TBSが楽天に対して、買収防衛策を発動しないことを決めたという記事。
「(楽天は)TBSを持分法適用会社にすることを大きな目標としているが、TBSが極めて非協力的な姿勢に終始しており、実務的な協力はとても得られそうもない状況。20%以上を出資しながら敵対的状況にあるのは、一般的には考えられないことで、「連結決算にどう反映されるかは監査法人の判断による。現時点では分からない」(同)とやや悲観的な見通しを示す。もっとも、持分法適用会社にしても、実態的にはなんら変わりはないため、TBSが持分法適用になるかどうかは、楽天の株価に影響はなさそうだ。」
TBSが楽天の持分法適用会社になった場合の問題点については、日経金融(9月13日)(会計士協会の常務理事のインタビューあり)などでも取り上げられています。東洋経済のこの記事では大した問題ではないというニュアンスですが、監査する立場からすると難しい問題を含んでいます。
まず、楽天がTBS株の20%以上を取得した場合に持分法を適用しなければならないのかという点については、持分法適用は支配力基準ではなく影響力基準なので、20%保有していれば、役員の派遣がなくても通常は持分法適用になります。
持分法を適用するとして、楽天側は、まずTBSの資産負債の時価を算定する必要があります。負債の方は退職給付引当金などを除き簿価と同じと仮定しても大きな誤差はないはずですが、資産の方は(マスコミ報道によれば)含み損益のある不動産を多く抱えてようですから、それを正確に把握するためには、TBS側の協力が不可欠です。もし正確な算定ができないとなると、投資差額(のれん)の金額も不正確となり、正しい持分法の仕訳ができません。幸か不幸か、事業提携が進んでいないので、会社間取引のデータは不要のようですが、時価評価した資産のその後の動きや減価償却費の調整などの資料は継続して入手することが必要です。公表された情報だけで持分法の処理をするのは難しいと思われます。
もしTBS側が協力しない場合には、持分法の適正な処理ができず、監査意見も、不適正や意見不表明まではいかないとしても、限定付きの監査意見となる可能性はあります。へたをするとそのために上場廃止ということもあり得ます。
それでは、TBSは協力しないで放置しておけばよいのかというと、それもリスクがあります。TBSが楽天の財務諸表作成に協力しないために、楽天が上場廃止になれば、楽天や楽天の株主から訴えられるおそれがあります。
監査の面から考えると、楽天の監査人は主たる監査人、TBSの監査人は他の監査人という位置づけです。会計士協会の監査基準委員会報告書では、他の監査人は主たる監査人に協力しなければならないとされていますが、クライアントが敵対関係にあるのに、監査人だけ協力するというのは、守秘義務の問題もあり、現実的ではありません。
おそらく業務提携交渉とは別に、持分法適用のための最低限の協力はすることになるのでしょうが、話がつくまで楽天は決算も組めません。
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