会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

欧州委員会グリーンペーパー「監査に関する施策:金融危機からの教訓」(会計・監査ジャーナルより)

会計・監査ジャーナル(会計士協会の機関誌)2010年10月号に「欧州委員会グリーンペーパー「監査に関する施策:金融危機からの教訓」」という解説が掲載されています。

金融危機を受けて10月に欧州委員会(EC)から公表された監査制度に関する報告書の内容を紹介したものです。ミシェル・バルニエという(たぶん)フランス人が責任者としてまとめたせいか、我々が比較的なじんでる英米中心の大手会計事務所の理屈とはだいぶ異なる主張を行っているようです。

当サイトでも一部の内容を取り上げましたが、その他の論点も含めて、気になる点を引用したいと思います。( )内はつぶやき的感想です。

・ECは、貸借対照表の実質を検証することに大きな重点を置き、コンプライアンスやシステムの作業(クライアントが第一義的な責任を有するべきであり、主に、内部監査人により行われる作業)にはあまり依拠しないという「基本に戻る」方法を検討したいと考えている。(リスクアプローチや内部統制監査はどうなる?)

・監査人は、(貸借対照表における)どの構成要素を直接検証したのか、また、職業的専門家としての判断、内部モデル、仮定、経営者の説明に基づき、どの構成要素を検証したのかについて開示できるのではないか。(監査報告書に監査のやり方についてごちゃごちゃ書くことに意味があるのか?)

・監査報告書と一緒に、又は監査報告書において、有益な情報(例えば、可能性のあるリスク、部門別の展開、商品リスク及び為替リスク)を提供することによって、利害関係者にさらなる価値を提供できないかどうか検討する必要がある。(二重責任の原則は?)

・監査人が入手できる情報で、公益に資するものについて、公表すべき範囲を検討することもできるだろう。このような情報には、以下のものが含まれる。企業がさらされている将来のリスク及び事象。知的財産に対するリスク。無形資産に対して悪影響が生じる範囲。

・今のところ、監査の焦点のほとんどは、歴史的情報に基づくものであるが、監査人が、企業が作成した将来情報の評価を行う範囲、また、監査人自身が、企業の経済上・財務上の見通しについて情報提供できる範囲について検討することは重要です。後者は、「継続企業」関連について、特に該当する。(基本的に監査の対象となりうるのは実績情報では?)

・ECは、企業自身ではなく、第三者(恐らく規制当局)が監査人の選任、監査報酬及び監査契約の継続に対する責任を有することにより、監査人の役割を法定検査(statutory inspection)のひとつとすることが実現可能かどうかを検討している。(全企業ではなく、大規模企業やシステミックな金融機関の場合を想定しているようですが、そうだとしても制度の枠組み自体を変える考え方です。監査人は役所の下請けになる?)

・(監査責任者だけでなく)監査事務所のローテーションの義務付けを検討するべきである。

・ECは、監査事務所による非監査サービスの提供の禁止の強化を検討したいと考えている。これによって、検査局(inspection unit)に通じる「純粋な監査事務所」を作ることができる可能性がある。(JICPAなどは監査法人の業務範囲拡大を主張していますが)

・もし、大手の監査事務所が損害賠償請求を受けた場合、それを満たす財政力を有するかどうかは確かではない。そこで、監査事務所が他から資金調達することができる別の構造を検討することには価値があるのではないか。(パートナーシップでは対応できないという考え方です。だからといって、外部(たとえば企業)から出資してもらえば、独立性の問題が生じます。)

グループ監査人は、グループの構成単位を検証するすべての監査人の報告書やその他の調書にアクセスできるようにすべきである。また、グループ監査人は、グループ監査意見を裏付け、それを抗弁するため、すべての監査プロセスに関与し、それに対する明確な概観を有するべきである。(親会社監査人は子会社も含めた連結全体の決算書にサインするのですから、これは理屈どおりなのですが、これを徹底すると、大手の会計事務所しか対応できず、後で出てくる寡占化を促すことになります。)

・中堅監査事務所が、大規模企業の監査の市場セグメントにおける活動的なプレーヤーになることによって市場を活性化させるため、共同監査の実務をもっと展開すべきである。(大手は、ただでさえ低下気味の監査報酬を中小事務所と分け合いたくはないでしょう。)

・共同監査は、大手監査ネットワークが破綻した際の監査市場の混乱を和らげる効果も有する。(日本でも金融庁による処分が引き金となったみすず監査法人の崩壊という事件がありました。)

・ローテーションの義務付けは・・・監査市場の活性化を促進させるものとしても有益である。

・ECは、「ビッグ4のみを選任する」という契約条項の問題についても対処する予定である。ひとつの方法として、大規模な上場企業の監査を実施する適性があることを正式に認める監査事務所の品質認証(制度)を創設することが考えられる。(日本でも公会計の分野ではとくに大手偏重という傾向があるようですが)

・ECは、加盟国、監査事務所、他の利害関係者と連携して、緊急時対応策について議論を行う予定である。緊急時対応策は、システミックな監査事務所が破綻した際に早期の問題解決を行い、監査サービスの提供が断絶することを防ぎ、また、市場における組織的なリスクの蓄積を防止することを可能にするものでなければならない。(海外の規制当局は、大手ネットワーク崩壊のリスクを非常に心配しているようです。日本の金融庁は、それとは逆に、深く考えずに厳しい処分をして、みすず監査法人を崩壊に追い込み、大混乱を招いた前科があります。)

・過去20年間に行われた大手監査事務所の合併の際の理由づけ(シナジー効果等)が現在も正当なものなのか、それとも、再検討する必要があるかについての見解を歓迎する。また、大規模なグローバル事務所によるシステミック・リスクを考慮して、過去数十年間に行われた合併は無効とするべきものなのかについての見解も歓迎する。(ビッグ4が分割されるようなことにでもなれば、日本の監査業界も大きな影響を受けます。)

当サイトの関連記事(ECの報告書を取り上げた日経記事について)

その2(中央青山への処分について)
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