のれんの減損と会計監査を取り上げた解説記事。監査報告書見直しの動きにもふれています。
「企業は将来得られる利益予想をもとに、のれんの価値を測る必要がある。そうした「減損テスト」が適正に実施されているかどうかを見るのは監査法人の役割だ。
監査の際、減損リスクなどを丁寧にチェックしようという流れが国際的に強まっている。英国では13年12月期決算から監査報告書の中で「のれんの減損に特に注意をはらった」など、リスクの所在が記されるようになった。「財政状態を適正に表示している」といった、そっけない結論だけを記す日本の報告書とは分量も体裁も異なる。
英国の「長文型監査報告書」は欧州連合(EU)に広がり、米国でも導入の検討が進む。日本では金融庁が16年3月にまとめた監査改革案の一つとして挙げられた。のれんの減損などへの監査は各国・地域で厳格化の方向にあり、東芝の債務超過転落もグローバルな潮流の中の出来事と読み解くことができる。
英国ではさらに踏み込み、どんな分野を重点的に監査すべきかについて、株主の意見や要望を反映させてはどうかという意見がある。実現すれば監査はより市場の視点を重視したものとなり、M&Aを実施した企業は投資家への説明責任が増す。東芝のような事例が増える可能性もある。」
長文式監査報告書というのは、国際監査基準の改正で導入され、日本の会計士協会もさかんに広報している監査上の主要な事項(Key Audit Matters :KAM)のことでしょう。のれん減損に関する監査手続などは、KAMとして監査報告書に記載しそうな事項の一つですが、それに限られるわけではありません。「監査の際、減損リスクなどを丁寧にチェックしようという流れ」自体は今に始まった話ではなく、従来から、見積りの監査などの論点として議論され、監査基準・指針にも取り入れられています。
日本の監査基準・指針は、国際基準に合わせるというのが大方針であり、KAMについても、そろそろ、会計士協会から、監査指針である監査基準委員会報告書の改正案が出て来てもおかしくない時期です(金融庁所管の監査基準の改正との関連はよくわかりません)。
会社があまり書いてほしくないことまで監査報告書に書くこともあり得るので、改正には経済界からの反対もあるでしょう。監査人側も、情報開示は会社の役割であり、監査人は開示が適切かどうかを報告するだけの役割であるという二重責任の考え方になじんでいるので、監査報告書にごちゃごちゃ書くような改正には抵抗がありそうです。
いずれにしても、監査基準に導入後は、「東芝のような事例」では、のれん減損だけでなく、他の会社の何倍もの事項を詳細に記載することになり、監査人が会社からチャレンジされる場面も出てくるでしょう。
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