5連続完封中のFC東京と今季7連続完封記録を打ち立てた首位・浦和との試合。失点数リーグ2位(15)の東京と失点数最少(14)の浦和との対決は、大方の予想に反して、ジリジリとした1点を獲るゲームではなく、互いにゴールを奪い合う乱打戦となった。
ただ、この試合の展開への伏線として主審・副審のレフェリングが大きな要素になってしまったのは否めない。3本のPK、ファウル、オフサイド……とあらゆる場面で冷静に対処することが出来なかったため、良く言えば点数が入る面白い試合、悪く言えばシステマティックな部分や質という部分でだいぶ大味なものとなった。ただ、ノーガードの打ち合いといった感はなく、失点数が少ないチーム同士の激しいぶつかり合いは散見された。質が高い試合が出来る可能性が高かったマッチングだっただけに、レフェリングの基準が揺らぎ、試合をコントロール出来なかったことが、試合のクオリティを低下させてしまったともいえる。
各々のジャッジについての私見は後述するとして、まず言えるのは、結果としてFC東京はやはり味スタで浦和に勝ち切れなかったということ。ただし、これは全てがマイナス評価ということではなく、確実に成長を遂げた姿を見せながらも勝ち越せなかった、高みをめざし好調を継続していた東京に大きな課題を突き付けられたという意味での結果、評価であるということだ。
失点場面についていえば、序盤の梅崎のゴールは素晴らしいが、よく見るとGKの権田が逆をとられている。梅崎と味方DF陣の動きにつられてしまったのか、それほど隅ではないコースで決められている。
興梠のPK。あの時間帯で出来れば3対1で前半を折り返したかったところでPKを与えてしまった。平川のゴールに関しては、その直前に槇野がハンドしているが、一瞬セルフ・ジャッジで止まってしまった感も。ゴール前でバタバタした時こそセーフティファーストを徹底する冷静さが必要だった。李のPKも同様。冷静な判断を瞬時に出来るかどうかにかかっている。
東京は前半はこれまでと同様に前から素早いプレッシャーを掛けていったが、ミッドウィークの天皇杯にもほとんどの選手が出場していたため、後半は明らかに疲労の色が濃かった。浦和は両サイドともライン付近に陣取り、時折逆サイドへ大きな展開をしながら横の揺さぶりをかけ、東京が食いついたところに中央へ速いパスを入れるという攻撃で東京の運動量を減少させることに成功した。徳永や太田の背後も使われ、守備の負担がいつもよりも多かったことも一つあるだろう。その意味では、前線の河野も守備の負担が大きく、後半は相手との距離を詰め切れない場面も。羽生や米本はいつも通りボールホルダーに多く迫り効果を発揮したが、若干そこに頼り過ぎたきらいもあり、その時にボールロストしてピンチを迎える場面もあった。
また、前半後半ともに試合の入りとなる最初の5~10分は、浦和が支配していた。その原因が何であるのかを東京は熟考しなければならないだろう。失点もその時間帯やその流れからだ。
一方で収穫もあった。先制されたのはいただけないが、その直後に同点に出来たこと。結果として残せたこともあるが、精神的に、気持ちの面で、闘争心をなくさずに反撃出来たことが大きい。高橋のヘディングは次も同じように決められるはどうかは難しいような、浦和GKの西川にとってもノーチャンスなゴールだったが、早い段階でゴールを奪いに行くという必死さが、あのゴールへの絶妙な弧を描かせたのだと思う。
そして、忘れてならないのが武藤のパフォーマンス。2得点という結果もそうだが、この試合では以前見せたゴール前での逡巡もなく西川から貴重な得点をしたことは、今後の大きな自信となるだろう。となると、河野の1対1の場面は決めておきたかった。あの場面で決められていたら、2点差が3点差になっていたはず。Jリーグでは2点差は危険な点差となぜだか言われるが、それから脱し、精神的に浦和に多大なダメージを与えられる機会だっただけに、もったいなかった。それが決められるようになれば、河野も本格的なスタメン定着も時間の問題であるはずだ。
首位とのホーム決戦で勝ち点3は奪えなかったが、逆転されることなくドローに持ち込めたのは進歩の一つ。以前はなし崩しに失点を繰り返し大敗することもあったが、踏みとどまる力をつけたということは評価していい。ただし、それは好調時の勢いもあってのことで終わらせてしまわないよう、強い精神力、闘争心を持ち続ける意識が大切だ。
