*** june typhoon tokyo ***

Erykah Badu@ZEPP TOKYO

■ エリカ・バドゥ@ZEPP TOKYO

Erykah_badu


 まさに“バドゥイズム”な夜。

 先頃、5thアルバム『ニュー・アメリカ・パート・トゥー(リターン・オブ・ジ・アンク)』(『NEW AMERYKAH PART TWO(RETURN OF THE ANKH)』)をリリースし、1stシングル「ウィンドウ・シート」(Window Seat)の衝撃的なPVでも話題をさらっていたエリカ・バドゥの約5年ぶりとなる来日公演、“Erykah Badu Special Live in Japan '10”@ZEPP TOKYOを観賞。ZEPPだが、今回は椅子席を設置。前から10列目あたりでエリカを待つこととなった。

 バンド・セットは、左端手前にキーボード、その後ろの高台にはドラム。そこから右へ、ベース(アース・ウィンド&ファイヤというよりむしろスペクトラムみたいな古代戦士の甲冑を着用)、バックコーラス、ギター、ミキサー/DJと高台に並ぶ。前列中央には、バックコーラスがやや距離を置いて二人。バックコーラスは三人とも女性で、一人が後ろの高台に、残りは下の中央にと配置され、ちょうどトライアングルを作っているように並んでいた。その下のバックコーラスの二人の間(ちょうどステージのセンターあたり)には、テルミンが置いてある。中央手前には左にテーブル上にポットとカップ、そしてマックのラップトップ(ここからインタールード的に音楽を流していた)。右には電子ドラムとなるサンプラー。 

 開演時刻を7分過ぎたところで暗転。大きな歓声があがる。新作『ニュー・アメリカ・パート・トゥー』のオープナー「20フィート・トール」のイントロ・パートの幻想的な和音が延々とループされていく。約10分弱だろうか。その単調なループに、焦らしはおろか、まどろみさえ覚えそうになった頃、左端から黒のシルクハット、黒のコート姿のエリカ・バドゥが登場。表情を変えずに数秒前を見つめて立っただけだが、その瞬間、ほとんどのオーディエンスは彼女の世界へとどっぷりと浸かってしまっていた。そして、中央へと歩みを進めると、おもむろにポットからカップに水を注ぐ。「そんなに急かさないで。じっくりバドゥの世界を堪能させてあげるわ」とでも言うかのような焦らし方も堂に入っている。貫禄、という言葉では物足りないくらいの、神秘なる“バドゥ教”の世界へ導かれるかのような、呪術師にも似た存在感と迫力がそこにあった。「20フィート・トール」を歌い出しはじめると、オーディエンスは彼女の一挙手一投足を貪るように追う。派手な演出もセットも皆無だが、会場は既に緊密した空間へと変貌していた。

 とはいうものの、何か奇抜なことをしているという訳ではない。動きも手を広げたり(「アウト・マイ・マインド、ジャスト・イン・タイム」の“and break for you”でブレイクダンスのウェイヴ風の動きを見せるくらい)、指差したり、拍手をしたりする程度で、ほとんど中央でパフォーマンスをしていた。あくまでもフリーキーに、その時のムードを感じ取ってステージが構成されていく。楽曲も一曲しっかりとやり切るという訳ではなく、メドレー形式だったり、アレンジを大幅に変えてみたり、ラップトップやサンプラーによるインタールード的なパートを組み込んでみたりと、創意工夫がなされている。一曲をバラバラに聴かせるのではなく、1つのショウとしての位置づけを持って演奏されているのだ。曲間はほとんどがエリカの横のテーブルに置いてあるラップトップから音楽を流し、男性シンガーの楽曲をリップシンクで表現したり、DJ/ミキサーと電子ドラミングの掛け合いをしたり。また、ビートボックスではないがマウス・スクラッチを駆使してみたりと、音楽の持つ計り知れない力と創造性を提示しているかのようだった。

