「ああ、君達 どこへ行ってたんだね?」
常務が真顔で聞いて来た。
「何処って取引先の専務さんの接待じゃないですか」
「嘘だろ、専務は昨日脳梗塞で倒れられて 今は病院の集中治療室におられる」
「そんなあ、今日1日ご一緒でしたよ」
「嘘だと思うなら、この病院に行ってみるといい」
差し出された病院のメモにはさっき専務を送った病院の名前が書いてあった。
取り敢えず 小松と二人で病院に行ってみると 教えられた病院の集中治療室に専務さんは 面会謝絶の札と共に入院していた。
我々は 専務に用意された個室病室で 待たされる事になった。
…………………
椅子に座ってふと見上げると そこには今日専務に差し上げた 安っぽいジャケットが掛かっており 膨らんだポケットからは俺の小銭入れが出てきた。
俺は小松と顔を見合わせ しばらく寒い思いを味わった。
これ以上やりようが無い お手上げだ
「華岡さん、もう帰りましょう」
小松は恐がって震えが止まらない。
帰社して常務室にいって報告すると
「君達はいつもおかしな目に遭うね」
雲をつかむような話を 疑うことなく笑って信じてくれた。
だから俺はこの人とやっていけると思った。