とはいえ、首位・浦和との勝ち点は詰まらず。浦和から4位の川崎までの勝ち点は、浦和41、鳥栖40、鹿島39、川崎39で、それに続く東京は33とやや離されているまま。そのなかで鹿島、神戸、川崎と対戦が続くことになる。次節鹿島戦は東京にとって鬼門の鹿島アウェイだが、残り試合数を考えると、優勝戦線に踏みとどまるにはアウェイであっても勝ち点3が是が非でも欲しいところ。しかも、鹿島は次節は小笠原、遠藤、植田が累積警告による出場停止となる見込みだ。その3人が欠場するからといって鹿島というチームが弱体する訳ではないが、攻守の質や連係など、攻め手が増える可能性が高まるのは事実。今回の引き分けをさらに価値あるものにするためにも、勝ち点3は必須となってくる。
途中交代した平山や、まだ完全ではない武藤、エドゥー、森重らの怪我も心配だが、次節のメンバーたちが足りないところを補い合ってチーム力を高めていきたい。それには、メンバーへ入るための高い意欲を持ってこの1週間を過ごすことが重要だ。
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≪J1 第21節≫
【日時】2014/08/23 18:34
【会場】味の素スタジアム
【観衆】32,759人
【天候】晴、弱風
【気温】27.0度
【湿度】69%
【審判】(主審)岡部拓人(副審)数原武志、宮部範久
【結果】
FC東京 4(3-1、1-2)4 浦和
【得点】
(東):高橋(9分)、武藤(15分)、河野(23分、PK)、武藤(64分)
(浦):梅崎(6分)、興梠(43分、PK)、平川(60分)、李(80分、PK)
【FC東京メンバー】
GK 20 権田修一
DF 02 徳永悠平
DF 03 森重真人
DF 29 吉本一謙
DF 06 太田宏介
MF 04 高橋秀人
MF 07 米本拓司
MF 22 羽生直剛
FW 17 河野広貴 → MF 08 三田啓貴(87分)
FW 13 平山相太 → FW 11 エドゥー(34分)
FW 14 武藤嘉紀 → FW 09 渡邉千真(81分)
GK 01 塩田仁史
DF 30 カニーニ
DF 50 松田陸
MF 18 石川直宏
監督 マッシモ・フィッカデンティ
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≪FC東京 2014 J1日程≫
01 03月01日 △FC東京 1-1 柏(A)
02 03月08日 △FC東京 1-1 甲府(H)
03 03月15日 ×FC東京 1-2 神戸(A)
04 03月23日 ×FC東京 0-4 川崎(H)
05 03月29日 ○FC東京 3-1 清水(A)
06 04月06日 ○FC東京 2-1 鳥栖(H)
07 04月12日 ×FC東京 0-1 広島(A)
08 04月19日 ○FC東京 2-0 C大阪(H)
09 04月26日 ○FC東京 1-0 横浜FM(A)
10 04月29日 ×FC東京 0-1 名古屋(H)
11 05月03日 ×FC東京 0-1 浦和(A)
12 05月06日 ×FC東京 0-1 大宮(H)
13 05月10日 △FC東京 0-0 徳島(A)
14 05月17日 ○FC東京 3-0 G大阪(H)
15 07月19日 △FC東京 1-1 鹿島(H)
16 07月23日 ○FC東京 1-0 新潟(A)
17 07月27日 ○FC東京 3-0 仙台(H)
18 08月02日 ○FC東京 4-0 清水(H)
19 08月09日 △FC東京 0-0 C大阪(A)
20 08月16日 ○FC東京 2-0 鳥栖(A)
21 08月23日 △FC東京 4-4 浦和(H)
22 08月30日 FC東京×鹿島(A)
23 09月13日 FC東京×神戸(H)
24 09月20日 FC東京×川崎(A)
25 09月23日 FC東京×徳島(H)
26 09月27日 FC東京×柏(H)
27 10月05日 FC東京×仙台(A)
28 10月18日 FC東京×大宮(A)