 1stアルバムからのヒット「オン・アンド・オン」が演奏される頃には、ゆるい楽曲だろうが息を呑むような静謐な空間のアウトロになろうが、オーディエンスはスタンディングのままで、エリカを注視している。
 中盤ではいっそうグルーヴが高まり、恍惚を味わえる空間に。衣装も黒のコートを脱いで、アフリカの民族衣装を思わせる配色のワンピース、左腕にはテープを巻きつけている。パンツ・スタイルの上からのワンピースなのだが、ワンピースの裾前をずりあげながら歌うものだから、街中で次々と衣服を脱ぎ捨てて最後は裸になっていくPVで物議を醸した「ウィンドウ・シート」の件もあるから、必要以上の緊張や興奮の拍動が体内を駆け巡る。そうなれば、その時点でパフォーマンスとしては“勝ち”である。ただし、してやられた感がないのは、音楽を持ってエンタテインメントするという確固たるテーマが伝わってくるからだろう。

 サンプラーでリズムを叩いて、チラッとヒントを出しておいてからマイケル・ジャクソンの「オフ・ザ・ウォール」をさらっと繰り出したかと思うと、ステップしながら「アイ・ウォント・ユー」へと展開。終盤の「ソルジャー」では“Yes, SIR-REE”のコール&レスポンス……。ネオソウル、ヒップホップ、ジャズ、R&B、ブルース、ロック……と多様な要素を、エリカ・バドゥというフィルターを通して体感させる。肌当たりは優しいが強烈な浸透力を持ったグルーヴがオーディエンスを虜にする。精神を委ねてしまうようなカリスマ性が、そこには存在していた。

 本編ラストは新作『ニュー・アメリカ・パート・トゥー』のクローザーでもある「アウト・マイ・マインド、ジャスト・イン・タイム」(この曲は数回、スキットのような形で披露されていた)。“~ for you”という詞が多く出てくる曲だが、東京のファンのために“you”に心を込めて歌ったりして、一旦ステージ・アウト。
 アンコール後は、「トライ・ワン」が終わるとオーディエンスから“まだ披露されていない”曲へのリクエストが飛ぶ。やはり一番多かったのは「ウィンドウ・シート」の掛け声だったが、これを見てエリカはテーブル上のラップトップを操作しながら“Keep Saying"(もっと言ってみて)と煽る。そしてラストに選ばれたのは「バッグ・レディ」。最後はプレゼントを受け取ったり、握手をしたり、サインをしたりと、よく言われるスピリチュアルな一面ばかりで終わらせず、普通の人間らしい内面をみせていた。人間の根底に流れる愛によって育まれ、交流することが、この世界の全てに必要なことなのだと言っているようでもあった。
 
 視覚的にもサウンドとしても爆発的で派手な衝撃はない。しかし、心や脳内の奥底にじわっと入り込んで漂うような官能的な刺激が、オーディエンスを、空間を支配していた。そのなかで、彼女は喜怒哀楽を演出としてではなく人間らしく曝け出した。その構成上、解かりやすさという点では気がかりになった人もいるだろう。だが、2時間という長くも短くも感じられる時が、濃密なグルーヴやエナジーで満たされていたことは確かだった。


◇◇◇

 
□ 当日のミニ感想。

・中盤でノリもよくなって右のスピーカーに背を持たれてセクシーな目線で挑発するパフォーマンスをしようとしたら、スピーカーが動いたのに慌てて、ビックリした表情を一瞬見せたエリカがキュートだった。
・ドラマーが15歳と言っていた(“フィフティーン”って聞こえた。顔からして“フィフティ=50”ではないことは解かるのだが、本当か)。
・エリカ信者らしい、アフリカ民族衣装的な色彩のファッションの客が多かった。
・9000円は決して安くはないけれど、今回のステージであれば、評価していいと思う。


セットリストは調整中ですが、歯抜け状態多くてアップするかどうか微妙です…。


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