これも中央青山監査法人への処分の記事。
会社法との関係で処分の影響を書いています。
「会社法は、監査法人が業務停止処分を受けると監査契約が無効になると規定。中央青山の監査対象のうち、会社法に基づく監査を受けている企業約2300社との契約はすべて無効になり、企業側は6月末までに株主総会で新たな監査法人を選任するか、処分期間終了時までの「一時監査人」を選任する必要に迫られる。」
これについて、関係する事項も含めて少し考えてみました。
1.「業務停止処分を受けると監査契約が無効になる」という根拠がどこにあるのかわかりませんが、会社法では以下のように規定しています。
「第三百三十七条
3 次に掲げる者は、会計監査人となることができない。
一 公認会計士法の規定により、第四百三十五条第二項に規定する計算書類について監査をすることができない者
(以下省略)」
業務停止中は監査をすることができないわけですから、これに当てはまるという解釈もあるのでしょうが、他方、7,8月中に何ら手続を実施しなくても、来年3月の決算の監査はできないことはありません。業務停止期間中も(手続の実施はできないが)会計監査人の地位にとどまることはできるという解釈の余地はないのでしょうか。業務停止期間中は会計監査人たる資格も失うというのであれば、業務停止が2ヶ月だろうが2日だろうが、大きな違いはなくなってしまいます。
2.「一時監査人」の選任は理屈の上では可能でしょうが、最終的な監査報告書は中央青山が出すのだとすると、一時監査人は2ヶ月間何をやっていればいいのでしょうか。単に名前だけ使わせるのであれば、職業倫理上禁じられている名義貸しにならないのでしょうか。また、2ヶ月間だけとはいえ、監査人になる以上、独立性に関するチェックを厳格に行う必要があります。報酬はほとんどもらえないのに、多大なコストをかけて、独立性チェック(株式の保有や人的関係など)を行い、同時提供が禁止されている非監査業務をやっていた場合には、そちらの契約を解除しなければなりません。そんなことをやってくれる人のいい監査法人はあるのでしょうか。
3.(3月決算会社の場合)6月末の株主総会で監査人の交代を行うことは可能なのでしょうか。まだどこの監査法人も3月決算の監査の最中です。最近公表された監査人交代に関する監査基準委員会報告書では、従来以上に業務の引継を重視しています。7月からは業務停止になってしまうわけですから、6月までに引き継ぎを完了させなければなりません。また、2で述べたように独立性のチェックを契約前に完了し、違反があれば速やかに解消しなければなりません。港陽監査法人の場合ですら大騒ぎになったくらいですから、たいへんな混乱が予想されます。さらにゴーイングコンサーンの注記がついているような会社は、引き受け手は現れないでしょうし、そもそも、各監査法人とも人手不足が続いており、仕事をとりたくても。人員を確保できなくてことわるケースが続出するでしょう。
4.7月から2ヶ月間の業務停止は、3月決算会社への影響を考えたもののようですが、例えば、資金調達のためにコンフォートレターを出してもらう場合には、7,8月になる場合もあります。業務停止だからコンフォートレターも出せないということだと、企業の資金調達にも影響します。また、東証マザーズ上場会社は、四半期決算に監査人の関与を求めているので、7,8月であっても影響が生じます。
以上のように、監査業界的には(そして監査先の企業にも)相当大きな影響が出てきそうです。受け皿法人の話が出てきたのも、こうした事情があるのでしょう。ちなみに、中央青山のプレスリリースでは受け皿法人については何もふれていません。PwCが中央青山から独立して設立するという建前にしたいのでしょう(そうでないと業務停止を実質的に免れるための脱法行為となってしまいます)。
補足:上記の「PwCが中央青山から独立して設立」は、いいかえると「PwCが中央青山とは無関係に設立」ということです。PwCのプレスリリースでは、「A permanent new and independent audit firm 」といっています。
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