三菱重工業のスペースジェット(旧MRJ)事業化凍結を取り上げた記事。日本航空元機長の航空評論家が書いています。日経の10月の記事(三菱ジェット、1兆円空回り)と同じような論調です。
「失敗の原因をまとめてみると、まず三菱が国産の軍用機などのノウハウだけで米国での型式証明が取れると思い込んでいたことだ。日本の工業製品のJIS規格では、現代の複雑化した高度のハイテク機の型式証明を米国で取得するのは困難であり、それを補うために米国やカナダから精通した技術者を早くから技術陣に加える必要があった。
だが、それに気がついて補強したのは2016年になってからだ。エキスパートと呼ばれる外国人技術者を300人規模に増やし、仕上げに2018年にボンバルディアで小型機のCシリーズの開発メンバーであったアレクサンダー・ベラミー氏をCDO(最高開発責任者)に起用した。しかし、時はすでに遅く、スペースジェットの基本的な設計に手を加える時間も余裕もなく、電気系統、配線など数千にのぼる箇所の修正に追われる日々が続いたのである。
そして、三菱航空機社内の人事紛争により、2020年6月にベラミー氏は退任。後任の開発責任者に国産戦闘機開発の技術者である川口泰彦氏が就任した。その流れで400人近い外国人技術者の多くが去り、7月以降は22人いた幹部社員が日本人のみの6人となった。社内には開発当初から外国人の手を借りる必要がないという意見も多く、このような内紛を繰り返してきたといってよいだろう。」
「...根本的な開発の未熟さも指摘しておきたい。スペースジェットの約7割は輸入部品から成っているが、自動操縦システムやFMS等はほかの航空機では実績があるからといって、それらを使い組み立てれば済むと考えたら大間違いだ。胴体や翼は国産であり、機体本体とそれら輸入部品、それに新型PW製エンジンを搭載した後のシステムのマッチングや安全性、さらに性能保証といった課題をクリアしてはじめて米国でも型式証明を取得することができる。
そのためには知恵と経験が必要なのである。2020年6月26日の株主総会で担当役員が「経験不足は否めない」と説明したように、民間ジェット旅客機の開発や製造に関するノウハウが欠如していたことに尽きるのである。」
巨額の税金も投入されています。
「スペースジェットのプロジェクトには国も支援し、その額は500億円ともいわれている。いわば官民一体となって国産初のジェット旅客機の開発製造に臨んできたものだ。しかし、国民の税金を投入して三菱側に計画を丸投げして損失を出した責任をどうとるのか。」
三菱の企業風土やマスコミについて。
「三菱重工はプライドがやたら高い企業としても有名であるが、それは今回のスペースジェットの開発製造においても表れている。ライバルのエンブラエル機を過小評価したり、外国人技術者より日本人の技術者でやっていけると考えたりしたことである。
しかし、今回の失敗の責任は三菱と国だけにあるのではない。今般の事業凍結が決まってからは、多くのメディアや識者は私がこれまで述べてきたような問題の一部をここぞとばかりに取り上げているが、これまでどうであったか。」
そのほか、ボンバルディアのリージョナルジェット機「CRJ」事業の買収についても批判的です。
三菱重工、旅客機開発凍結が物語る日本製造業の「ゲンバ」崩壊(現代ビジネス)
「国が機体の安全性を証明する「型式証明」はいまだに取得できていない。2020年3月期には減損損失などで2600億円強の費用を計上。すでに1兆円の資金が投じられ、経済産業省も支援の一環として500億円の国費を投じた。」
500億円といえば、今問題になっている日本学術会議の予算(年10億円だそうです)の50年分です。
「2016年にはそれまでの方針を転換、航空機開発の経歴を持つ外国人エンジニアの採用に踏み切り、300人以上の外国人が開発に携わってきた。ところが、各所で外国人技術者と日本人プロパー社員が対立、開発が遅れる大きな要因になったとされる。
2020年の年明けまでは「外国人技術者との融合」などを掲げていたが、新型コロナの影響が広がった6月には、最高開発責任者だったアレックス・ベラミー氏の退任や外国人技術者の100人規模への縮小を決定。7月1日付けで川口泰彦がチーフ・エンジニアに就いた。この段階で、早期の事業化を断念したとみていい。
ベラミー氏は英国のBAEシステムズから、小型機を製造するカナダのボンバルディアに移り、三菱航空機に入社する前の5年間はボンバルディアの小型旅客機「Cシリーズ」の開発メンバーとして計7機の飛行試験機に携わり、「型式証明」の取得などを担当、航空機開発のエキスパートだった。
日本人プロパー社員技術者には、自社の技術力は高い、という自負がある。外国人に頼らなくても飛行機は作れるという思いが現場での摩擦を生んだ。」
国産ジェットを「1兆円空回り」に終わらせた三菱重工の"変に高いプライド"(プレジデント)
「SJの開発と同時期にブラジルの航空機メーカー、エンブラエルも次世代の小型ジェット旅客機の開発を進めていた。民営化したこともあり経営や財務状態は安定していなかったが、実際に開発に先行したのはエンブラエルだった。苦戦する三菱重工を尻目に2018年に初号機の納入にこぎ着けた。」
中期経営計画(2021事業計画)について(三菱重工)
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