まいど!にゃんこふです。
さて、不思議な話の続きです。また長いですが、お付き合いいただければ嬉しいです。
件の空家からの帰り道、金魚をどちらが飼うかK君と話しました。 我が家は…もう決まってます。
「世話もしないのに生き物拾ってくるな!」多分親にそう言われてしまいます。
K君ちには以前お兄さんが飼っていた熱帯魚の水槽やエアポンプなんかがあるとか。さすがお金持ち。という訳で金魚はK君ちへ。
翌日から登下校の時は金魚の話をしてました。お兄さんが早速水槽を立ち上げてくれたそうで、金魚も元気に泳ぎ、餌もよく食べるそうです。
「やっぱ一匹だと寂しいから今度○○池に魚採りに行こうぜ」
そんな話をしたのを憶えてます。
それから1週間程経った日曜の朝、K君がうちに来ました。手にはあの時のコーヒー瓶、中で金魚が泳いでいます。
私はK君に「どうしたの?」と尋ねました。するとK君は「金魚を元いた池に戻して来て欲しい」と言い、私に金魚の入った瓶を押し付けました。そして「後で家に来て」と言い残すと、そのまま帰って行きました。
私は状況が全く理解出来ませんでしたが、日曜と言っても特に予定もなかったので、言われた通り金魚をあの空家の池に返しに行きました。そしてその足でK君ちに向かったのでした。
エレベーター(!)で5階に上がり、ドアの脇に付いたボタンを押しました。すぐにK君が出て来て部屋に向かいました。
いつ来てもすごいな〜って思うK君の部屋。我が家の兄と供用の三畳間とは大違いです。広い窓から小さな我が家を見ていると、K君がお盆にカルピスとお菓子を載せて戻って来ました。氷が浮かんで冷たいカルピスを飲みながらK君に金魚の件を尋ねました。
以下はその時K君が話したものの要約です。
あの日金魚はすぐに水槽に移されました。早速近所の小鳥屋さんで金魚の餌を買い、金魚にやるとよく食べたそうです。餌をやり終えて机にむかっていると、そばに誰かがいるような気配を感じました。でも、そちらを見てもそこには水槽があり、金魚が泳いでいるだけです。その時は、水槽のエアポンプのモーター音だと思い、K君は視線を机の上の本に戻しました。
そして、この夜からK君は不思議な夢を見るようになったのです。
K君はなだらかな起伏のある草原に一人立っていました。目の前には夕焼け空が拡がってとてもきれいな景色です。その景色に見入っていると、ポンとK君の肩に誰かが手を置きました。驚いて横を見るK君。そこには見た事のないおじいさんが立っていました。白っぽい着物を着ているのですが、夕陽を受けて赤く見えます。 おじいさんは、どこか悲しそうな顔でK君を見ていましたが、何か言おうと口を開けたと同時にK君は目が覚めました。
その夜、K君は再びあの夕陽の草原に立っていました。おじいさんはK君の肩に手を置き隣に立っています。K君はおじいさんの顔を見上げました。おじいさんは何か話しているようですが、その声は聞こえません。
K君が何を言っているのか尋ねようとした途端に目が覚めます。
そしてその夜、K君はまたあの場所に立っており、隣にはおじいさんがいます。「おじいさん、何を言ってるの?聴こえないよ」今度はちゃんと言えたK君。
するとおじいさんは目から大粒の涙をぽろぽろこぼしながら、震える指先で前方を指差しました。その方向に目をやった瞬間、K君は目を覚ましました。
そして夜、K君はおじいさんの指差す方向に目を凝らしました。夕陽を受けてキラキラ光る湖が見えました。
「うん、きれいだね」おじいさんにそう言うと、頭の中に柔らかい声音が聞こえました。K君は、なぜかその声がおじいさんのものだと分かりました。
「ああ、きれいだろう。私はあそこで生まれ育ったのだよ。親も兄弟も友達もみんなあそこで生まれ育ち、そして死んでいった。残ったのは私だけになってしまったよ。でも、寂しい事なんてない。耳をすませば皆の声が聞こえるんだ…」何かを懐かしむように目を閉じたおじいさんの目からは、また涙が流れています。
「帰らないの?」K君は思わず聞きました。おじいさんが何か言おうとした時、K君の目が覚めました。
ベッドに起き上がり、K君は夢の事を考えます。さすがに連続ドラマのような夢を見続けているのですから、色々と考えてしまいます。なにより不思議なのは、夢の事をとても鮮明に憶えている事です。普通の夢は起きた瞬間に忘れてしまう事が多いものなのに…。「起きなさい、ごはん出来てるわよ」お母さんの声で身支度をするK君。ふと水槽に目をやると、金魚と目が合いました。
K君は水槽の横の餌の袋から餌をひとつまみ水面に落とします。ひらひらと近づき餌を食べ始める金魚。
その夜、同じ場所、同じ夕陽、同じおじいさん。頭の中に聴こえるおじいさんの声。おじいさんの顔を見ると、口は聴こえる内容とは関係ないように動いています。ぱくぱく…ぱくぱく…。「なんか金魚みたいだな」K君がそんな事を考えた時、おじいさんの声がはっきり聴こえてきます。「…もうじき仲間達の所に行かなければならない…」K君は驚いて聞き返します。「それって死んじゃうって事?!」おじいさんは小さく頷きました。そしてまた口をぱくぱくすると頭の中に声が聴こえます。
「死ぬ?そうだな、でも、もう一人でいたくない。早く仲間の所に行きたい…だから…あそこに帰らなければ…」おじいさんは夕陽に染まった湖を指差しました。
湖を見たK君は、ある事に気付きました。「あれ?あの湖の形って…」ここで目覚めたK君。
水槽を見やると金魚がこちらを見つめています。
K君は水槽横においてあったコーヒー瓶を取り上げました。
話を聞き終えた私は大きなため息をつきました。
「不思議な話だね…」そんな言葉しか出ませんでした。
「うん、でも全然怖い夢じゃなかった。きっと金魚はあの池に帰りたかったんだと思う。夢の中のおじいさんが指差した湖はあの池と同じ形だったもん」
「ふーん、でもなんで自分で行かなかったの?」
K君は少しバツが悪そうに言いました。
「にゃんこふってお化け屋敷とか肝試しとか全然平気じゃない。だから…」
「あ、Kやっぱり怖かったんだ!ひでー」
笑いながら二人は何もいない水槽を見ました。
長くなりましたが、これが子供の頃に体験した金魚の思い出です。
後年、学生時代に児童心理学をかじってた友人にこの話をしました。
「まずこのKって子はいいとこの子だよね。多分躾も厳しかったんじゃないかな。それで他人の家の池から金魚を持ち帰った、言い換えれば盗んでしまった事にプレッシャーを感じてた訳だ。それが夢に現れたって事だと思うよ」
「じゃあ俺が金魚持って帰ってても、あんな夢をは見なかったって事?」
「うん、お前にはそんな感受性はない」
ひでー(笑)