会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

オービック、監査意見の限定が外れる

すでに一部で話題になっていたようですが、オービック(東証1部上場)の監査報告書(四半期レビュー報告書)が、2011年3月期の本決算から当期の第2四半期まで限定付意見(結論)だったようです。

上場会社で「限定付」となること自体まれなのですが、「限定」がついた理由も、教科書に出てこないような珍しいものです。

また、第3四半期では限定が外れているのですが、その経緯も一部不自然な点があります。

まず、限定意見ですが、以下のような文言となっています(当期の第2四半期の四半期レビュー報告書より「限定付結論の根拠」の部分のみ抜粋)。

「限定付結論の根拠

追加情報に記載されているとおり、会社は、2つの重要な非上場の債券に関し個別の信用リスクに応じた償還不能額を合理的に算定するに足りる充分な情報が得られていないため、取得原価をもって連結貸借対照表計上額としている。これは、当監査法人が前連結会計年度の連結財務諸表に対して限定付適正意見を表明する原因となっている。当第2四半期連結会計期間においても、前連結会計年度において限定付適正意見を表明する原因となった事項が解消されていないため、当監査法人は、当該債券に関連する会計処理に関し結論の表明の基礎となる証拠を入手することができず、これらの金額に修正が必要となるかどうかについて判断することができなかった。

取得原価をもって連結貸借対照表に計上されている当該債券の元本及び利息は、前連結会計年度の連結貸借対照表については、投資有価証券15,000百万円、未収入金(流動資産 その他)1,249百万円、長期未収入金(投資その他の資産 その他)1,589百万円であり、また、当連結会計年度の第2四半期連結会計期間の四半期連結貸借対照表については、投資有価証券15,000百万円未収入金(流動資産 その他)1,271百万円長期未収入金(投資その他の資産 その他)1,867百万円である。」

要するに、150億円も社債に投資したのに、その社債発行者が元金や利息をどれだけ支払えるかがわからない状態になっていたということです。

投資をした時点では、社債発行者がどのような財政状態か、社債発行によって得た資金が何に使われるのか、といったことを会社は把握していたはずですから(そうでなければ背任行為です)、その後、情報が取れなくなってしまったということになります。何か特別な事情があったのでしょうか。同社のホームページなどを見た限りでは、会社からの説明はないようです。

監査人としては、十分な情報(証拠)が得られない以上、その部分については意見を表明できません。限定を付けざるを得ないということになります。(限定をつけるに際しては、たぶん会社との間でさまざまな交渉があったと思われます。)

第3四半期では、限定は外れていますが、強調事項において四半期財務諸表の注記を参照するよううながしています。

注記を見てみると、2本の社債について、異なった会計処理となっているようです。

「投資有価証券等の連結貸借対照表計上額の算定

2つの重要な非上場の私募社債のうち12,000百万円につき、前連結会計年度以降、個別の信用リスクに応じた償還不能額を合理的に算定するに足りる充分な情報が得られておりませんでしたが、当第3四半期連結会計期間において当該情報が得られました。」

「投資有価証券評価損等の計上額の算定

2つの重要な非上場の私募社債のうち3,000百万円につき、前連結会計年度以降、個別の信用リスクに応じた償還不能額を合理的に算定するに足りる充分な情報が得られておりませんでしたが、当第3四半期連結会計期間末までに行われるべき利払いが無かったことを主要因に、金融商品会計に則った今後の回収可能額を算定した結果、減損処理することとし、当該債券の元本3,000百万円及び未収利息71百万円を特別損失として計上しております。」

120億円の社債の方は、情報が入手できたということですから、限定が外れるのは理屈に合っています。ただ、開示としては、情報を入手できた経緯などはまったく説明されておらず、実際に何が起きたのかはわからない状況です。

30億円の方は、全額減損処理しています。しかし、「利払いが無かったことを主要因」という点は引っ掛かります。評価減する以上、当然、債務者が本当に支払い能力がない状態なのか確かめる必要があります。利払いがなかったことだけで評価減をするわけにはいかないでしょう(「主要因」といっているので、他の要因も確かめた可能性はありますが)。

監査人も、もし「利払いがない」という以上の情報が得られなかったのであれば、30億円という評価損が正しいかどうかの証拠となる情報がないのですから、限定は付けたままにすべきであったと思われます。評価減したからいいというものではないでしょう。(貸借対照表計上額ゼロ円の資産に限定はつけにくいとは思いますが)

(2011年3月期有報より)


30億円の社債の方は「担保付」となっています。担保が付いているのに、100%評価減するというのは不可解です。

Aruji Group 株式会社(「Aruji Group」で検索すると出てきます。発行者がこの会社かどうかは未確認)

「2011年8月期売上:22億3137万円」だそうです。
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