会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

ネットワン、過年度決算を修正 監査「限定付き適正」(日経より)

ネットワン、過年度決算を修正 監査「限定付き適正」(記事冒頭のみ)

ネットワンシステムズの訂正された過年度決算について、監査法人トーマツが「限定付意見」を表明したという記事。

「2015年3月期から20年3月期までの6期と20年4~6月期の純利益を合計13億2900万円減らした。同社は架空取引の影響額として20年3月期に同93億円の水増し分を損失処理したが、その後、さらに従業員の不正な資金流用が発覚していた。

監査法人トーマツは、十分かつ適切な監査証拠を入手することができず、売上原価に修正が必要か判断ができないと指摘。20年3月期まで5期と20年4~9月期の決算について「限定付き適正意見」を付けた。」

監査報告書及び四半期レビュー報告書における限定付適正意見に関するお知らせ(ネットワンシステムズ)(PDFファイル)

限定付適正意見の根拠の要旨が記載されていますが、金額についてふれていません。監査意見の限定は、限定された部分を特定しないといけないので、金額は必須です。「要旨」とはいえ、限定付意見についての会社の認識が不正確であるという表れでしょう。(監査意見に関する開示なのだから、トーマツもきちんと指導すべきでしょう。)

EDINETで2020年3月期の監査報告書をみると、以下のように記載されています。

「限定付適正意見の根拠

会社は、2014年12月以降の納品実体のない取引について取消処理しているが、取消処理した納品実体のない取引にかかる支出の一部が実体のある取引にかかる役務提供等に充てられていた可能性がある等の疑義が生じたため、社内調査を実施し、当該調査結果に基づいて連結財務諸表を訂正している。しかしながら、当該社内調査結果の一部については、その裏付けとなる十分な記録及び資料が入手されていないため、当監査法人は当該訂正処理の一部について十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった。

会社は、納品実体のない取引にかかる支出の一部に実体のある取引の原価を構成する役務提供等にかかる支出が含まれていた可能性に鑑み、不正行為による支出額の一部を実体のある取引の売上原価として追加計上しているが、当監査法人は実体のある取引にかかる役務提供等であることの裏付けとなる十分な記録及び資料を会社から入手することができず、売上原価に修正が必要となるかどうかについて判断することができなかった。この影響は、売上原価のうち、前連結会計年度279百万円、当連結会計年度147百万円である。この影響は、売上原価に限定されており、当該影響を除外すれば、訂正後の連結財務諸表は、ネットワンシステムズ株式会社及び連結子会社の2020年3月31日現在の財政状態並びに同日をもって終了する連結会計年度の経営成績及びキャッシュ・フローの状況を全ての重要な点において適正に表示している。したがって、連結財務諸表に及ぼす可能性のある影響は重要であるが広範ではない。」

これだけではさっぱりわからないし、そもそも、会社の規模と比較して、1億円~2億円台の影響額で限定をつけるというのも大げさなように感じます。

そこで、訂正に関する開示の方も見てみました。

2021 年3月期第2四半期報告書及び四半期決算短信の提出、並びに過年度の有価証券報告書等、決算短信等の訂正に関するお知らせ(ネットワンシステムズ)(PDFファイル)

限定をつけた事項に関連する訂正は、おそらくこれです(金額から推測)。



純利益ベースの累計で約12億円の訂正なので、それなりに大きなものです。これをみると、純資産への影響額もその金額だけ生じているはずですが、トーマツの監査報告書では、前期と当期のPL項目の対象額しか記載されていません。複式簿記なのだから、BS項目について記載すべきでしょう。そうでないと、前々期以前からの累積分(それについても監査手続はできていないのでは)の存在が隠されてしまいます。

ネットワンシステムズは、一度、3月に訂正報告書を出しており、そのときは「無限定適正」でした。再度訂正が必要となり、しかも限定をつけざるを得ないというのは、3月の訂正報告書の監査が甘かったのでしょうか。そのときも限定をつけていれば、少なくとも監査に関しては首尾一貫していたはずですが...。

外部調査委員会調査報告書公表に関するお知らせ(ネットワンシステムズ)(PDFファイル)(60ページほどの報告書です。)

社内調査チームによる調査結果に関するお知らせ(ネットワンシステムズ)(PDFファイル)

当サイトの関連記事(2020年11月)(四半期報告書提出期限延長申請について)

その2(2020年6月)(東証への改善報告書提出時)

大規模架空循環取引の震源地だった会社ですから、監査はいくら厳しくしても足りないぐらいのはずですが...。

コメント一覧

2つの限定付適正
監査基準上、広範ではないが重要な金額の虚偽表示が未修正だった場合の限定付適正意見には、未修正金額の金額記載が求められますが、広範ではないが重要な監査範囲の制約による限定付適正意見の場合は、そもそも金額を確定できないので影響金額の記載は求められず、代わりに影響する可能性のある項目の記載と、広範ではないが重要と判断した理由の記載が求められるものと理解しています。
トーマツの記載は、両者が混ざり合った記載になっているように見えます。科目と金額の影響金額を明記しているのに、「可能性のある影響」と記載していたり証拠を十分入手できなかったと書いていたり。
仮に監査範囲の制約なら、売上原価計上が147百万円間違っている(又は根拠なく計上されている)というような現状の金額確定的AR記載と整合しなくなると思われます。
kaikeinews
監査範囲の限定の場合でも、影響する金額の記載は必要でしょう。例えば、棚卸立会ができなかったという場合には、できなかった在庫の金額を記載するべきでしょう。また、会計処理の限定であれば、会計がある程度わかる人が読んで、訂正仕訳が頭に浮かぶように書いてもらわないと、役に立ちません。今回の限定は、範囲限定のように読めます。

いずれにしても、限定に関する記載が不親切のように思われるのですが...
2つの限定付適正
そもそも会社の適時開示では、監査範囲の制約による限定付適正意見のように読めますが(その場合は金額の監査報告書記載は求められない)、トーマツの2020年12月16日付監査報告書では、範囲制限ではない方の限定付適正意見のように読めます。後者の場合は不適切金額は特定しないといけないので、トーマツも特定して記載している模様。
記載の踏み込みが甘く、訂正仕訳の根拠が示されなかったとしか記載がない。本来、根拠を欠いた仕訳の起票は、それ自体を不正仕訳として指摘すべき所、遠回しに記載した結果、誤解を生む監査報告書の記載になっているように認められます。本来特損計上すべき損失が根拠なく原価処理されているという意味では?
そう考えると、BS影響額は解消されゼロのため言及不要になるかと。
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