29 10月22日 FC東京×広島(H)
30 10月26日 FC東京×G大阪(A)
31 11月02日 FC東京×名古屋(A)
32 11月22日 FC東京×新潟(H)
33 11月29日 FC東京×甲府(A)
34 12月06日 FC東京×横浜FM(H)
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さて、ジャッジの件。3本のPKについては、河野と興梠の時に下されたものはPKとしない主審が多いのではないかと思う。河野の時は、足の引っ掛かりは全くないが、森脇が河野の腕を引っ張っていたゆえ倒されたと判断されたところか。主審によってはシミュレーションとされるかもしれない。ただ、それまで(それ以降も)森脇は腕を引っ張る場面が散見されたので、その印象を主審に強く与えていたことが遠因だろう。
興梠の場面、森重のスライディングが興梠を倒したと見られてのもの。森重としてはボールへ向かってタックルはしているのだが、ボールに触れるか触れないか微妙なものだあったため、足で引っかけたと見られたのだろう。これも足の引っ掛かりはそれほどなく、興梠をシミュレーションにとる主審も多くはなくともいるのではないかといったところ。だが、主審が河野と森脇の場面をPKとしてしまったため、このプレイの類はPKにせざるを得ない基準になってしまったのだろう。
李の場面については、李の倒れ方ほど酷いプレイではなかった。ただし、それがペナルティエリア内であったということ。徳永はバウンドしたボールへ先に足を出そうとしてはいるのだが、李が身体ごとボールへ突っ込み、先にボールに触れたことで、僅かではあるが徳永の蹴りが後から李に入った形に。そうなると、PKはやむを得ないところだろうか。
また、PK以外でも、平山がシュート態勢に入った時に森脇が平山の足へチャージをしたのに平山がファウルを取られた場面とか、抜け出したエドゥーがオフサイドを取られたりなど、疑問や不満に思う場面はあった。しかしながら、そのプレイの時“だけ”を見て、ジャッジがどうこう論ずるのは不毛なこと。前者の平山については、その前に平山の肘が森脇の顔に当たった場面もあったし、後者では副審のオフサイド基準がまちまちな傾向は見られた。また、議論になっていない、注目されていない場面では互いにやり合う場面(セットプレイでのゴール前など)は、いくらでもある。その全体の判断も考えた上でそれぞれのプレイの細部を見ないと、やった、やられた、の水掛け論となってしまう。
いずれにおいても、河野のPKの時点で、今日の主審はこういうジャッジをするということを頭に入れてプレイしなければならない。PKとなった瞬間は攻撃側も守備側も熱くなるのは当然で、抗議もするだろう。それはいい。大切なのは、そういうレフェリングであるならば、どのように対処するのが有効なのかを冷静に考え、瞬時に判断出来ること。そしてそれをチーム全体で共有するように努めることだ。
その瞬間のプレイのみをフォーカスして熱くなってレフェリーを批判するだけに終わっても仕方ないとするのは、百歩譲ってアマチュアレヴェルまで。プロであるならば(望みたくはないが)、そのような判断が下されることもありうると想定して、逆にレフェリーを利用するくらいのクレヴァーさが欲しい。それが身に着いたならば、東京ももう一段上の大人のチーム、クラブになれるはずだ。
そうはいっても、選手、チーム、クラブはもちろん、サポーター・ファンにもモヤモヤが残るのは事実。たとえば、試合後に判断に対する基準や当該ジャッジを下した理由、マッチコミッショナーらの見解、改善への具体策(審判団の研修も含めて)などをJリーグが公表するようなことがあってもいいと思うのだが。
裁くのは人間である以上、ミスがあるのは致し方がないこと。それは誰もが解かっている。問題は、しばしばそれが許容される範囲内で収まらないことと、その経験が後の試合に生かしきれてないところだ。審判、選手、チーム、クラブ、ファン、サポーター、強いてはリーグまで、その点についてしっかりとした共通意識を持てるよう、各所で務めることが肝要だ。
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