会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

東証、幹事業務で新ルール 上場事前調査 厳格に

FujiSankei Business i. 金融・証券/東証、幹事業務で新ルール 上場事前調査 厳格に

東京証券取引所が、上場申請時の調査を厳格化するよう証券業界に求める方針を明らかにしたという記事。

「東証で上場申請を行う場合、幹事証券会社には東証社長あてに上場の推薦書提出が義務づけられているが、推薦書の内容は証券会社によってばらつきがある。新ルールでは、経営者の識見や内部管理体制、業績など具体的な上場適格性の情報を明示し推薦書に情報を盛り込むことを規則化する。上場適格性調査では上場申請企業の財務監査を行う公認会計士や監査法人への聞き取りも義務付ける。」

東証のホームページでみてみると「取引参加者における上場適格性に係る調査体制の整備について」(別表付き)(PDFファイル)という資料が掲載されており、パブリックコメントを募集中です。

上場時の証券会社による審査を強化するというのは正論だと思いますが、気になるのは、監査人に対する聞き取りを義務付けるという点です。

会計士は財務諸表監査を行うための能力を持ち、実際に手続も行ったうえで監査意見を表明するわけですが、それ以外の事項については、そもそも意見をいえるだけの手続を実施していないので、証券会社から求められても意見を述べられるはずがありません。また、意見を述べるべきでもありません。やるべき手続をやっていないのに意見を述べることは、職業倫理に反する行為です。

東証の資料では、「幹事取引参加者は、財務情報に関連する事項について上場適格性調査を行う場合には、上場申請者の財務計算に関する書類について監査を行う公認会計士又は監査法人から意見聴取を行うものとします」と書かれています。 意見聴取すべき「財務情報に関連する事項」に何が含まれているのかはよくわかりませんが、別表の方をみると、調査項目として例えば「・・・会計組織が、採用する会計処理の基準等に照らして、適切に整備、運用されている状況にあること」という項目があります。これはまさに会計にかかわる内部統制の整備運用状況をきいているわけですが、「適切に整備、運用されている」かどうかを判断する基準がなければ、(仮に意見を聞かれても)意見を述べることはできません。企業会計審議会の内部統制基準を使うとしても、内部統制監査の手続を実施していなければ、意見は表明できません(上場準備会社に内部統制監査を実施している例はきいたことがありません)。

こういうふうに考えると、監査人に意見聴取しても、実施した監査に関するもの以外で責任をもって回答できる事項はほとんどないと思われます。もちろん、証券会社が監査人とディスカッションを行って、監査人が会社に対して抱いている「感触」や「感想」を聞き出すことはできるかもしれません。しかし、書面に残して東証に報告できるような「意見」を聴取することはできないでしょう。

もしかすると、東京証券取引所は、監査人の役割について、あまり理解していないのかもしれません。
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