会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

東芝不正で処分の新日本監査法人、解体の可能性も…会計士引き抜き争奪戦が加熱(Business Journalより)

東芝不正で処分の新日本監査法人、解体の可能性も…会計士引き抜き争奪戦が加熱

新日本監査法人を取り上げた記事。業界の現状を、比較的正確に把握している感じの記事です。

まず、金融庁による行政処分については...

「...今回の処分、監査実務を手掛ける公認会計士にとってはかなりショッキングな内容らしい。処分理由は虚偽記載のある有価証券報告書に無限定適正意見、つまり重大な虚偽がない有価証券報告書である、という内容の監査報告書を作成したというものだが、これまで処分対象になるのは、会社側と結託していた場合や、極めて重大な過失があった場合に限られるというのが常識だった。

 ところが今回は、「東芝の説明を鵜呑みにした」「批判的な観点から検証していない」「東芝が提出してきた資料以上の詳細な資料提出や説明を求めていない」、そして「経営者が使用した重要な仮定の合理性や見積りの不確実性の検討過程を評価していない」といった理由だ。

 問題となった工事進行基準は、経営者が対象事業に対して想定しているシナリオに従って費用と収益が計上されていくので、前提となっているシナリオの妥当性をより突っ込んで検証すべきだったのにしなかった、ということが理由になっている。これまでの常識に照らせばせいぜい業務改善命令どまりなのに、一部とはいえ業務停止処分が発動され、初の課徴金納付命令も出ている。」

金融庁の理屈では、東芝については、極めて重要な過失という判断なのでしょう。しかし、その場合でも、関与会計士個人の業務停止にとどめるのが、これまでの例でしたが、今回は、事前に、東芝よりも監査人のミスに焦点を当てるようなリークを行い、東芝監査とは直接は関係ない法人全体の業務管理体制にもけちをつけて、意図的に、限定されたものとはいえ法人全体の業務停止に追い込んでいったようにもみえます。

「市場参加者の憤りはなぜか粉飾を行った会社側よりも、見抜けなかった監査法人により強く向けられるのが常だ。企業は決算をごまかすもの、それを見抜くのがプロの役割、という意識が日本人全体の意識の根底にあるのかもしれない。過去の事例に比べ公平性を欠く今回の処分は、まさに世の中の空気を読んだものということなのだろう。」

金融庁自体に、会計や監査に関するしっかりした見方があるわけではないので、その場その場の政治的状況によって、処分内容はどうにでもなるのでしょう。しかし、会計士は、それではやっていられません。

ただ、会計士側にも、一部間違った認識が残っており、そういうのをつかれた面はあるのでしょう。

「「もともと監査は会社側が正しく作成したものを検証するものであって、不正発見を主目的にしたものではないが、社会の要請と批判に耐えきれず、監査基準に13年6月の改訂で不正リスクにも対応せよとの基準が設けられた。今回の処分理由は、この新監査基準を施行前の時点に遡って適用しているようなもの」(監査実務を手掛ける公認会計士)」

この会計士の発言は、明らかな間違いです。不正リスク対応基準以前から、監査基準では、不正か誤謬かにかかわらず、重要な虚偽表示がないことを確かめるのが監査だといっています。協会の監査基準委員会報告書でも、相当前から「不正」という報告書があります。結構有名な会計士でも、不正対応は、監査の目的ではないというようなことを言う人がいるのは、残念です。もちろん、会社ぐるみで、外部取引先を利用した複雑なスキームにより監査人をだましたような不正に関しては、監査の限界ということもあるでしょうから、処分を判断する際には、考慮すべきだと思われますが、不正だから監査人の責任なしとはいきません。

東芝の監査契約については...

「東芝自身も空気を読んだのか、新日本への行政処分がメディアで報じられ始めたあたりから、東芝「が」来期から監査法人を「変える」という報道も出始めた。同社が会見等で「変える」と発言していたため、メディアはその通りに報じたのだろう。経営陣も入れ替わり「過去の東芝と今の東芝は別の会社」という感覚もあるのかもしれないが、騙した側が騙された監査法人をクビにしてほかの監査法人に乗り換えるかのようなトーンの報道には違和感を禁じ得ない

新日本への行政処分発表と同日の12月22日、東芝は正式に来期の監査法人を新日本から別の監査法人に変えることを公表した。そのリリース上では「新日本から来年度の監査契約を締結しない旨の申し出があった」と記載しており、新日本が監査を降りるのであって、東芝が新日本をクビにするのではない、というのが事実だが、この違いがわかるように報じたメディアは筆者が知る限り皆無だ。」

記事の見出しになっている「会計士引き抜き争奪戦」については...

