報道されている東電支援案を取り上げた記事。
これを読むと東電の幹部には会計に関する誤解があるようです。
「「今のスキームでは、(賠償金の支払いで)純利益が残らず、上場企業として意味がない。純利益のなかから一部を賠償金に充てるようなスキームにしてもらいたい」(東電の勝俣恒久会長)。東電は26日、震災後初めてアナリスト向け説明会を開催した。出席したアナリストによると、勝俣会長は東電の先行きについて「賠償スキーム次第」との発言を繰り返したが、「東電の負担に上限が定められていない現在の案では『社債や株式に投資してもらえない』と訴えていた」(アナリスト)という。
報道された支援最終案は東電と電力業界が賠償金を負担し、東電が支払えぬ異常時に国が資金補助できるというのが骨子だ。支払いの主体はあくまでも東電で、東電の支払額に上限は設定されていない。」
東電会長のコメントから推測すると、賠償金は支払ったときに利益にチャージすればよいと東電は考えているようですが、前にも述べたように、会社は、現金主義ではなく発生主義で会計処理を行わなければならないので、今後見込まれる賠償額を見積もって、全額、一挙に計上しなければなりません。もちろん、後の会計期間で見積りが修正されて、損失が追加される(したがって結果として損失が分割して計上される)ということはあり得ますが、原則的には、一時に損失計上する必要があります(消費者金融会社の過払利息返還引当金などと同じ)。
会計監査人は、経営者とのディスカッションを行って、会計の理屈を説明し、理解してもらうようにすべきでしょう(相手にそんな時間はないかもしれませんが)。
「具体的な先行事例が水俣病を引き起こしたチッソだ。チッソは累計約3000億円の水俣病関連損失を計上し、現在も債務超過が続くが、法的整理や国有化に踏み込まなかった。債権者は一部債権の放棄や支払い猶予で対応。株式も100%減資されず、日本証券業協会のグリーンシート市場で現在でも取引可能だ。
チッソは法的整理という抜本策に踏み込まなかった代償で、水俣病が発生した1956年から50年以上経過した今でも債務超過が続き、再生が完了していない。・・・」
この記事では、チッソが悪い例として挙げられているようですが、これだけの大きな事故を起こしたのですから、東電がチッソのようになっても別に構わないのではないかと思います。もちろんいきなり破綻すると大きな悪影響が出るので、それは避けるべきですが、会社は資金繰りさえつけば、債務超過でも存続し続けることができるわけですから、資金繰りを支援する仕組みだけさしあたり確保すればよいのだと思います。
また、上場廃止になると株主が困るということはありますが、債務超過になると上場廃止というのは、証券取引所のルールなので、そのルールを変えれば、まったく問題はありません。ルールが変えられないのなら、グリーンシート市場に移ってもらえばよいでしょう。株価は期待できませんが、会社が存続するだけでも儲けものと考えるべきです。
福島第1原発:東電の賠償上限設定を否定 枝野官房長官(毎日)
福島第1原発:電力各社、株安連鎖…震災前に比べ2割(毎日)
東京電力救済案の本当の意図(ダイヤモンド)
東電は取引銀行も汚い!巨額賠償金、国民にツケ回し画策(夕刊フジ)
東電を潰さない政府案では国民負担10兆円、解体すれば0.9兆円で済む(現代ビジネス)
グル―ンシート銘柄制度について(チッソ)
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