*** june typhoon tokyo ***

〈生存戦略〉@高円寺HIGH 【HALLCA / 仮谷せいら / hy4_4yh】

 コロナ禍の閉塞感の払拭にトライした、三者三様の“生存戦略”。

 インディペンデント音楽・アーティストのディストリビューション、CD流通会社として知られるダイキサウンドが主宰するイヴェント〈生存戦略〉にHALLCAが出演するとあって、ミッドウィークの夜に高円寺駅近くにある高円寺HIGHへ駆けつけた。近日のコロナ禍の状況もあり、当初の出演ラインナップとは多少変化があったものの、最終的には仮谷せいらとHALLCAの“はるかりまあこ”の3分の2と、“ハイパヨ”の愛称で知られるガールズ・ラップ・デュオのhy4_4yh(ハイパーヨーヨ)の3組が、新年始めの景気づけとなるエモーショナルなステージを繰り広げてくれた。

◇◇◇



 先陣を切ったのは仮谷せいら。冒頭で予定と異なる曲の音源が出るミスもあったが、瞬時に切り替えて“Oh Yeah!”というフックが耳に残る「Odora Never Cry」からスタート。白のトップス&スニーカーとゴールドに黒のボトムラインが入ったプリーツのロングスカートという出で立ちでステージに登場し、小柄なのと笑顔を絶やさないでリズミカルに歌い踊る姿は、童顔なルックスもあって小動物的な可愛らしさが窺える。発する声も非常にキュートだ。

 とはいえ、歌唱が幼いとか拙いということはまったくなく、聴く度に思うのは、非常にリズムを捉えるのが巧みで、音楽的な敏捷性が高いということ。「Colorful World」のようなアッパーなポップ・ダンサーでは特に、全身をゴムのボールのように弾けさせる柔軟性と音の波に乗るバランス感覚に長けていることが分かる。MCでの幼稚園の先生のような雰囲気と甘い声色に騙されてはいけない(笑)。

 チアフルな発声で破顔して歌い踊る曲も楽しみを与えてくれるが、ラストに披露した「HOME」のような2010年代のクールなエレクトロで彩ったオルタナティヴR&Bやヒップホップソウル・マナーのトラックでも、重心を後ろに寄せながら推進力あるヴォーカルを披露してくれた。




 続いてステージに登場したのはHALLCA。お約束の出囃子「Diamond(Yohji Igarashi remix)」をイントロダクションに、歌唱6曲中「Paradise Gate」「Spiral」「Fall Back asleep」「Labyrinth」のアルバム『PARADISE GATE』(アルバム・レビュー→「HALLCA『PARADISE GATE』」))収録曲4曲を組み込んだ構成。両袖がシースルーの白のドレス風トップスにロングスカート、2輪のバックルベルトに白のチョーカーという「Labyrinth」のミュージック・ヴィデオの衣装で、シームレスなメドレーにアレンジして「WANNA DANCE!」まで一気に駆け抜けた。

 HALLCAとしての2022年の歌い始めゆえか、序盤は緊張しているような表情がところどころで窺えたが、ステージを広く使って歌っていくうちに、その堅さも解けていく。良質なR&Bからフィリー/ネオソウルへの転調が肝となる「Fall Back asleep」から、キーボードのソロパートも注目点の一つになりつつある弾き語り曲「Dreamer」を経て、ヴェルヴェットのようなスムースなメロウ・ラヴァー「Labyrinth」では、楽曲の世界観をしっかりと咀嚼したヴォーカルワークを意識するような感じも見受けられて、大人の色香を帯びた芳潤なスウィートネスが少しずつ顕われてきたような気もした。また、こじんまりとしたフロアながらも天井の高さがあり、音響も程よい高円寺HIGHのライティングも奏功。靄がかったなかに照らされるカラフルな発色や上から降りる白いピンスポットライトなどが、HALLCAのサウンドにクールネスと甘美をもたらしていた。

 約1ヵ月後の2月23日(水・祝)にはアルバム『PARADISE GATE』のリリースパーティも控えているHALLCAだが、そこへ向けても新年第1弾としても成長を窺わせた、期待が持てる滑り出しといえるのではないだろうか。




 トリを飾るのはガールズ・ラップ・デュオのhy4_4yh。実際にライヴを観賞するのは初めて。名前や存在は知ってはいたのだが、その当時はファンコット(インドネシアのダンス・ミュージック)をやっていた記憶(「ティッケー大作戦」とかスパンカーズ「Sex On The Beach」のハイパヨ流解釈的な「ティッケー・オン・ザ・ビーチ」とか)というくらい(2013年頃)なので、その後の音楽性は知らないままで体感することになった。

