金融庁の「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」の12月4日分会議資料が公開されています。
資料を見ると、この回は、事務局から主な論点の説明があったようです。また、会計士協会からの委員によるそれに対する意見の資料も掲載されています。
以下、事務局資料から、論点として挙げられている箇所(四角で囲まれている)の一部。
Ⅱ.通常とは異なる監査意見についての説明・情報提供
監査報告書の記載
「 例えば、少なくとも、以下のような事項について明確に記載することが求められると考えられるがどうか。
・ 除外事項の内容について、具体的にどの部分が適正でなかったのか(どの範囲で監査証拠を確認できなかったのか)、
・ 収益や財務状況に対する具体的な影響額、
・ 除外事項の内容と具体的な影響額との間の因果関係」
「 監査人は、監査報告書の「意見の根拠」区分において、広範性の有無に関する判断についても十分な説明を行うことが求められると考えられるがどうか。」
「監査人は、意見不表明が極めて例外的な状況であることを念頭に置き、監査報告書において、受嘱審査での監査リスクの認識状況やその後の状況変化を含め、特に丁寧な説明を行うべきであると考えられるがどうか。」
求められる説明・情報提供
「(監査報告書にあらゆる情報を予め記載しておくことについては、現実的でない場合も想定される。)このため、監査人としては、経営者や監査役等とのコミュニケーションの状況や見解の不一致の有無等について、個別の状況に応じ、書面又は口頭で追加的な情報提供を行うことが考えられるがどうか。」
「追加的な情報提供の内容としては、どのようなものが考えられるか。例えば、少なくとも、次のような説明・情報提供を行うことについてどう考えるか。
・ 経営者や監査役等とのコミュニケーションの状況
・ 経営者や監査役等との意見不一致の内容
・ 具体的な監査手続や監査証拠に関する説明
・ 職業的専門家としての判断に関する補足説明 」
「監査人は、こうした会社法の趣旨や、会計監査に関する説明・情報提供の充実の要請を踏まえれば、会社法上の株主総会での意見陳述の機会を積極的に活用すべきであると考えられるがどうか。」
「特に、会社法第 398 条第 1 項が想定する局面においては、結論は株主の判断に委ねられることとなるため(会社法第 438 条第 2 項)、監査人は、財務報告の法令・定款適合性に関する意見不一致の内容及びそれが生じた理由、さらに、監査役等の意見にもかかわらず自己の意見が正しいと考える理由を株主総会の場で説明すべきと考えられるがどうか。」
「 無限定適正意見以外の監査意見の記載に係る適時開示にあたり、企業は、監査人の意見やその背景にある考え方が不正確な形で財務諸表利用者に伝わることがないよう、必要に応じて、監査人からの追加的な説明を転載するなどの措置を講じるべきと考えられるがどうか。」
「...監査人が監査報告書以外の手段で説明・情報提供を行う場合には、財務諸表利用者に公平に情報を伝達するよう、留意する必要があると考えられるがどうか。」
「監査人による説明のタイミングについては、企業側による情報開示と同様、適時に行われる必要があると考えられるがどうか。」
「例えば、株主総会において監査人が意見陳述を行った場合には、企業が総会後にその内容について適時開示を行うなどの対応が考えられるがどうか。」
守秘義務
「財務諸表利用者に対して監査人が自らの監査意見の内容やその根拠を説明する上で必要な事項を述べること、特に、無限定適正意見以外の場合に、当該意見に至った理由は、監査人の職業専門家としての判断の根幹部分であり、当該理由を説明する上で必要な事項を述べることは、「正当な理由」に該当すると考えられるがどうか。」
「監査人が株主総会に出席して意見を述べる場合、特に、会社法第398 条第 1 項が想定する局面において、監査人が、財務報告の法令・定款適合性に関する監査役等との意見不一致の内容及びそれが生じた理由、さらに、監査役等の意見にもかかわらず自己の意見が正しいと考える理由を説明する場合に関しても、必要な事項を述べることは、「正当な理由」に該当すると考えられるがどうか。」
「監査人が職業的専門家として財務諸表利用者に説明・情報提供を行う場合には、守秘義務が解除される「正当な理由」に該当することを、解釈上明確化すべきと考えられるがどうか。例えば、日本公認会計士協会倫理規則の注解や「職業倫理に関する解釈指針」などにおいて、「正当な理由」の範囲を限定的に解釈すべきでない旨を明記することが考えられるがどうか。 」
