ブリューゲル展
画家一族 150年の系譜
2018年1月23日~4月1日
東京都美術館
ブリューゲル「画家一族」を確認してみる。
本展で取り上げられるブリューゲル「画家一族」は、本人、義父、子供2人、孫世代3人、曾孫世代3人の計10人である。
【画家一族の祖】
1)ピーテル・ブリューゲル1世
(1525/30〜69)
西洋美術史上燦然と輝く大巨匠。
生年・生地は不明。親の職業もおそらく不明なのだろう。
本展には、版画が出品されるが、素描はなく、ましてや貴重な油彩画が出品されるような凄いことはない。
と思っていたら、「ピーテル・ブリューゲル1世」の名が付された油彩画が2点、いったい何?
1点は「ピーテル・ブリューゲル1世と工房」とある《キリストの復活》(1563年頃、個人蔵)。本展のトップバッターを務める。
同構図の銅版画があり、その版画のためと思われるブリューゲルによる下絵素描が存在しているという。本油彩画と同じようなサイズの作品としてロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵の《東方三博士の礼拝》が挙げられる、としている。
もう1点は「ピーテル・ブリューゲル1世、ヤーコプ・グリンメル」連名の《種をまく人のたとえがある風景》(1557年、個人蔵)。
共作だが、主担当はブリューゲルで、その構成・構図はブリューゲルに典型的、アルプスの風景版画を思い起こさせる、としている。
ブリューゲルは、息子2人と娘2人を残す。息子2人は画家となる。画家一族のスタートである。
【油彩画2点?、版画9点】
【義父】
2)ピーテル・クック・ファン・アールスト
(1502〜50)
ブリューゲルの師匠。結婚時には亡くなっていたが、義父でもある。
本展には、油彩画1点、「ピーテル・クック・ファン・アールストと工房」とある《三連祭壇画》が出品。1点だけで画家の判断はできないけど、この画風はちょっとなあ。
【油彩画1点】
【ブリューゲルの子供の世代】
3)ピーテル・ブリューゲル2世
(1564/65〜1637/38)
ブリューゲルの長男。ブリューゲルが亡くなった時、まだ5歳前後。絵の手ほどきは女流画家としても知られた祖母(ブリューゲルの義母、ブリューゲルの師匠の妻)から受けたとされる。
ピーテル2世は「地獄のブリューゲル」と呼ばれたが、本展にはそれっぽい作品は出品されていない。ブリューゲル作品のコピーやブリューゲル風な構図の作品を量産したとされる長男らしく、ブリューゲル風の農民画4点が出品されている。中流階級を主な顧客としていたため、経済的に困窮した旨の説明あり。
ピーテル2世は、7人の子供を残し、1人が画家となる。ピーテル3世(1589〜1638/39)である。ピーテル3世は、父親と同様に祖父・父親の作品のコピーや祖父・父親風な構図の作品を制作したらしい。ただし、本展にその作品は出品されていない。なお、長男筋からはピーテル3世以降、画家は輩出していないようである。
【油彩画5点、素描1点】
4)ヤン・ブリューゲル1世
(1568〜1625)
ブリューゲルの次男。ブリューゲルが亡くなった時、まだ1歳前後。絵の手ほどきは祖母から受けたとされる。
ヤン1世は「花のブリューゲル」「楽園のブリューゲル」と呼ばれた。本展には、主に風景画が出品され、花の静物画は息子ヤン2世との共作1点。「銅板」油彩画の制作が多いらしく、本展には5点出品。上流階級を主な顧客としていたので、兄とは逆に暮らし向きは良かった旨の説明。
1625年にコレラで亡くなったヤン1世。
前妻との子供は5人で、うち3人はヤン1世と同じ年に亡くなったらしい(やはりコレラ?)。あと2人、息子ヤン2世は画家となり、娘パスハシアは画家と結婚する。
後妻との子供は4人で、息子アムブロシウスが画家となり、娘アンナは画家と結婚する。
【油彩画9点、素描14点】
【ブリューゲルの孫の世代】
5)ヤン・ブリューゲル2世
(1601〜78)
ブリューゲルの次男ヤン1世の息子。基本的には父親の作風を引き継いだらしい。
本展には、花の静物画3点、寓意・神話画8点、風景画8点などが出品。
ヤン2世は、11人の子供を残し、5人が画家となる(本展では2人が取り上げられる)。
【油彩画19点、素描7点】
6)アンブロシウス・ブリューゲル
(1617〜75)
ブリューゲルの次男ヤン1世の息子。ヤン2世は異母兄。
主に風景画、果物・花の静物画で知られる。本展では花の静物画3点、四大元素の寓意画1組・4点が出品されている。
【油彩画7点】
7)ダーフィット・テニールス2世
(1630〜85)
ブリューゲルの次男ヤン1世の娘アンナの夫。ブリューゲルとの血縁関係はない。
「農民の野外での祭りや祝賀の様子、酒屋や台所の風景など大衆的な題材」で知られる画家。割と各種展覧会でその作品を見かける感じ。本展には1点の出品。
息子ダーフィット・テニールス3世も画家となる(本展では取り上げられていない)。
【油彩画1点】
【ブリューゲルの曾孫の世代】
8)ヤン・ピーテル・ブリューゲル
(1628〜82)
ヤン2世の息子。父親と同路線、特に花の静物画。
本展には1点、花の静物画が出品。
【油彩画1点】
9)アブラハム・ブリューゲル
(1631〜97)
ヤン2世の息子。風景画、果物・花の静物画。18歳でイタリアへ行き、イタリア人女性と結婚し、ナポリで没。
本展には《果物の静物がある風景》などが出品。
本展では取り上げられていないが、5人の子供のうち2人が画家となる。
【油彩画4点】
10)ヤン・ファン・ケッセル1世
(1626〜79)
ヤン1世の娘パスハシアは画家ヒエロニムス・ヴァン・ケッセルと結婚、その息子。主に動植物がいる風景画など。特筆すべきは、細密画風な昆虫画。
本展にも、細密画風な昆虫画、それも大理石を支持体とする油彩画2点が出品。
本展では取り上げられていないが、13人の子供のうち2人が画家となる。
【油彩画2点】
以上、本展で取り上げられるブリューゲル画家一族は、本人、義父、子供世代2人、孫世代3人、曾孫世代3人の計10人。
本展で取り上げられない画家としては、孫世代1人、曾孫世代4人、玄孫世代4人がいる。ブリューゲルから世代が離れるほど、その活動、作品は分からなくなっているようだ。
本展では、ブリューゲル一族以外の画家の作品も18点出品されている。特にコメントしたい画家は、
マールテン・ファン・クレーフェ
(1527頃-81)
ブリューゲルが1525/30年生まれだから、ほぼ同世代。アントワープの聖ルカ組合への親方としての登録も、ブリューゲルと同じ1551年のことである。生涯アントワープにて活動。ブリューゲル風の農民画や群衆画をよくしたようである。本展の出品作では、農民画2点が印象的である。
【油彩画5点】
ブリューゲル画家一族およびブリューゲルと同時代の画家1名について、長々と記載した。
ただ、私的な関心対象は、やはりブリューゲル本人。
一族の画家たちには、ブリューゲル風の農民画・群衆画を除いて、関心薄である。