 新日本プロレスの内藤哲也のテーマ曲「stardust」が流れると、マスクを被ったDJ OHAKATをバックに、胸に“YAVAY”のロゴをあしらった黒いTシャツ&スカート姿のyukarinとchanchalaが登場。ヒップホップマナーの口上によるフリースタイルでフロアの温度を一気に上げると、そのまま「ハイパーズのテーマ」へ。どこかで聴いたフレーズだな(FC東京のチャント「ヴェルディだけには負けられない~」やベルマーレ湘南のチャント「勝つのは俺たち湘南だから~」に似ているな)と考えながら踊っていたら、ザ・タイマーズの「タイマーズのテーマ」(「モンキーズのテーマ」のパロディ)のフレーズのようにも聴こえてきた。続く「Hi-Tunes~party Yavay Anthem」は、“パーリラ パリラ パーリラ”みたいな飲み会コール(もっといえば、求人情報サイト「バニラ」の宣伝カーから流れる“バーニラ バニラ バーニラ 求人”のフレーズ)を組み込んだ風のパーティ・トラック。依然と変わらず“ヤヴァイ、ヤヴァイ”を連呼しているが、ファンコット・ラップ・ユニットなんかでは全然なく、大いなる勘違い、思い込みのまま、情報をアップデートせずに年を重ねてきてしまったと反省。

 自己紹介では“マイクロフォンNo.1~”“マイクロフォンNo.2~”と口上したり、薄っすらとRHYMESTERっぽさもあるなと思っていたのだが、後でオフィシャルサイトを見たところ、“RHYMESTERを師匠に持つ”としっかり記されてあった。どおりでラストに披露した楽曲に「肉体関係part2」などのRHYMESTERっぽいフレーズを組み込んでいる訳だと合点。曲名もRHYMESTER「人間交差点」(RHYMESTER主催のイヴェント〈人間交差点〉の名でもある)のアンサーソング的な「人間交差点 午前10時40分」と、“キング・オブ・ステージ”の名で馳せる師匠・RHYMESTERの影響を大きく受けた“クイーン・オブ・ステージ”として名を広め、闊歩してきたようだ。



 中盤で「尊敬する竹原ピストルのライヴを初めて観たのが高円寺HIGHだった」というエピソードとともに披露したのが、竹原ピストルのカヴァー「石ころみたいにひとりぼっちで、命の底から駆け抜けるんだ」。原曲はギターとともに一心不乱に言葉を囃し立てるように紡ぐ朴訥ながらもインパクトのある曲だが、ここではヒップホップマナーにアレンジしたかと思うと、後半にはヘヴィ・ロック調の脳天をつんざくようなエッジの効いたストイックな音を纏いながら、フロウを放っていく。

 RHYMESTERはもちろん、リスペクトしている竹原ピストルのほか、山下達郎や中島みゆきらニューミュージック勢、ザ・クロマニヨンズや斉藤和義などロック勢、落語家や新日系プロレスラーが好きなど、2人の音楽的ルーツや興味がヴァラエティに富んでいることもあり、多くを吞み込んだ良い意味での猥雑性が、ラップ・デュオとしてのセンスやコンビネーションにも繋がっているのだろう。いわゆるゆるふわ系ラップやアイドル・ラップとは一線を画した、ガールズ・ラップ・デュオとしてはハーコー(硬派)な部類のトラックも少なくない。しかしながら、硬派一辺倒でもなく、軽薄なパーティ・トラックも躊躇なく繰り出すなど、hy4_4yhならではのオリジナリティに長けているところがいい。

 どこか湘南乃風を想起させるヤンキーな世界観が滲み出る「蓮等 -hustler-」(曲調は異なるが、湘南乃風「睡蓮花」のタイトルにある“蓮”を使って“ハスラー”とするセンスとか)のようなモチーフがありそうな曲やカヴァーのほか、さまざまな楽曲の要素やフレーズを取り込んでいく雑食性はいたるところに散見され(たとえば、「人間交差点 午前10時40分」のアウトロが安室奈美恵「FUNKY TOWN」マナーっぽいT.Kura & michico夫妻らしい賑々しさがあるなと思っていたら、yukarinの好きなアーティストにしっかり安室奈美恵が記してあったり)、音楽を愉しみながら自分たちのスタイルへと落とし込んでいく手腕は、場数を踏んできた歴戦のツワモノの風格・貫禄とでもいえようか。さまざまに紆余曲折もあったようだが、16周年(!)の今年も着実に足跡を刻み付けていきそうな、ポテンシャルを実感したパフォーマンスだった。

◇◇◇

<SET LIST>
《仮谷せいら》
01 Odora Never Cry
02 フロアの隅で
03 (New Song) 
04 MYC
05 Colorful World
06 HOME

《HALLCA》
00 INTRODUCTION~Diamond(Yohji Igarashi remix)
01 Paradise Gate
02 Spiral
03 Fall Back asleep
04 Dreamer
05 Labyrinth
06 WANNA DANCE!

《hy4_4yh》
00 INTRODUCTION~stardust(Theme of Tetsuya Naito)
01 Freestyle
02 ハイパーズのテーマ(Inspired by THE TIMERS “タイマーズのテーマ ~ Theme from THE TIMERS”)
03 Hi-Tunes~party Yavay Anthem
04 石ころみたいにひとりぼっちで、命の底から駆け抜けるんだ(Original by 竹原ピストル)
05 蓮等 -hustler-
06 人間交差点 午前10時40分
07 OUTRO~stardust(Theme of Tetsuya Naito)

<MEMBERS>
仮谷せいら(vo)

HALLCA(vo,key)

hy4_4yh are:
yukarin / ゆかりん
chanchala / ちゃんちゃら

DJ OHAKAT(たかほくん)(DJ)


◇◇◇

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