなった。
この野外でのアコースティック編成でのライヴ。アルバム『KUBOSSA』も含めて、当初は疑心暗鬼なところもあったと思う(1991年9月リリースの“PARALLEL WORLD”シリーズ第1弾『KUBOJAH』が前作より売り上げが落ちたという過去も含め)。だが、良い音楽であれば、きっと伝わると考えていたことも事実だろう。アルバム『KUBOSSA』の反響を持って、きっと成功するという自信にも繋がったのではないか。
観客への挨拶を終え、ステージアウトする直前に久保田利伸が放った。「僕は、この音楽と、このメンバーと、ここにいるビューティフル・ピープル(=観客)を世界に知らせたい。日本にはこんなに素晴らしい観客がいるんだと。観客のみなさんごと(ツアーに)連れて回りたいくらいだ」……この言葉が、このライヴの充実感の全てを凝縮していたのではないだろうか。
日本のブラック・ミュージック・シーンのパイオニアとも言われる彼だが、さらなる高みへとまた階段を上がった……そんな気さえする圧巻のステージだった。
◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION(Including Phrase of“北風と太陽”)
01 やつらの足音のバラード(Original by Hiroshi Kamayatsu)
02 Love Reborn
03 My Cherie Amour(Original by Stevie Wonder)(*)
04 君は なにを 見てる(“OH Honey”)
05 海へ来なさい(Original by Yousui Inoue)
06 LA・LA・LA LOVE SONG(Acoustic ver.)
07 Calling You(YURI SOLO)(Original by Jevetta Steele)
08 MAMA UDONGO~まぶたの中に~
09 Corcovado (Quiet Nights of Quiet Stars)(*)
10 As You're in Rio ~The Play~ (*)
11 Smile・Eyes・Cry (*)
12 Go your way, go my way(Daisuke Mori Main Vocal)(Original by Daisuke Mori)
13 Lovin' you(Olivia SOLO)(Original by Minnie Riperton)
14 Bring me up!
15 Indigo Waltz
16 Missing
≪ENCORE≫
17 You were mine(Including Phrase of“Another Star”by Stevie Wonder)
18 やつらの足音のバラード
(*):Song from Album『KUBOSSA』
<MEMBER>
柿崎洋一郎(key)
森大輔(key/back vo)
中島オバヲ(perc)
Armin T.Linzbichler(ds)
森多聞(b)
オオニシ ユウスケ(g)
YURI(back vo)
Olivia Burrell(back vo)
阿部美緒(1st vn)
保科由貴(vn)
大沼深雪(vc)
梶谷裕子(vla)
◇◇◇
雨音(Kubossa Ver.)
オリジナルの「雨音」は“Parallel World”第1弾『KUBOJAH』に収録されてます。
You Were Mine
3:45あたりから「アナザー・スター」のフレーズが入ります。
久保田も「This is like Stevie, Stevie」みたいなこと言ってます。
Bring me up !
本当に“ポンポン ポロンポンポ~ン”がクセになる。
あと、PVはフリーメーソンとは関係ないと思います。(笑)