「それでは当事者である監査法人は、この事態に業界全体が一致団結して対応するのかと思いきや、その気配はまったくない。それどころか、墓穴を掘った新日本から、担当会計士ごとクライアントを引き抜くべくスカウト攻勢をかけ始めているのだ。」

「約2万8000人いる公認会計士の4割弱が4大監査法人(新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらた)に所属しており、公認会計士は会社員比率が高いが、一般の会社員との最大の違いは所属法人への帰属意識が希薄だという点だ。

給与所得者ではあるが、資格稼業なので監査法人をクビになっても食べていけるという理由で失業保険は対象外。重要なクライアントをグリップしている限り、移籍先で外様扱いを受けてみじめな思いをするリスクもない。

カネボウの粉飾問題で中央青山が業務停止処分を受けた際も、一部グループの独立他法人からの引き抜きで、中央青山はあっという間に解体に追い込まれた。当時は一部だけ業務停止にする制度がなく、いったんすべての既存監査先との契約を解除せざるを得なかった。監査先企業への影響が最も少ない夏場が業務停止期間に選ばれたが、いったん解除した契約先は、業務停止期間終了後に戻ることはなかった。

今回の処分は表面的には中央青山の二の舞になる内容ではないが、会計士の平均的なマインドを考えるとその可能性は否定できない。」

「一部グループの独立」はあらた監査法人の設立のことでしょう。また、(報道などによれば)「他法人からの引き抜き」はあずさ監査法人がひどかったようです。

中央青山の二の舞が生じうる要因としては、会計士のマインドだけでなく、金融庁の対応もあります。記事でもふれているように、金融庁は、昨年、監査人の評価ということを強調したガバナンス・コードを公表しています。作ったものは使ってみたいというのが人情ですから、ガバナンスコードが機能した実例を作るという意図で、新日本悪者説をこれからもリークし続けたり、改善計画に難癖をつけたりして、クライアントの離脱を促すことも考えられます。中央青山のときは、処分が不適切だったということで、金融庁への批判も一部生じたわけですが、会社側がガバナンスコードに従った結果だということになれば、責任を回避することができます。

業界への苦言も...

「今回の処分は監査の実務に携わる会計士にとって他人事ではないはずだ。不正の気配を感じ取ることはさほど難しいことではないだろうが、そこから先、抵抗する会社側を論破できるだけの証拠を掴むハードルがいかに高いか、監査の実務に携わっている会計士自身が最もよくわかっているはずなのに、明日は我が身という自覚をなぜ持てないのか。

 不正リスク対応基準が導入された際も、監査役との連携など、きれいごとに近い方法論が提示されただけで、不正発見のノウハウに乏しい会計士が全体の大半を占める現状をどう解決するのかは議論されないままになっている。

 大手監査法人がこの有様では、早晩同じ過ちが繰り返されることは間違いないだろう。」

少し古い記事ですが

みすず監査法人を解体させた「引き抜き」(日経BP)

「「あいつらだけは絶対に許せない」。記者会見の数日前、みすずのある幹部は目に涙を浮かべていた。

業務停止期間中、新日本製鉄、セブン&アイ・ホールディングスといったみすずの主要顧客から共同監査人に選ばれたのは、あずさ監査法人だった。内部統制監査や四半期決算を控え、監査法人はどこも人手不足。大企業グループの監査には100人が必要なケースもあり、これまでのあずさの陣容で対応するのは難しい。このためある大企業を担当するみすずの監査チームに「そのままそっくり移籍していただきたい」という露骨な打診があったという。こうした揺さぶりが、みすずの内部分裂の動きを加速させた。」

「みすずの解体について業界では「あずさの人材獲得戦略がきっかけになった」とささやかれている。」

こういうことでは、あずさ監査法人出身の現・会計士協会会長に、引き抜き防止などについてリーダーシップの発揮を期待することはできないでしょう。
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