会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

NEC:米国で上場廃止へ 決算報告書そろえられず

NEC:米国で上場廃止へ 決算報告書そろえられず〓今日の話題:MSN毎日インタラクティブ

先日も取り上げましたが、NECが米国で上場廃止になるという記事です(毎日新聞より)。

いろいろと考えさせられる点がある事例であり、少し整理したいと思います。

まず、問題となっている複合取引の会計処理ですが、記事でいっているように「会計処理上、企業は契約額のうち保守サービスが占める割合を算出し、製品と保守サービスの収益を分けて計上する必要がある」というのは理屈からいうとそのとおりであり、日本基準でも同じはずです。しかし、NECが日本基準に変更した際には、この点を是正したうえで変更したのかどうかが、よくわかりません。是正しないで日本基準に変えたとすれば、複合取引の処理も日本基準と米国基準の差異ということになります(もしかしたら、過去の年度はさかのぼって修正できなかったが変更年度からは正しくなっているのかもしれません)。

会計基準の差異としては明確になっていないが、実務のレベルでは大きな差がある会計処理が、まだ残っているということなのかもしれません。

次に監査の問題です。別の報道(日経新聞)では米国の監査法人が決算を承認しなかったと書かれていましたが、誤解を与えかねないいいかたです。以前はたしかに米国の大手会計事務所の名称で監査報告書にサインすることもあったようですが(ただし実際にサインするのは本家からサイン権限の与えられた日本の監査法人の国際部門のパートナー)、今は、日本の監査法人も米国PCAOBに登録させられ、日本の監査法人の名称で日本の監査法人の社員がサインします。これは、提携事務所のうちのどこか1事務所がへまをやった場合に、グローバル組織全体が訴えられないようにするという目的があるのでしょう。

ただ、NECのように米国の会計基準・監査基準を適用し、米国で資金調達するという場合には、最終的に米国の提携事務所が監査の承認権限をもっているようです。そこで承認してくれなければ、日本の監査法人が勝手に適正意見を出すわけにはいきません(法律上は出せないことはないがグローバル組織のルールに違反する)。

また、監査を受嘱した経緯にもよりますが、日本国内の監査チームも、NECぐらいの規模になれば、国内監査部門(米国基準をよく知っているとは限らない)と国際部門が共同で監査を行い、そこにアドバイザー(あるいは審査担当者)として米国基準に詳しい外人が加わり、さらに重要な問題が発生した場合には、米国の提携事務所と協議し承認を受けるというように、非常に大掛かりな体制でやっていると推測されます。NECの場合どうだったのかわかりませんが、監査チーム内や海外事務所とのコミュニケーション、クライアントの意見交換がタイムリーになされない危険性はあるように思われます(記事によれば会社は「監査法人から唐突に従来より厳しい監査基準を要求され、対応できなかった」といっているようです)。

日本の会計基準と監査基準を適用していれば、日本の監査法人の中だけでほとんどの場合解決するわけであり、それと比べれば、もともと非常にやっかいな問題を抱えているといえます。

ちなみに、それなら米国上場自体をやめてしまえといってやめてしまったのがイトーヨーカ堂ですが、NECとちがって自ら撤退したので、マイナス面はあまりなかったようです。
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