「前任監査人と後任監査人との間の見解が対立し、その調整がつかない場合には、財務諸表利用者に対し、双方の見解に関する情報が提供される必要があると考えられるがどうか。
その際、特に、前任監査人は、既に監査人としての立場にないため、監査報告書や株主総会での意見陳述以外の説明・情報提供の手段を講じる必要があると考えられるがどうか。」
Ⅲ.監査人の交代に関する説明・情報提供
「監査人の任期が通常 1 年で終了することからすれば、「任期満了」との記載は、交代理由の開示として不適切と考えられるがどうか。
また、「監査報酬に関する意見不一致」や「会計処理に関する意見不一致」といった交代理由に関しても、企業側と監査人側が具体的にどのような意見で対立しているのか、できるだけ実質的な内容を開示することが求められると考えられるがどうか。」
「交代理由の開示の充実については、少なくとも、公認会計士・監査審査会がモニタリングを通じて把握した内容(監査報酬、監査チームへの不満等の項目への該当の有無及びそれに係る具体的な説明)と同程度の実質的な情報価値を有する理由が開示されるべきと考えられるがどうか。」
「交代理由の開示の充実を図るためには、企業側が臨時報告書において交代理由に対する監査人の意見を記載するという、企業を通じた間接的な説明・情報提供に加え、監査人が交代理由を直接的に説明・情報提供するための枠組みの整備も必要と考えられるがどうか。」
「なお、監査人の交代に関しては、「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言においても、「監査人の交代の理由等についてより充実した開示を求めるとともに、例えば、日本公認会計士協会において、監査法人等が交代の理由等に関して適時意見を述べる開示制度を設けるなど、開示の主体やその内容などについて、改めて検討がなされるべき」とされていたところであり、関係者は速やかに具体的な措置を講じるべきと考えられるがどうか。」
これに対して、会計士協会からの委員の資料では、これらの論点の多くに対して反論しています。
そのうち、基本的な考え方の部分の一部。
「監査又は四半期レビューの結果に関するコミュニケーションは監査報告書又は四半期レビュー報告書(以下、まとめて、「監査報告書」という。)で行うべきである。監査意見やレビューの結論は、監査報告書において利用者にとって最も重要な情報であり、とりわけ、無限定適正意見以外の監査意見又はレビューの結論に関する除外事項は、監査報告書の利用者が理解できるように記載すべきということを基本的な考え方として明示すべきである。除外事項の記載が分かりにくいという指摘に対しては真摯に受け止めて監査人は改善に取り組む必要があると考えるが、監査報告書以外の手段で監査人の意見等に関する書面による情報提供は行うべきではない。」
「現行制度(株主総会の運営、臨時報告書や適時開示、監査人の守秘義務解除の正当な理由の範囲)が法又は制度趣旨に照らして不十分な運用がされていると考えられる点については、新しい制度を創設して屋上屋を重ねるのではなく、効果的な運用となるようにまずは現行制度の改善を図るべきである。」
通常とは異なる監査意見の場合に、監査人に新たな責任を負わせるというのは、それだけ見れば、制度がよくなったように見えるかもしれませんが、無難に無限定適正を出しておこうというインセンティブを高める隠れた影響もあるでしょう(実はそれが金融庁の狙い?)。監査制度全体としては、監査の質を下げる方向に働くおそれもありそうです。
漫然と無限定適正を出すことを戒める方向で議論すべきなのに、まったく逆の議論になっているようです。
そもそも、無限定適正以外の事例はほとんどなく、しかも、東芝のような問題事例はその中でも一部に過ぎません。そのような場合は、金融庁が会社と監査人を徹底的に調べて、結論を出せばいいだけの話でしょう。
監査人交代の開示にしても、会社と監査人の対立状況をそのまま開示するようになれば、かえって、会社と真剣に意見を戦わせることができなくなってしまうかもしれません。会社との間で波風立てない監査人が重宝されるようになり、むしろ、監査の質には逆効果となる可能性もあるでしょう(やたらと波風立てる人も困りますが)。
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